第十二章

第105話「凱旋」

 虚しく往きて、実ちて帰る。

 その言葉通りに、彼等の旅は幾度目かの終わりを迎えた。

「道中、何度死ぬ目に遭ったやら……」

「そう言うな。成果は、それ以上だ」

 いつも通りに、ガンジーとクーカイ。二人の採掘屋は、彼等の街へと戻って来た。だが、この旅は、もはや彼等だけの旅路ではない。

 ガラシャ。ノイラ。同行者は、彼女らだけではない。幾台もの車列が、二人の車の後に続く。

 キャラバンによる集落の探索と、交易路拡大。得度兵器の撃退。エネルギー源の確保。あの勝利を切欠にして、緩やかに朽ち果てるのみだった黄昏の世界に、光が差しはじめた。彼らは、言わばその象徴だった。

 幾度かの旅程で幾つかの集落を発見し、得度兵器を破壊して得た徳ジェネレータを回収し、エネルギーインフラを整備し、交易を行った。現在までに発見された集落は、採掘屋達の村と同じか、或いはより小さなものしか無かったが、それは希望を抱くには十分過ぎる成果だった。

 得度兵器の支配の手が未だ及ばぬ場所には、遥かに大規模な、まだ文明の力を残している集団が居るやもしれないのだ。この黄昏の世界で、自分達が一人きりではないということが、どれ程心強いことなのか。

 ガンジーとクーカイの乗る大型車両が街に入るなり、方々から子供達が駆け寄ってくる。

「危ねぇぞ!離れてろ!」

 ガンジーが子供達を散らす。トレーラーめいた大型車両の荷台から戦利品が釣り下ろされる。

 硬く閉じた蕾のような形の、人間がすっぽり入るサイズの機械装置。嘗ての徳エネルギー文明の中枢、徳ジェネレータ。ガラシャの故郷を襲った得度兵器を撃退した際、鹵獲したものだ。

 それは、最初に二人が勝利を刻んだ場所。合計四機の得度兵器の無力化によって支配圏から脱した街を取り戻すため、得度兵器は大規模な侵攻作戦を行った。

 彼等は総力を挙げてそれを撃退した。その結果が、この凱旋だ。キャラバンの犠牲は、決して少なくは無かった。しかし、得る物はそれ以上に多かった。

 安定稼動可能な数の徳ジェネレータ。功徳を保った街との交易。もう、数ヶ月の命脈を保つためにソクシンブツを漁る必要など無い。アフター徳カリプスの世界に芽吹いた小さな種は、枝葉を茂らせようとしている。

「……だが、これが何時まで続くか」

 熱狂を、離れた場所から見つめる舎利ボーグの女、ノイラの顔は険しい。

 この狩猟採集が如き調達法には、何れ限界が訪れる。今回の大攻勢のように彼女自身が前線に出る機会が増えれば、遥か北で交戦した得度兵器が組織だって送り込まれるリスクも増える。そうなれば、この戦力では勝てまい。

 今はまだ、平気かもしれない。しかし、爆弾は着実に膨らんでいる。

 進むことのできる道は、限られている。得度兵器を狩るのを止めるか。それとも、戦力を蓄えるか。

 どちらに通じる道も、彼女は知っている。だが、何れも険しい道だ。そして、二つの道は同じ場所で交わっている。必要なのは、永続的な徳エネルギー源。或いは、戦闘用得度兵器に対抗可能な戦力。

 得度兵器勢力圏の遥かに北。奥羽岩窟寺院都市。僅か一つの小都市で、得度兵器との『戦争』を十年以上に渡って続けている集団。

 彼女が一時身を寄せていた、その場所に。この先へ通じる道はある。尤も、その時の彼女は、ノイラではなく別の偽名を使っていたのだが。

 彼女一人ならば兎も角。キャラバンが得度兵器の勢力圏を突破し、そこへ辿り付くとなれば、待ち受ける道のりの困難さは此れまでの比ではない。だがもしも、まだ彼女がつもりなら。いずれは目指さねばなるまい。

 得度兵器達に伍する性能を持った人間兵器、モデル・クーカイ達。そして、遥か彼方、仏舎利衛星の浮かぶ宇宙へと通じる扉を。




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ブッシャリオンTips シャリオン・ノヴァ(Lv 1)

 ノイラが奥羽岩窟寺院都市で使用していた偽名。ノイラ・H・Sという偽名は恐らくシャリオンの逆読みが由来であろう。シャリオンについては、由来は彼女の本名であるらしい。彼女が偽名を使い分けるのには、実はそれなりの理由が存在する。

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