第49話 捜査開始
俺たちはさらに事務室を漁る。
そろそろ騒ぎを聞きつけて職員たちがやってくるに違いない。
それでもやめる気はさらさらないがな。
「陛下。報告書を見つけました!」
ジョージが何かを見つけたようだ。
俺はジョージから書類を受け取る。
俺は中をパラパラと流し読みする。
どうやらこの書類は学長のサイン付きの正式なものだ。
だが途中で官僚が処理してしまうため最高責任者の俺に辿り着くことはない。
わかりやすく言うと内閣総理大臣に事故の調査書類がいちいち回ってくることはないということだ。
中にはモーリスが事故で三階のテラスから落下し、カフェテリアの天窓を突き破って床に叩きつけられたと書かれていた。
さらに俺が応急処置をしたこと、男子生徒でモーリスを運んだことが明記されていて、救助に関わった学生になんらかの褒賞を与えることを提案していた。
うっわー。なにこの無駄な気の回しかた。
モーリスよりも救助した連中に気を使ってやがる。
なにこの感じ悪さ。
俺は今度は必死に資料を読み込む。
さすがに判事の息子が怪我をしたのだからもっと詳しいことが書いてあるはずだ。
するとモーリスの怪我の詳細が書かれているページに行き着いた。
骨折はわかるだけで十数カ所。
この世界にはレントゲンがないから見逃されている箇所もあるだろう。
残念なことに俺は理系ではないので助けてやれないのが残念だ。
他の知識チート持ちならレントゲンをその場で作ったに違いない。
次に皮膚の損傷と突き刺さった木や石の破片について書いてあった。
それらは建物の破片だろう。
……と、思っていた俺は破片のリストに妙なものを見つける。
肩に突き刺さった棒。
なんだろうか? やけに遠回しな表現だ。
あえて枝と書かなかったと考えると矢かもしれない。
いや矢だったら矢とはっきり明記するだろう。
ここは矢と断言できなかったと解釈すべきだ。
矢尻や羽根がなかったのかもしれない。
俺はリストをさらに読み込む。
散乱した破片のリストに竹と書かれているのを発見した。
竹。
この世界では珍しい材料だ。
確かに竹林は学園内にある。
植物学科が栽培しているものだ。
なぜ竹がモーリスに突き刺さったのだろうか?
すると俺の脳裏にある仮説が思い浮かんだ。
「ソフィア、ジョージ、悪いけど廊下にいる連中を呼んでくれないかな。実験をしたいんだけど、たぶん一人だとできない。手を貸してくれ」
「御意!」
ホント正義の味方が好きだなこの娘。
ジョージは慌てて男子どもを呼びに行った。
だがその時だった。
廊下から怒声が響いた。
「どきたまえ! 君らはなにをやっているかわかっているのかね!」
「陛下の命により一歩たりともお通しできません!」
「また陛下か!!! 陛下は私たちになんの恨みがあるんだ!!!」
まったく酷い言いぐさだ。
俺は悪意を持って接したことはないぞ。
「ビーバス教官の件ですか。陛下はあれを事故だと仰ってます!」
ビーバス教官とは剣術教官だったビーバス卿のことだ。
子どもに偉そうに技を披露して自尊心を満たしたいがために教官になったというすがすがしいクズッぷりのお方だ。
俺は嫌いじゃないよ。そういう人。
ところが俺との練習で接待プレーをしようとしやがったのだ。
明らかに手を抜いて剣を振るビーバス教官。
俺はその顔面に拳を叩き込んでやったのだ。
俺にもささやかな自尊心がある。それを踏みつけられればカチンとくる。
それに明らかな差別を許すのは他の学生にしめしがつかない。
なので一発殴ってわからせようとしたのだ。
男には時に拳で語り合う必要が生じることがある。
俺の本気は伝えた。だから教官も本気で叩きつぶしてくれるだろう。
そして涙を流しながら男同士の暑苦しいハグをしていい話風にまとめて終了。
と、考えていた俺は底抜けのバカだった。
一発でKOしてしまったのだ。教官を騎士学科の学生全員の見守る前で。
自尊心を傷つけられた教官はその日のうちに辞職。学校を後にした。
正直反省している。
騎士学科の連中は好意的にとらえているが俺には黒歴史以外のなにものでもない。
余計な事を言う前にやめさせねば!
