第230話「落伍者」Side:ガンジー
「包囲形成!」
「空海さん、指示を!」
「オン・アビラウンケン……」
ガンジー達は、既に巨大シリンダーの目と鼻の先に居た。だが、そこで彼等に試練の時が訪れていた。
「何だコイツら!」
得度兵器よりも遥かに小型な、手足を持つ機械仕掛けのロボット。意匠の一部に共通点こそあるが……そのシルエットは人間にも仏像にも似ているようで、何処か違う。腕が長く、腰の曲がった4足歩行に近い姿。加えてどれも、解脱武装を行使してくる様子はない。
いや、そもそもサイズ的にビーム兵器は搭載不可能であろう。つまり、人間を解脱させることはできない。今の得度兵器の規格(フォーマット)に反している。即ち、
「……施設の警備か、或いはメンテナンス用の機体か」
空海はドームの地下で見かけた警備ロボットを思い出していた。今彼等が囲まれているモノは、それよりも遥かに高度で、頑丈に出来ているようではあったが。
「そんなモンまで駆り出すほど、余裕がねぇってことだな!」
ガンジーはバン!と両手の拳と掌を打合せる。
「成程、そういう考え方もあるか」
既に周囲は僧兵が固め、一部の者は力の起動符牒である真言(マントラ)を唱え、徳エネルギー障壁の展開を行っている。解脱兵装は防げぬ薄紙程度の護りだが、無いよりは遥かにマシだろう。
「ここを越えりゃしまいだろ!」
人形、というよりも猿型の機体は、いまだ攻撃を試みる素振りは無い。隙を伺っているのか。統率が取れている。少なくとも烏合の衆同然のガンジー達よりは、遥かに。
厄介な敵になりそうだ、と空海は考え、僧兵達に指示を出していく。一方のガンジーは「なんとか振り切って強行突破できないものか」などと考えていた。
「『攻性』持ちは構えろ。合図をしたら盾を3秒切って狙い撃て」
促成栽培の僧兵達には、器用に『奇跡』を組み替えるだけの功徳も錬度も無い。従って、こうした集団戦法をとるのが関の山なのだ。
シールドを展開する僧兵達の後ろに構える僧兵達が、手に手に水や光、炎などを宿しはじめる。並んだ僧兵の頭部で反射された太陽光が、ガンジーの目に集中する。
「まぶしッ!」
「撃て!」
「飛翔せよ!」「穿て!」「削り取れ!」
ガンジーの反応に被さるように、壁が消える。掌大の火球、水流、光線といった飛び道具があちこちの猿ドロイド目掛けて飛翔する!
しかし、中々当たるものではない。まして相手は、避ける的だ。
3、2、1……
「止め!」
3秒。数体の猿ドロイドを破壊できた。空海は壁の展開を命じる。
……だが
「あ……」
僧兵の一人が再展開に手間取る。器用に力をオン・オフができる者ばかりではない。囲いに穴が生まれるは必定。そして、猿ドロイドがそこへ目掛けて殺到することもまた、必定。
「くっ……!」
肆捌空海が急ぎその穴を塞ぐ。
「すみません……!」
「謝罪は無用だ!このまま数を減らせば……」
「……ううん、それ、多分無理!」
ガラシャが空海の言葉を遮り、口を挟む。
「……数が増えてやがる」
ドロイドの数は、倒した以上に増えていた。何処かから、補充されている。拠点地下から湧き出ているのか。
「進まねば駄目か!」
人間サイズの躯体ならば、得度兵器よりは遥かに生産し易かろう。弾切れを期待するのは無理筋だ。
「強行突破する!鏃の陣形だ!」
「……それか、大本を叩くか、だ」
「大本?」
ガンジーは考える。あの猿ドロイドは得度兵器と同じ類のものだ、と。彼は「人間の姿の機械」を幾度も目にしている。
人類の到達点、舎利バネティクスの産物として。目の前の猿ドロイドは確かに厄介ではあるが、あそこまでの出鱈目な飛躍は感じられない。
端的に言ってしまえば、「得度兵器に近い匂いがする」。だが、その姿も役割も、得度兵器からはかけ離れている。ならば、
「……多分、どっかに頭がいる」
そう考えるのは必然だった。そして、その推測は事実『半分は』当たっていた。
拠点地下に格納された得度兵器、タイプ・アンテイラ。旧式タイプ・ブッダを改造した『司令塔』。
安底羅と呼ばれる、十二の護法神将の一つの名を冠したモノ。
だが、当たっていたのは、半分だけだったのだ。
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