第38話 二章 触発

クララは酷く鞭を打たれていたが、鋭い眼光で様子をうかがっていた。


「許可証を見せてくれ」


ジョーは食い入るように許可証を見つめた。


どこかに不備はないのか懸命に探そうとしたようだが、見つからなかった。


クララは檻に入れられて錠をかけられる。


ジョーは諦めてクララに向き合った。


「ちょっと話したい。口輪を外せるか?」


ラファエルは急いでクララの口輪を外した。


ジョーは床に落ちていた舞台の小道具を拾い上げる。


「おい。お前はこんなところでくすぶっていていいのか?」


小道具を檻の中のクララめがけて投げつけた。


「来いよ!

 俺にかかってこい!

 俺を倒せばここから出られるかも知れないぞ」


ジョーは鉄格子に手を差し伸べて子供のような無邪気な笑顔で問いかける。


「ほら」


「おい!

 何をする!」


ジョーはいきりたつ支配人(ミステル)を制すると、腰にもう片方の手をあてて、にやりと笑った。


ベルトには拳銃がしまわれていた。


例え許可証があろうと、人間に怪我を負わせたら現行犯で半獣人(デパエワール)は駆除できる。


ジョーはもう一度そばにあった木片をクララに投げた。


「だから何をするんだ!」


支配人(ミステル)がジョーを羽交い締めにして、会計士はどうして良いのかわからずおたおたしている。


「こんな化け物を生んだ親の顔が見てみたいもんだ。

 どうせ獣なんだろう?」


ハンターの挑発にクララ金色の毛を逆立てた。


殺気を感じて背中が粟立つ。


「小僧っ、何をぼっと見ておる!

 早く手伝え!

 この田舎者をつまみ出せ!」


ラファエルは懸命にジョーの足に絡みついた。


「また来るぜ、半端者(デパエワール)よっ。

 首を洗って待ってるんだな!」


ラファエルはこれはとても危険な状況だと感じた。


何故なら許可証がインチキであることをラファエルは知っている。


貧民窟で代筆屋に書かせたものだ。


政府に問い合わせれば、贋作であることはすぐにでも露見するだろう。


支配人(ミステル)がジョーを倉庫から追い出す。


ラファエルはクララの様子を盗み見たが、彼女は暗い瞳でただじっと彼らが去った後を見つめていた。

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