第78話 三章 エマの歓喜

倉庫は木材や垂れ幕を置いてあったので、より焼け跡が酷かった。


広い敷地で鉄で出来た山車の骨格が、出来の悪いオブジェみたいに溶けてそそり立っている。


つい先日までここで暮らしていたことが信じられないくらいだった。


ラファエルは残骸をかき分けて獣道のような隙間を縫って進んだ。


瓦礫の山を乗り越えると、あたりが一望できた。


よく目を凝らす。


敷地の隅で黒いローブをすっぽりと被った人物が崩れた壁を掘り起こしているのが見えた。


「エマ?」


黒いローブが顔を上げた。


間違いなくエマだった。ラファエルは瓦礫の山を駆けおりる。


「エマッ!」


無表情に見える彼女の顔が、遠目にも驚喜の表情に溢れているがわかった。


「ラファエルッ」


「おおっとっ」


瓦礫の一部が崩れラファエルは斜面を滑り落ちた。


エマが一生懸命にラファエルの元に駆け寄る。


途中で足下の悪さにもどかしそうにローブを脱ぎ捨て、背中の羽を広げてラファエルの元に飛びかかってきた。


「うわぁっ」


エマは転んだままのラファエルの腰に、すとんと跨がるように降り立った。


「大丈夫?

 怪我はない??」


エマは顔を間近に寄せて問いかける。


彼女のまっすぐな眼差しに、ラファエルは戸惑いながらも答えた。


「ああ、うん。

 だ、大丈夫だよ……」


「良かった!」


エマはラファエルに抱きついて泣き出した。


ラファエルもエマの無事はうれしかったが、嫌われていると思っていた自分の無事をなぜこんなに喜んでくれるのかわからなかった。


「エマ?」


エマは思い出したかのように体を離して涙を拭いた。


「別に、なんでも、ないわ」


「ほら、外套を早く着な。

 捕まっちまうぞ」


いつのまにか側にいたクララが、エマの脱ぎ捨てた外套を拾って手渡した。


エマは少し驚きながらも受け取る。


「あなたも無事だったのね」


「ラファエルが助けてくれた。

 これから全員を助けて回るんだとさ」


クララは大げさに息を吐いた。


とてもできっこないことのように。


「他の子たちは?」


ラファエルは尋ねた。


「わからない。


でもマリアンヌは火事の前にどこか違う場所に連れて行かれたわ」


「そっか、何か手がかりがあれば……」


話の途中でクララが制した。


エマにフードを深く被らせる。


瓦礫を踏む、足跡が聞こえた。

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