敵か味方か2
「じゃーん。見ろ」
翌日の昼休み、芝山は白い紙を一枚、俺の前に差し出してきた。教室でぼっち弁当をしようと荷物を漁っていた俺は、手を止めてその紙を受け取った。
「なんだこれ。『同好会設置申請書』……。マジか」
美桜はどこかで昼を取っているらしく、既に教室から居なくなっていた。その席に芝山が短い足を組んで座り、後ろを向いて無理やり俺の机の上に自分の弁当箱を置いてきた。包みを広げて弁当を開け、箸を取り出しながら、
「仕事早いだろ」
と眼鏡を光らせた。
「仕事が早いのはいいけどさ……」
弁当を取り出し損ねた。
二人で同じ机の上に弁当を置くのもなんだか気持ち悪い気がして、というか、相手が芝山だったのがあまり嬉しくなかったというのが本音だが、仕方なしに自慢げに出してきた紙の中身を読み込む。
「『Rユニオン』……の“R”って、“レグルノーラ”の“R”……」
何というセンス。
もっと何かなかったのか。
俺は思わず顔をしかめた。
「あと、この活動内容欄。『並行世界RとR影響下における物理的概念の崩壊に対する研究と意見交流』……いや、あながち間違ってはないけど。これ、通ると思う?」
「通ります。通るに決まってます。オカルト研究会がOKで、RユニオンがNGなんておかしいし」
「おかしくないだろ……。ま、いいや。代替案もないし。顧問は……物理の古賀? いいのこれ?」
「いいのいいの。許可は取った。用紙を見せて、名前貸してくださいと言った。もちろん、古賀先生がテニス部の顧問なのは知ってますから、無理強いはしませんがと。先生は“物理”の字を見て、『いいよ』と言ってくれた。何の問題もない」
関わるようになってだんだんわかってきたが、芝山は案外強引な性格のようだ。これくらい強引じゃないと、帆船の
「い……いいならいいけど。『並行世界』ねぇ。大体、“あそこ”はそういう位置づけなわけ?」
「じゃ、来澄はどんな位置づけだと? あれか、ファンタジーっぽく“異世界”とでも称すればいいのか。ボクはそんな単純な場所だとは思わないけどね」
異世界というのが単純な場所かどうかはさておき、これで申請が通るなら確かに悪くはない。人数が足りて部室があてがわれれば、堂々とレグルノーラの話ができるわけだし。
「いいよ。これで。美桜には見せた?」
「これから。陣君にもこれから説明に行く。ここにサインして。申請者欄。五人分必要だから」
芝山はそう言って、ボールペンを渡してきた。既に代表者の欄には芝山の名前が書いてあった。その下の会員名と書かれた枠の中に、仕方なく名前を書き込む。
ペンと用紙を芝山に渡すと、彼は嬉しそうに手元のクリアファイルに戻していた。
「あとは須川さんの説得だけど。放課後、陣君と速やかに行う予定だから、報告まで」
もぐもぐと弁当を掻っ込みながら、芝山は言った。随分カラフルな弁当の中身。俺の弁当とは違い、野菜が多めだ。
「来澄は食べないの」
「え、あ……食うけど」
芝山と飯を食うのか。何か、一人で食ってた方が気楽でいいな。
芝山の弁当にぶつからないよう、端っこに寄せて開いた弁当に、芝山が反応する。
「唐揚げ。美味そう」
「あ……いる?」
「いいよ。取っても」
「ありがとう。じゃ、代わりに沢庵」
「え……!」
二度と芝山と飯は食うまい。
キノコ頭に食われていく唐揚げに、俺は固く誓ったのだった。
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