第224話「他力」
「徳エネルギーのバイパスを逆に辿ればどうか」
その一言で。ガンジーは肆捌空海の方を見た。
「できんのか?」
そんなことが。施設内の徳エネルギーの供給ラインを『逆探知』するなどという真似が、果たして人間にできたものか。
いや、出来るのならばそもそもの話は変わる。バイパスは恐らく、得度兵器へエネルギーを供給する命綱。その『生命線』に添って動けるならば、得度兵器も迂闊には撃って来れまい。破壊工作を飛躍的に安全に行える。
「……詳細は省くが、地下の様子を覗く程度なら出来なくはない」
彼には、温泉を始めとする地下水脈の探査能力があった。それに徳エネルギーを扱う者特有の感覚を組み合わせれば、出来なくはない。万一の切り札として、あの少年の力もある。
そこまで詳しく聞かずとも。ガンジーは「そうか」と答え、しばし考え込む。
「いけねぇやな、視野が狭くなってやがった」
自分にできないことが、出来る者が居る。至極当然のことだ。それを、彼は知っている。だから此処まで進んで来れた。それを自覚できていた筈なのに。
だが、或いは、この拠点攻略作戦で重要な役割を担ったことで、心中に幾らかの自惚れがあったのやもしれない。
初対面の人間を信じきれぬこともまた、この徳なき世界では至極当然のことだ。それでも、明日が微笑むのは。全てを出し尽くした者にだけだ。
それに付け加えるならば、ガンジーは既に『この空海』の力を目にしている。命を救われている。
「出来るってなら、任せる」
ならば、命を任せることを今一度信じても良いのではあるまいか。
知恵を絞ることも。策を弄することも。情報を整理することさえ、自分では及ばない。だがそれはやはり、何も出来ないことを意味することは決してないのだから。
「心得た」
「だが、目標は3つだ。やっぱり時間が足りねぇ。だからまずは近くの2つを叩く」
幾ら得度兵器が冗長系を確保していようと。3つしかない動力炉の2つを潰されて無傷とは行くまい。それが彼の考えだった。
ガンジーが指し示したのは、拠点第一動力炉『仏』と第三動力炉『僧』だ。第二動力炉『法』は施設の北。手出しするには孤立を覚悟する必要がある。
「北へ向かえば、『増援』と鉢合わせする危険もあろう」
北には、恐らく得度兵器の主力が居る。そういう意味でも肆捌空海は北を棄てる作戦を支持した。
加えて、先程暴走した『無名仏(ネームレス)』。原因が分からずとも、得度兵器と幾度も戦った二人は、その『挙動のおかしさ』に気付いた。
有人化改造が仇となった可能性も無論ある。しかし、得度兵器の『内側』に、何かが起きている。その予感はあった。
彼等は、山を超えた遥かに北での戦いを知らない。漆黒の仏の姿を知らない。彼方での異変を知らない。
その根拠が覚束なくとも。彼等は、奇跡的に正着へ辿り着いていた。或いは、それが。この末法の世界に残された、数少ない御仏の加護であったのかもしれない。
「……とはいえ、北を避けても得度兵器と遭遇する危険はあるに違いはない。また、戦力を分けるのか?」
「いや……」
肆捌空海の言葉を、ガンジーは遮った。己の限界を思い出した為か。今の彼は、落ち着きを取り戻していた。
「片方は、俺の相棒に任せる」
即ち、後から来る筈の『本隊』にだ。
何かを為すには、時に信じることも必要だ。
ジャミングで通信がまともに繋がらずとも、情報を伝える術はある。彼等は急造の標識を作り、目標の手掛かりを残した。
後から訪れるクーカイ達が、必ずそれに気付くと信じて。彼等は再び旅立ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます