抵抗は、許されない3

「切っかけさえあれば、鍵のかけられた能力の扉も簡単に開く。鍵さえ開いてしまえば、後はその使い方を覚えるだけ。何、難しいことはない。ほんの少し苦しいだけだ。その苦しみに耐えられれば、第二関門突破。そしたらお前はもっと強くなるし、上手く行けば“表”でも“裏”でもある程度の“力”を使えるようになる。……どうだ。面白そうだとは思わないか」


 ドレスの胸元から、谷間がくっきりと見える。艶やかな黒い肌に、窓からの日差しが当たって丸みを更に強調させていた。

 俺は必死に後ろ手で身体を支え、豊満な胸と唇の攻撃に耐える。


「思……い……、ます」


 違う意味で妙に興奮してしまう。

 理性を保て。内容を飲み込むんだ。


「本来発揮されるべき“力”を、お前がどれほど隠し持っているか、私はさっき垣間見た。いろんな“干渉者”を見てきたが、お前は実に面白い。美桜が興味を持つのもわかる。が、あのには、お前の“力”を引き出すことはできないだろう。お前が自分と違う種類の“干渉者”であることに、あのは気付いてないからね。……私なら、お前の“能力の解放”の手助けをすることができる。やってみる価値があるとは思わないか」


 ディアナは机の縁に腰かけて、キセルの先をクイクイ押し上げる。俺に同意を求めているようだ。柔らかい煙の匂いが、鼻の奥まで届く。

 彼女の言うことが気にならないわけではない。

 ジークも言っていた。“能力の解放”とやらが実現すれば、俺はもっと強くなれるのだろう。が、まだ“干渉者”として“裏の世界・レグルノーラ”に飛ぶようになってから数ヶ月。俺のような駆け出しが、そこまで期待される必要はないはずだ。

 ジークといいディアナといい、レグルの連中は一体何を焦っているんだ。

 冷や汗がたらりと、あごを伝う。

 ギリッと奥歯を噛んで答えに窮していると、ディアナは皆まで言うなと小さく笑った。


「私たちレグルノーラの人間が、どうしてお前なんぞに頼らなければならないのか。なるほど。その疑問、わからなくはない。“裏”のことは本来“裏”のみで解決するべきなのだからな」


 俺の気持ちを見透かして、ディアナはそう続けた。


「忘れて欲しくないのは、“表”と“裏”は一体であること。片方だけで解決できる問題ではないのだ。特に、“悪魔”に関しては。その脅威が“表”からのモノである以上、私たち“裏の人間”にはどうすることもできないことが出てくる。同時に、“裏”が関係している“表”での異常は、“表の人間”だけではどうにもならない。お前が知っている範囲だけで異常が起きているわけではないのだ。様々な事柄が積み重なり、簡単には解決できない状態になってしまっている。“表”と“裏”で協力し合うためには、互いの事情をよく知り、きちんと物事の善悪を判別できる優秀な“干渉者”が必要だ。お前はその、候補だ」


 彼女の鋭い目が、更に細く光った。

 候補。候補って何だよ。急にそんなこと言われても。どれだけ俺のことを担ぎ上げれば気が済むんだ。

 ディアナは、俺の胸ぐらをむんずと掴み、ベッドの上に放り投げた。力が抜け、抵抗できない俺は、いつのまにかディアナに押し倒されていた。左手で身体を支え馬乗りになった彼女の下で、俺は仰向けのまま身動きひとつできないでいる。彼女の長い緩やかなウェーブの髪の毛が、俺の顔の直ぐ近くに垂れていた。

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