第44話「欠陥」

 徳無きアフター徳カリプスの世界において、唯一永続的なエネルギー源たる仏舎利の保有は大きな優位アドバンテージとなる。それは、唯捨て去るには余りにも惜しい可能性だ。

 ……だがその優位アドバンテージを欲するのは、人間だけではない。アフター徳カリプスにおいてエネルギーの大半を消費する存在は人類ではないのだから。

 

 

 南極の地下で、田中ブッダは頭を悩ませていた。得度兵器を破壊する『何者か』の追跡は芳しくない。何故なら、彼等の向かった先は得度兵器のだからだ。

「得度兵器には、大きな弱点がある」

 田中ブッダは誰に聴かせるともなく独り言を呟く。これは大昔からの彼の癖だ。

 得度兵器は、基本的には得度兵器というシステム自身の自律改良によって進化を続けている。改良と製造を行える設備は世界に幾つか存在するが、南極にあるものはその中でも最大の部類だ。

 だが、この徳カリプス後の十余年で彼等はあまりに急速な進化を遂げてきた。故に、決して少なくない数の綻びが存在する。その中でも最大のもの、

「それは、燃費だ」

 現行の得度兵器は燃費が悪すぎるのだ。

 もとがエネルギーに困らなかった徳エネルギー時代の設計なのだ。燃費効率などろくに考慮されていない。その上、基礎設計を変更しない自律改良による巨大化・発展。燃費を考慮しない設計余剰が大型化を許容した側面もあるが、結果として陸上型得度兵器の連続行動時間は恐ろしいまでに短縮されている。

 内部に徳エネルギー源……つまりは人間を搭載すれば多少マシになるが、それとて中の人間の生命維持が問題だ。

「せめて、誰か……専門家さえ居れば違ったのだろうが」

 機械的な最適化と田中ブッダ一人の技術力では、そこまでが限界であった。彼は、根本的には理論屋だ。徳ジェネレータのような徳エネルギー関連技術ならばまだしも、機械の構造には疎い。得度兵器のような複雑なロボットの基礎設計に手を付けるレベルには無い。

 無論、田中ブッダも得度兵器達も無策ではない。製造設備の周囲に『陣地』を構築し、その内側に補給拠点を作りながら行動範囲を広げているが、この調子では時間がかかりすぎる。

 だが、仏舎利があれば話は全く変わる。仏舎利を搭載した得度兵器を製造することさえできれば、無補給で永遠に活動する得度兵器を製造することができるのだ。効率は格段に上昇するだろう。

「とはいえ、仏舎利はまだ足りぬ」

 得度兵器によって回収されたサンプルは3つ。回収失敗、ないし人類側の手に渡った物も、恐らく同数程度。残りは未だ空の上だ。

 尤も、今の人類に渡ったところで冷暖房や照明に使われるのがせいぜいだろうが。仏舎利搭載型得度兵器を運用するにはまだまだ数が根本的に足りないのも事実だ。

 大いなる争奪戦グレート・ゲームの行方は、未だ予断を許さない。


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「大僧正は、これを空に返せと仰っていたが……」

 肆捌空海は部屋に置かれた仏舎利カプセルで暖を取っていた。カプセルの表面は、仏舎利から放たれるエネルギーによって仄かに暖かい。

 彼には迷いがある。仏舎利を惜しむ心だけではない。何故、このカプセルがこの都市へ降りてきたのか。そこに何らかの導きを見出しているところもある。

 肆捌空海は静かに瞑想する。都市にとって、人類にとっての最良の道は何であるのかを。

 瞑想は数時間に及んだ。その果てに、彼は啓示を得た。


 仏舎利を都市へ置いておくのは災の元である。大僧正は間違っていない。だが、仏舎利という可能性は……人類によって必要なものではないか。

「ならば、取るべき道は一つ」

 肆捌空海は仏舎利カプセルを行李へ仕舞いこみ背負う。

 仏舎利カプセルを遠くへ捨てて来ればよいだけのこと。出来ることならば……この街の外の人間の目の触れる場所へ。

 それを成し得るのは得度兵器の防衛網を突破可能な自分達以外に居まい。街の守りも短期間ならば何とでもなろう。その上、このカプセルを得度兵器が狙っているならば、自らを囮にすることもできるやもしれぬ。

 肆捌空海は覚悟を固め、部屋の外へ踏み出す。だがそこには

「拙僧も付いて参ろう。なに、鉾が居らんでは心許なかろう」

 静かに佇む壱参空海の姿があった。



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ブッシャリオンTips 肆捌空海

 後期型モデル・クーカイ。最晩期に製造されたこともあり、最も安定した固体の一つ。徳エネルギー操作能力は防御力場の形成と温泉探知。都市の中では事実上の前線指揮官を務めている。 攻撃力:低 防御力:高 感知力:中 持続力:中 成長性:高

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