第223話「動力源」

「……そうか」

 ガンジーは呟いた。合流には成功した。だが、ドームのすぐ外側には、予想外の光景が広がっていた。

 瓦礫と化した機体。転がる二輪車。そして、飛び散る血痕のような何か。

 つい先刻までのこの場で、一体何が起こったのか、彼等には分からなかった。

確かなのは、また犠牲が出たことだけだ。だからといって、為すべきことは変わらない。先へ進むしかない。

 悔やむのは後でいい。今止まれば、悔やむことすらできなくなる。

 動力炉には未だ手が届かないが、既に先遣隊の到着が近い。一度、クーカイ達と合流すべきなのか。その後、あの「箱庭」とやらに立て籠もる手もあるのかもしれない。

「……どうする」

 せめてもう一度、通信を繋いで情報を共有すべきか。

 今は、ガンジーが全て決めねばならない。

 考えれば考える程に泥沼に嵌りつつある。整理を頼めるクーカイは居ない。


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 得度兵器北関東拠点の遥か上空を、機械仕掛けの巨大な鳥が大きく弧を描くように旋回している。拠点で発生した『異変』調査のために派遣された、タイプ・ガルーダである。拠点が把握する情報と、空からの観測を突き合わせ、その結果を得度兵器ネットワーク上へと送信しているのだ。

 タイプ・ガルーダの飛行高度へは、タイプ・ジゾウのスナイパーカノンですら増幅器(ブースター)を追加装備せねば届かない。兵器の類が衰退したアフター徳カリプス世界に於いては、高高度高速偵察機は殆ど絶対安全とも言える信頼性を誇り、その事実が得度兵器の衛星ネットワーク軽視にも繋がっていた。

 しかし、その得度兵器の『目』へ。突如として何発もの光弾が撃ち込まれる。

 巨鳥は表面で小爆発を起こしながら藻掻くように翼を羽撃かせ、部品を脱落させ、錐揉み状態に陥りながら墜落していく。同時に、その光弾が訪れた方角にあった不自然に巨大な雲が溶けるように消える。

 その中から現れたのは、人類最大の有翼航空機。トリニティ・ユニオン本社、『エリュシオン』の姿だった。

「……欺瞞の位置情報をもしないとは、我が妹ながら実に詰めの甘いことだ」

 抑、この機体には光学観測ですら『騙せる』水準の隠蔽機構が備わっている。地上支社が崩壊した今、何故馬鹿正直に衛星網に位置情報を上げていると思うのか。

「これで、機械共の目は塞いだ」

 墜落したタイプ・ガルーダは低空で辛うじて体勢を立て直し、軟着陸を試みているようだがその程度は些事だ。これ程の見物を、南極の裏切り者に無料タダで見せるのは勿体無い。

 何より、勝者となるには精度と確度を併せ持った情報は不可欠だ。それは、このアフター徳カリプスの時代とて変わりはしない。

「見届けるのは、私だけで十分だ」

 『エリュシオン』腹部の一画が開き、そこから長いテザーが垂れ下がる。その先には、『第二位』の予備躯体がぶら下がっている。

 紐の先端は徐々に高度を下げ、やがて地面へと接触する。

 拠点北の第二動力炉。『宝』の文字が大きく刻まれた巨大な宝塔型建造物の内部に、男は着陸した。その際に加減を誤って身体が半分程地面にめり込んだが、この程度は大した問題ではない。

 そして、動力炉と……その周辺構造物を一瞥して、

「やはり、『勝ち』は揺るがぬか」

 と。彼は呟いた。

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