51.難題
難題1
「公序良俗に反する行為は見過ごせませんよ。来澄君……!」
と、あちこちではやし立てられる。辛い。
それもこれも、芝山のヤツが興奮しすぎたせいだ。
久々に学校に来て、やっと落ち着いたと思ったところだったのに。新たな問題が発生した。
「あれ、来澄って、そっち系だった?」
峰岸始め、クラスメイトが騒ぎ立てるのをうるさいと一蹴したいところだが、苦笑いでやり過ごす。ただでさえ自信のない顔が相当に歪んでいたことは想像に難くない。女子共のヒソヒソ声もやたら聞こえてきて、逃げたい気持ちでいっぱいだった。
当の芝山はというと、何かおかしなことでも起こりましたかねと言わんばかりに、いつも通りすました顔で机に向かっている。あの神経の図太さは見習いたい。眼鏡をクイクイあげる仕草をしながら、授業中、変なアイコンタクトを送ってくるが、俺には意味が分からない。これ以上の妙な動作は、それこそ周囲の誤解を生むだろうに、ヤツはそういう方向への想像力が欠如しているようだ。
休み時間になると女子共が芝山の前に集まって、
「ね、二人の関係はいつから? ねぇ、いつから?」
と好奇の目で聞いていた。
芝山は流石に顔を真っ赤にして、
「来澄君とはそういう関係ではありません。もっと深い関係ですから」
などと、更に誤解を生む発言をした。これがマズかった。
キャーキャーと奇声を上げる女子共は、奇っ怪な集団と化して、どっちが攻めだの受けだの、やっぱり来澄君が攻めでしょ顔的にだとか、いやいや、ここで芝山君が攻めだった方が萌えない? だとか、意味の分からないセリフを俺たちにも聞こえるように連呼してくる。
他に考えることはないのかというくらいクラスの話題はそのことばっかりで、俺はただ、美桜が休みで良かったと胸を撫で下ろした。
彼女がその場にいたら、怒り狂うどころの話ではなかっただろう。
いや、逆にアレか。変態と罵られ、近づかないでと冷たくあしらわれていた可能性もある。
この妙な雰囲気で盛り上がっているのも、もしかしたら美桜が居ないからかもしれない。
彼女が居たら、馬鹿じゃないのと場を白けさせてしまっていただろうから。
授業中も、やたらとあちこちからの視線が気になり、ノートを取りながらチラチラその方向を確認してしまった。男子は特にコレと言って普段と変わらない感じだったが、女子は酷かった。
ヒソヒソ隣同士でメモをやりとりしながらこっち見てニヤニヤしているのが数組。こっちを見ては肩を震わせた女子が数人。何を想像しているのか知らないが、何故に女という生き物は変な方向にイメージを膨らませるのだろう。
昨日黒い気配を発していた様に見えたあの須川怜依奈さえ、口元を緩ませて俺の方を見ていた。
それほど、衝撃的な出来事だったということなのだろうか。
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