白昼夢の如く2

 ――ピンポーンとチャイムが鳴った。


 現実に戻された。

 誰だ。客?

 美桜から身体を剥がして、時計を見る。


「芝山君、じゃない?」


 言われてハッとした。忘れてた。約束。

 完全に頭の中エロモードで、ナニのことでいっぱいになってた。


「あ……ああ、うん……」


 美桜のシャツの中からスルッと手を戻して、大きく息を吐いた。

 興奮しすぎて、変に頭が覚醒している。


「行って、あげないの?」


 ものすごく良い気分だったのに、急ブレーキを掛けられてしまった。

 こんな興奮した状態で芝山を迎えるなんて、あんまりだ。せめて下半身だけでも落ち着かないと、変な誤解を生みそうで、俺は何とか頭を冷まそうと、両手で自分の頬を何度か叩いた。

 口を手の甲で拭って立ち上がり、部屋を出る前にひとつ確認。


「み、美桜も、一緒に勉強する?」


 服を直して、美桜はフフッと小さく笑った。


「どうしよっかな。手ぶらで来ちゃったし。でもこれ以上一緒にいたら、芝山君の前でも始めちゃいそうだよね」


 そうやってまた、俺のことわざと興奮させようとして。

 二回目のチャイムが鳴った。今度はガチャッと玄関扉の開く音も一緒だ。


『来澄ぃ~、起きてるかぁ~。芝山だけどぉ~』


 階下から声。

 ヤバイ、家に入って来てる。


「ちょ、ちょっと待って、今行く」


 美桜の答えを聞く前に、俺は慌てて部屋から飛び出し、階段を駆け下りた。玄関で、私服の芝山が待っていた。


「あ、ゴメン。起きてた。ちょっと色々準備が」


 青いチェック柄の半袖シャツにジーパンという芝山の格好は、さっきまでの美桜との甘ったるい時間をかき消すには十分すぎるインパクトがあった。オタクルックと言うべきかなんと言うべきか。なにせ、キノコ頭にデイパックもセットな訳だから、この上なく滑稽なのだが、本人は似合ってるつもりなんだろうなと思うと、なんとも微笑ましくなる。

 お陰で下半身の興奮はすっかり冷めて気が抜けた。

 俺がハハハと間の抜けたように苦笑いすると、芝山は機嫌悪そうに中指で眼鏡をクイとあげた。


「何でも良いけど、約束してたんだから、寝てるとかやめてくれよな。君が勉強でつまずいてばかりだと、ボクがレグルノーラに行くのに支障が出るじゃないか」


「へいへい」


「なんだよその適当な返事は」


 階段を上がりながら、芝山の来た超絶素晴らしいタイミングに感謝した。あと少しでも遅かったら、俺は完全に美桜を押し倒していた。そしたらきっと、そのことしか頭になくなって、芝山の押したチャイムの音に気が付くことはなかっただろうし、下手したら勝手に家に上がってきて現場を目撃されていたかもしれないのだ。


「そういえば、来澄って女のきょうだいでも居るの」


「へ? なんで?」


「女物の可愛いサンダルが玄関にあった。どう考えてもお母さんのじゃないよなと思って」


「あ……、それなんだけど……」


 首の後ろをボリボリ掻きながら、自分の部屋の扉を開ける。

 びっくりするだろうな、まさか美桜も来てるだなんて言ったら。付き合ってるってのは格好だけで、本当はそういう関係じゃないって言っておきながら、自分より先に美桜が来ていると知ったら芝山は変な顔をするに違いない。


「実はさ」


 苦笑いしながら部屋に入って……、辺りを見まわしたが、そこに美桜の姿はなかった。

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