第58話 三章 金の行方

「この金をどうしたかを聞いてるんだ!」


支配人(ミステル)の烈火のような叱責にラファエルは縮み上がる。


体の震えが止まらなかった。


嘘などつき慣れていないので、上手い言葉も思い浮かばない。


ただマリアンヌにだけは迷惑がかからないよう、黙るしかなかった。


「言えっ!

 一体どこから盗んだ!」


「盗んでなんか、いない」


「嘘をつくな。

 こんな金、どうやったら手に入れられるんだ。

 サーカスの金をちょろまかしたんじゃないのか?」


「そんなことしないよ」


支配人(ミステル)はふうと息を吐いて、そのたばこ臭い顔をラファエルに近づいた。


さっきまでとは打って変わって気持ち悪いほどの優しい声を出す。


「なあ、ラファエル。

 俺はお母さんに代わって真実を確かめたいだけなんだよ。

 この手紙もお母さんから教えて貰ったんだ。

『息子から大金が送られてきたんですが、心当たりはありませんか?』

 とね。

 ちゃんと話せばこの金はまたお母さんのところに送り届けよう。

『なんの心配もいりません。サーカスから支給されたボーナスです』

 って言ってね。

 どうだ?

 悪い条件じゃないだろう」


支配人(ミステル)は氷を少しずつ溶かして薄くするように、ラファエルの心に侵入しようとした。


ラファエルは先程から続く頭痛と、手足の痛み、寒さから考えることがどんどん難しくなっていた。


「このお金があればお母さんの治療はだいぶ捗るだろうなあ。

 そう思うだろ、ニコライ」


先程ラファエルに水をかけた男が黙って頷いた。


確かにこのお金はみすみす捨てるには惜しい金だ。


母さんのために用意した金なのだ。


母さんが使ってくれなくちゃ意味がない。


ラファエルはあとのことはすっかり良くなって、ただこのお金が母親の元に届くことだけを考えるようになっていた。

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