最悪の勘違い3
眼前に青い光を放つ、大きな魔法陣が浮いている。周囲に書き込まれているのは、やはりレグル文字。よ、読めない。何の魔法――。
思ったのも束の間。
魔法陣から俺の方向へ、無数の氷の
嘘だ。こんな狭いところで。
周囲には人だかり。避けるわけにはいかない。
『シールドを張れ! 早く!』
俺が考えるよりも早く、テラが俺の腕を動かした。右腕が意思とは関係なく前方に突き出される。
ザクザクッと氷の
――“巨大なシールドで、攻撃を全て押さえろ”
『遅い!』
魔法陣が現れるより前に、力が働いた。透明な壁がドンと現れ、
『戦闘は常に時間との勝負。私が全て尻拭いしてくれると思うな』
「わかってるよ!」
青い魔法陣が消えた。かと思うと
「――出でよ!」
指先から新たな青色の魔法陣。サイズこそ小さいが、そこから天に向かい、うねうねと太く長いものが飛び出していく。透明な……、人の胴体ほどもある太さのアレは一体。
などと、考えている暇はない。
透明な何かは勢いつけて、俺の方へ向かってくる。ガバッと、口を開けるそれは――。
『凌、よけろ!』
が、間に合わなかった。そいつは俺の身体に真っ正面から、ぶつかってきた。
なんだ。
――水?
水の固まりが水竜のようにくねりながら俺の周囲に巻き付いていく。
水柱だ。水柱の中に、閉じ込められた。
砂漠のど真ん中で、コイツ、とんでもない魔法を。
噴水みたいに、水は空に向かって勢いよく流れ続ける。息が、息ができない。
水の勢いに負け、足は甲板から離れた。完全に、身体が浮く。
こんなところで息絶えるわけにはいかない。なんとかして、なんとかして脱出しなくては。
『苦しいと思ったら、負けだ。“イメージ”しろ。水中でも息はできる』
無茶な。そんなこと、できるわけ。
『“イメージ”がすべてを優先する。君は、そういう“力”を持っている』
またそんな、根拠のないことを。
『ここで死んだら、“向こう”でも死ぬ。忘れたのか』
忘れては、いないけど。
『だったら、“イメージ”しろ。水中でも息はできる。魔法も打てる。相手はコレで勝利したと思っている。今の隙に』
また……、とんでもないことを言い出す。
あと何秒息がもつ? 正直なところ、そんなことしか考えてなかった。
逆転の発想をしろってことか。逆さ吊りにされたときも、テラのヤツ、空に向かって重力が云々言ってたな。
水中でも息ができる。そう“イメージ”すれば苦しくはない。空気を吸うのと同じように水を吸い込んでも、息苦しくならない。酸素をしっかり肺に取り込める。
怖い……いや。怖くなんかない。この世界じゃ“向こう”の常識は一切通用しないんだ。水の中で呼吸するくらい、できて当たり前――。自分を信じるんだ。使い方はわからないが、“力”だけはあるらしい。それを上手くコントロールできるようになれば、怖いものナシって、そういう話だったはずだ。
大丈夫、大丈夫だから。
息が、息がもう、もたない。胸が、苦しい。
水を、水を思いっきり吸い込むんだ。そうすればきっと、呼吸が楽になる。酸素が取り込まれる。
大丈夫。大丈夫。
きっと、きっと大丈夫。
「――プハァ!」
思いっきり口を開けた。水が体内に大量に押し寄せる。喉が……鼻が、痛い。いや、痛く、痛くない。痛いわけない。コレで呼吸が楽になる。絶対大丈夫、大丈夫に決まってる。
『慌てず、ゆっくり息を吸い込むんだ。大丈夫。次第に楽になる。楽になったら目をしっかり開いて、相手を見ろ』
テラの言葉が励みになる。
そうだ。大丈夫だ。楽に……、楽になってきた。
水柱の向こう、
『その調子だ、凌。相手はコレで終わったと思っている。油断している隙に、魔法を打て』
魔法……。いくらなんでも、それは。
あんなんでもクラスメイト。傷つけるわけにはいかないだろうに。
『攻撃魔法だけが魔法じゃない。彼がもっともダメージを受ける方法で。しかも、相手よりこちらが優位に立てそうな魔法を』
無茶だ。テラは無茶ばっかり言う。
でも、そうでもしないと、誤解も解けない。話し合いにも応じてくれそうにない。
やるしか……ないか。
水柱の中に浮いたまま、俺はスッと肩の力を抜いた。
もう呼吸は随分楽になっていて、空気の中にいるのと変わらないほどだ。
右腕をグッと伸ばすと、水柱の外に手が出た。
「なに……してるんだ?」
水の中を、
「まさか、まだ生きてるのか」
その、まさかだ。手のひらに、少しずつ力を送る。テラに教わったとおり、ゆっくりと、力を集中させていく。
周囲のざわめきが、水の流れに溶けて聞こえる。
こんな状態で生きてるなんて誰も思わなかったろうし、俺だって思わなかった。恐怖かもしれない。それでも生きていられるのは、ここ“レグルノーラ”が、“イメージ”により力を増幅できる世界だから。
間に合うか。
金色の魔法陣を目の前に展開、文字を……急いで刻む。
――“帆船の
――“
魔法陣の寸前に
――“解け!”
明朝体の文字が魔法陣を埋める。文字を得た魔法陣は金色に輝き、光を放つ――。
が、魔法陣より手前に
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