多元連結理論.02
――そもそも、ユニオンにとってニンジャとは何か?
ニンジャについてわかっていることがあるとすれば、かつてニンジャと遭遇した形跡を持つコロニーが、全て根絶やしにされている――ということだけだ。
技術の簒奪という意味ならば、彼らユニオンも多くの文明、技術を強引な手法で併呑してきた。だが、彼らは制圧したコロニーを根絶やしにするような暴挙に出ることはない。
ユニオンの頂点に君臨する指導者。盟父。彼は自らを、あらゆる技術とその賜物の庇護者と標榜している。全ての技術は、盟父の名の下で管理・保護されなくてはならない。それがユニオンの最終目的である。
そんな盟父にとり、貴重な技術を根こそぎ破壊して回るニンジャという存在は、正に不倶戴天の敵そのものであった。
『ニンジャの特徴を備えたもの、それと疑われるものは、発見次第抹殺せよ』
これは、盟父直々のニンジャ討伐の勅命である。だが実際の所、ニンジャの出現記録は百年前を境にして完全に途絶えていた。いまは存在しない、遥か以前に存在した恐るべき文明と技術の破壊者――それが、ユニオンにおけるニンジャという存在への認識だった。
だが二日前――。
先遣隊が広大な洋上で発見した緑光の使い手。目視で発光現象を捉えられるにも関わらず、あらゆる観測機器に反応しない発光体。それこそ、盟父の指摘するニンジャの特徴。彼らの前に現れた蒼髪の少年は、彼らの言うニンジャの条件を完璧に満たしていたのだ。
「……やはり、やつの狙いはこのコロニーか」
「提督。このままでは、神子の御身の安全が……」
「――うむ」
副官の言葉に、キアランは目を閉じて頷く――。
記録が正しければ、ニンジャは訪れたコロニーを破壊して回る、悪魔のような存在だ。その悪魔が、盟父の神子が待つというコロニーに向かっている――彼らにとって、事態は一刻の猶予もなかった。
「ドローンはニンジャと所属不明機に反応を示していません。提督、ここは多少強引にでも上陸を決断するべきでは……」
普段よりも若干力の篭った声でキアランに進言する副官。だが、キアランは首を横に振って拒絶する。
「――ドローンの数が多すぎる。例の対抗策が発動するまで上陸は許可できん」
キアランは続ける。
「……ゲートの開通状況はどうなっている?」
「現在塔を中心とした全周囲に二つのゲートが使用可能……いえ、先程、三つめのゲートも開通したようです」
副官の報告にキアランは頷くと、副官から渡されたボードを指揮机に置き、席を立つ。
「よし、所属不明機の進路上に最も近いトンネルから適応者三名。送り込め」
「適応者ですか……すでに、適応者は先の戦いでニンジャに敗れていますが……」
キアランの指示に、副官は珍しく疑問を呈した。
「……だが、適応者ならばミサイルよりはやつを困らせることが出来る。正面から戦うのか、それとも逃げるのか。そしてそのどちらでも、俺達はいまのやつのデータを得ることが出来る。それが理由だ」
「――出過ぎた真似でした」
キアランは謝罪する副官に向け、笑みを浮かべて応えた。
「あいつらに伝えろ。お前達の手に負えなかったら、無理せずさっさと帰って来いとな。相手が相手だ。逃げたとしても誰も責めはせん」
キアランの指示を復唱した副官は、すぐさま通信機器から各所へと連絡を飛ばす。その様子を横目に確認したキアランは、椅子に深く腰掛け、乗員に向かって高らかに宣言した。
「ニンジャは神ではない。我々と同様に疲弊し、傷も負う。それは、すでに我々が実証したことだ!」
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