第12話「 よし! 」

 ―― ハーブティが美味しい。


 リリオさんの部屋の中、クッションを座布団みたいに使って車座に座ってます。

 床には、柔らかい木でできた畳みたいなものが敷いてあって、裸足でいるけどフンワリあったかくって気持ちいい。

 部屋の設えは和洋折衷というか、どこか和風でどこか洋風って感じだけど、すごく不思議な雰囲気でなんだか落ち着くなあ。




 マリルさんに寝室に案内してもらって、甚平みたいな部屋着に着替えた後、リリオさんの部屋にやってきたんだけど、ドアの前で改めて緊張してしまった。

 いきなり冷や水かけられたみたいな洗礼があったから、正直ちょっと怖かったのだけれど、ノックの後、部屋に入った途端、真砂ちゃんが「先ほどは失礼しました!」って男前に頭下げた勢いに乗ってみんなでお礼言えたから助かっちゃった。

 リリオさん、ビックリしてたけど、そのあと「こちらこそ・・」って謝ってもらえた。


「もう騙す気もないし、安心して欲しいけど、どうか好きにしてちょうだい」


 そういって、お茶を出してくれた。

 もう、このお茶を飲むにもどこまで信用していいのかわからないんだけど、ご飯もごちそうになったあとだし、さじ加減が難しいな。

 恐る恐るカップを覗き込んでたら、隣でムスヒちゃんが平気でお茶に口をつけて「おいし~」ってニコニコしてる。

 みんなでムスヒちゃんを見てしまうけど、そのムスヒちゃんは「ん?」って不思議そうに笑ってるよ。


「その子は全く騙せなかったわ。とても勘のいい人。その子が大丈夫ならみんなも安心していいと思いますよ」


「ダイジョーブだよ~」


 そこまでいわれると、今度は疑ったことが申し訳なくなっちゃう。

 よし! ムスヒちゃんを信じるわたしを信じよう!

 自分自身を信じることに責任持つ!

 キュッとお尻に力を入れて、フッと力を抜いた。



■ ■ ■



詳しく聞かせて欲しいというリリオの要望のまま、かがりをメインにみなで足りないところを補いながら今までの経緯を説明する。

その間リリオは柔和な顔のまま、ゆっくり頷きつつ最後まで一言も発しなかった。

そしてピピカを抱き上げると、じっと見つめながら愛おしそうにそっと撫ぜる。

ピピカは手足をワタワタ動かして笑っていたが、やがてひそかに溜息をついたリリオは、少しだけ難しい表情を混ぜながら、大事そうにピピカをクッションに戻した。


「提案だけれど、皆さんはしばらくここに居てくれないかしら? わたしが竜守の魔女・べベルに事情を話しましょう」


その申し出にすずたちは是非もないと、パッと顔を輝かせた。


「わたしにも全てわかるわけではないけど、わかる範囲でお話するわね」


そしてリリオはこの世界について語り始めた。





この世界は『理』が狂っている。


それが一言目だった。


公転、自転、星の動き。

天候、季節、時間。それが狂っている。

地磁気、海流、気流。それも狂っている。

光波も音波も磁力線も、慣性も重力も空気抵抗も全てが狂っている。

常識だったものが狂っている。

世界の全ての流れ、『流』が狂っている。


「はじまりは、もう三百年も前になります」


星が堕ちた。

巨大な隕石がこの星に堕ちたのだそうだ。


その大質量は海を蒸発させ、土砂を巻き上げ、地軸を歪める程の威力で星を蹂躙し、物理法則にまで及んだ破壊の余波は、次元の隙間を作ってしまうほど極大なものであった。

その隙間から大量に流れ込んできた異界の法則は、それまでこの世界の『流』であったものを『竜』へと変質させ、『竜』となった全てはさらなる狂気の限りを尽くした。

その変質へと導いたのが三本のねじくれた角を持つ暗黒竜バンシオ・ノルクスとその伴侶であった絶理の魔女・シル。


「暗黒竜の角は正面から見ると『666』と見えたそうです。それは過去の宗教書に倣えば破壊の獣の象徴だったそうですよ」


だが、異界の法則は破壊だけをもたらしたわけではない。

巻き上げられ、空を覆い隠した水蒸気と塵に結合した異界の法則は、物質とエネルギー、意思と法則性を併せ持つ不確定存在『スライム』として地上に落ち、かつて在った水や土や空気のような擬似物質として世界を覆ったのだ。

そのおかげで、大地や海や大気も擬似的な流動性を持ち、狂った『理』から世界を護ってくれているのだという。


「突然、世界が灼熱や氷点下に晒されても、作物が実ったり、生命が生きていけるのはそのおかげなのです。スライムが緩衝してくれているのです」


そして、意思をもつエネルギーの群体としてのスライムと繋がり、それを予知し、願いを伝えて制御するのが魔女の役割なのだ。


「せめて巫女って呼んでほしいものよね」


そういってリリオは笑う。

リリオが受け持つのはこの近海の海流の制御であった。


しかし、次元の隙間は閉じられていない。

異界から流れ込む法則は、未だに世界を変えつつあり世界の変質は続いている。

かつて世界に生きていた固有種とは異なる生命を生んだり、或いはエルフや獣人。コブリンやオーガと呼ばれる亜人の誕生に関わりながら、いびつな生命潮流としてこの世界に太くのたくっているのだ。


「魔女・和のいう星の調整というのは多分、次元の隙間を閉じるということね」


すでに地軸は安定し、星の運行という側面だけをとるなら安定しているといえるが、次元の隙間、その境目でこちらとあちらの物理法則が、膨大な作用・反作用を繰り返している為、世界は混沌としたまま、人類はひたすら力技で日々を生きるしかなくなっているのだ。


それは、隕石の衝突以後、新たな常識・法則として定着しているともいえるが、それでも安定の兆しが見えない以上、放置すればするほど、取り返しのつかない破綻の芽を育てていくことに変わりはないのだ。


「星を安定させた後の世界を見ていくためにこの子を産んだのね・・」


リリオは、クッションの上で寝息を立てているピピカを愛おしそうに眺めた。


「この子はドラゴンハーフ。人と竜の間に生まれた、星の巫女よ」

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