俺は慌てて廊下に出る。
やはりいたのは学長だった。
「はいはい。双方やめ! 学長先生。首謀者は私です」
俺はわざとらしく躍り出る。
「そんなのわかってます! 陛下、今度はなんですか!」
「今度は」って俺そんなに悪いことはしてないぞ! 失礼な!
少しムカつきながらも俺は冷静に返す。
「事故の調査ですよ。問題がどこにあるか。それが重要です。建物なのか本人が悩んでいたのか、それとも……」
「何者かによる犯行だと仰りたいのですか?」
まあその通りなんだけど一応否定しておく。
「あくまで可能性の提示ですよ」
「一体どういうことですかな?」
「それを今から証明しましょう。学長先生、講義の変更をお願いできますか?」
「陛下。さきほど会議で今日の講義は中止に相成りました」
「それは都合がいい。木工科の教授と護衛官の兵士に検証へご参加して頂きたい。ダズ、斧とナイフはありますか?」
俺は廊下にいたダズへ聞いた。
「作業用のものでよろしければ木工室にあると思います。ハルバードは兵士の詰め所にありますが持ち出しは許可してもらえないと思います」
刃のついた武器は学園に持ち込みができない。
学生どうしのもめ事に使われないようにするために俺が決めた。
これは騎士学科の学生でも同じだ。
例外として護衛の兵士やソフィアは携帯を許されている。
ただし学生に使わせるには許可書を学園側に出す必要があるのだ。
ただし斧やナイフ、包丁など生活必需品は学園内に置かれている。
「ハルバードはいりません。作業用のでいいです。悪いけど取ってきてください。ではみなさん外に行きましょう」
そう言うと俺は人混みをかき分けて外へ出る。
「陛下。なにをされるんですか?」
ソフィアが俺に疑問をぶつけた。
「たしか斧だけで作れたと思うんですよねえ。ソフィア、お願いがあります」
「はい!」
「私の検証が正しかったらすぐに第零軍を招集してください」
「は、はい!!!」
ソフィアは喜びながらも少し緊張していた。
第零軍。
俺が新設した軍だ。
女性のため騎士になれないソフィアも俺の一存で第零軍の所属になっている。
ソフィア以外のメンバーはハイランダーで占められていて将軍はハイランダーの族長であるゲイル、つまり俺の実の父だ。
と言っても第零軍は主に諜報活動を目的としているので組織を公表していない。
いわゆるお庭番みたいなものだ。
彼らは事実上、俺の私兵だ。俺が一番信用を置いている軍団だ。
つまり今この学園でそれだけの一大事が起こっている可能性があるのだ。
それには根拠があった。
前世の時の話だ。
テレビでアメリカの刑務所のドキュメンタリーがやっていた。
その内容は今でも憶えている。
ある受刑者が刑務所にある廃材やベッドの破片、電池やカーテンの金具からショットガンを作り脱獄したのだ。
しかも受刑者が武器を作るのは日常茶飯事だというのだ。
金属の欠片と木片からナックルダスターやナイフ、メイスなどを作り、果ては拳銃まで作ってしまう。
人間は作業用機械がなくても意外になんでも作れてしまうということだろう。
つまりだ。この学園に武器を作ってそれを使ったやつがいるかもしれないのだ。
もし武器を作って襲撃したとしたら相当な腕利きだ。
俺の予想が当っていたら学園の一時閉鎖もありえる。
だが犯人はしくじった。
俺のいる学園でやらかすとは。
と、格好つけたがあくまで仮説が正しければの話だけどな。
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