第13話「共存」
ズズーン……ズズーン……
大地を震わせながら、巨大仏像型得度兵器タイプ・ミロクMk-Ⅱがガンジーとクーカイに迫る。このままでは、彼等は徳エネルギー兵器によって瞬く間に解脱させられてしまうであろう。
「逃げるぞ!おい!」
ガンジーはクーカイを引き摺るようにして走る。幸い、得度兵器の移動速度は遅い。
「クーカイ、おいクーカイてめぇ!呆けている場合か!」
「……逃げて、どうする」
だが、クーカイは諦め始めていた。無理も無い。得度兵器という未知の脅威。しかも、それを呼び覚ましたのは彼等自身なのだ。自業自得である。
「このまま成仏すれば、お前も家族に会えるかもしれんだろう……」
ガンジーの家族は、彼一人を残して成仏している。
「こン野郎!」
だが、ガンジーはクーカイを張り飛ばした。
「俺はなぁ……生きるって決めたんだよ。非暴力なんざクソ食らえだ。ここで終われねぇんだよ!」
「だが……どうする」
クーカイは、切れた口角から流れる血を拭う。
得度兵器の全高はガンジー達の10倍以上。質量にして1000倍以上。仮に建物に隠れても、先ほどと同じ徳エネルギーバーストで吹き飛ばされるだろう。入滅待ったなしである。
「少しは、目ぇ覚めたみてぇだな」
「ああ……気になることが、できた」
「なんだそりゃ」
「人気が無い。これだけ暴れ回っているのに、誰も出てこない」
「……!」
クーカイに言われ、ガンジーは周囲を見回す。
確かに、これだけ境内で騒ぎが起こっているというのに、野次馬ひとつ見当たらない。
「もしかすると……この街の人間は、得度兵器のことを知っているのか」
「どういうことだ!?」
クーカイの頭脳は高速で仮説を組み立てる。得度兵器は徳エネルギーで動いている。そうなれば、目的は恐らく徳エネルギーの確保である。徳を積みながら生きるこの里は、徳に満ちている。あの住職は……エネルギーを分ける、そう言っていた。
「この街は……あの得度兵器と共生、いや、『飼われて』いるのか」
「なんだって!?」
「少しは自分の頭で考えろ!」
二人は走り続ける。だが、機械仕掛けの涅槃はすぐそこまで迫っている。
「どうすりゃいい!」
「住職だ!住職のところへ向かう!」
二人はターンし、寺の方丈を目指す。
「おい、住職!起きてるか」
力任せに扉を破り、二人は建物へと転がり込んだ。
「寝てるんじゃねぇか」
「余程の寝付きの良さだな」
「……待て、何か聞こえる」
ガンジーは耳を澄ます。得度兵器の歩行音の合間に……微かに、人の声が聴こえる。
「念仏だ」
「この非常事態に何を」
「こっちだ!」
声を頼りに進んだ先に二人が見たものは……穏やかに経文を唱える、住職の姿であった。
「……何を、されているのですか」
クーカイは、住職に向かって声をかける。経文が止まる。ズズーン……ズズーン……と、得度兵器の重厚な足音だけが夜の静寂の中に響く。
「……経を、読んでおりました」
平然と答える住職。
「てめえ……!」
住職に掴みかかろうとするガンジーを、クーカイは手で制した。
「理由を、お聞かせ願えるか」
「……この里の住人は、皆徳を積んでいます」
「解脱するために」
住職は浅く頷く。
「ゆえに、救いを齎す得度兵器と、我々は共に生きていくことができる」
「……!」
ガンッ、と鈍い音がする。ガンジーが、拳を思い切り床へ叩き付けた音だ。
「だから、得度兵器をなすがままにしている、と」
「……ええ。今回は、貴方方が起動させた様子ですが」
「そんなのは……死んでるのと、同じだ」
ガンジーは絞り出すように言った。
「……拙僧には、わかりませぬ」
住職は、穏やかに言葉を続ける。
「徳を捨てて足掻く貴方方と、解脱のために、徳を積み続ける我々と……どちらが、『生きている』と呼べるのか」
「行くぞ、ガンジー」
クーカイは、ガンジーの肩に手をかける。
「ここには、何も無かった」
「……いや。最後に、一つだけ聞かせろ」
ガンジーは感情を押し殺した声で尋ねる。
「『仏舎利』だ。どこにある。ラマ・ミラルパとかいう爺さんに、ここに手掛かりがあるって聞いたぞ」
「……仏舎利」
「どこにある」
「我々も、それを持っている訳ではありません。噂こそ聞きますが……何処にあるかまでは」
「……そうか」
「まぁ、持っていれば、全員で揃って解脱してる筈か……もう行くぞ、ガンジー。得度兵器がここに来る前に」
「……どうか、お気をつけて」
返事を返す暇も惜しみ、二人は駆け出す。
二人を見送った徳心住職が、再び経文を唱えようとした直後。その肉体を徳エネルギーのビームが焼き、彼は無事、解脱を遂げた。
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