第三章
第21話「解体と戦果と」
人類は善行により生まれる功徳をエネルギーに換え、史上最も豊かで幸福な文明を作り出した。
だがその文明は徳を積み過ぎた人類の連鎖的解脱と、一瞬にして解放されたエネルギーが齎す文明破壊の惨禍……徳カリプスによって一夜にして崩れ去った。
徳無き荒野の中、それでも人類は生き続けている。
「これ、何だろな?」
ガンジーは、小さな部品を弄ぶ。
「ガンジー、それ位にしておけ。珍しいのはわかるが、遊んでたら終わらんぞ」
「いや、すまねぇクーカイ……しっかし、壮観だな、こりゃあ」
二人の男と、一人の少女。その眼前にあるのは……半ば解体された、巨大人型機械の上半身である。
得度兵器。徳カリプスによって全人類を出家・解脱させる使命に目覚めた機械知性体。人類最大の脅威であると共にアフター徳カリプス時代の支配者であるそれは今、二人の手により無惨な姿を野に晒していた。
「……意外となんとかなるんもんだな」
クーカイは呟く。
機能停止から既に数時。時刻は夜明け前。
「そろそろ、里の奴らが起きちまう頃だな」
「かといって、ここへは来れまい」
外装を発破の残りで吹き飛ばし、二人は得度兵器の解体を進めていた。内部構造を剥き出しにするところまでは力技で何とかなったが、ここからはそうも行かない。
「ガンジー、光っている部分は、恐らく徳エネルギーのバイパスだ。気を付けろ」
得度兵器はロストテクノロジーの産物である。仕留めた話はおろか、遭遇情報すら希少。内部構造に関する情報はゼロに近い。加えて、二人は機械にこそ多少詳しいものの、徳エネルギーに関する専門知識はほぼ皆無。
「ばいぱすって……触るとどうなんだ?」
少女は、その様子を目を輝かせながら見つめている。
「なぁ、あいつなら何か知ってんじゃねぇか?この街の人間だろ」
「ガラシャというそうだ。流石に何も知らんとは思うが」
「そうかよ。しっかし、何で身体張ってまであんな娘……」
そこで、ガンジーは何かに気付いたかのように言葉を切る。
「まさか……お前……あのくらいの子が好みなのか!?」
「違う。いや、何故そうなる」
「わかる。お前、女の話とか全然しねぇもんな」
茶化しあってこそいるが、二人は正直少女を扱いあぐねていた。
「あの……」
そこへ、少女が恐る恐る口を開く。
「ああ、安心してくれ。さっきの話は、事実無根だ。このバカの妄想だ」
「いてっ!」
クーカイはガンジーの頭を一発叩き、少女の方へ向く。
「たすけてくれて、ありがとうございます」
その言葉に、どことなくバツの悪い顔をするガンジー。一度見捨てる選択をした少女を前に厚顔では居られない。
「うんまぁ……どっちかというと、助けたのはクーカイだしな」
「当然のことをしたまでだ」
当然。それがどれ程得難いものであるのか。ガンジーと少女はそれを、よく知っていた。
「それで、その」
「ん?」
「すまんな。コイツの解体を終わらせないとならん、家まで送るのはその後に……」
クーカイの言葉に少女は首を振る。
「……わたしを、つれてって」
少女は拳をぎゅっと握り、言葉を継ぐ。
「だから、家には……」
「わたしを……この街から、連れ出してくれませんか」
クーカイの返答を遮り。そう、少女はゆっくりと言い直した。
「駄目だ」
ガンジーが即答する。これ以上、厄介種を抱え込むわけには行かない。そして彼女が居れば……クーカイは、また無茶をしかねない。当然の判断だ。
「でも、わたしを家に返すの……無理、ですよ」
しかし、少女は確信していた。これは通せる要求だと。
少女は遠い斜面を見遣る。徳エネルギー兵器の傷跡が残る、直線の『道』。一軒の民家を貫通し、解脱エネルギーによって木々を薙ぎ払った破壊の痕跡。
「……わたしの家、あそこ、ですから」
ガラシャの家族は、正にその家に住んでいたのだ。
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ブッシャリオンTips ガラシャ
徳溢れる街に住まう少女。名前は徳ネームである。年齢は10代前半。徳を積み、得度兵器の力で解脱に至るという半ば新興宗教化した徳至上主義の中で生きてきたが、その『教義』に疑問を抱く。しかし彼女自身は決して悪人ではないため、それなりに徳を積んでいる。
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