第25話続・絶倫大回転

「あぅうぅうぅ……」

 これは俺の声だ。

 俺のうめきといおうか……。

 俺はシャワー室の床に、身体を折って横たわっていた。

 さながら搾りカスのように。

 温かいシャワーは降りそそぎ続いていた。


 ああ、優しい……。


 ヒサメはすでに姿を消していた。

 身体を洗い、さっぱりした様子で。

 俺の精気を吸い尽くして、意気揚々と。

 ヒサメは自ら宣言したとおり、確かに処女だった。

 その紅い証が大量に流れた。

 しかし、なんだろう……。

 あの知識とテクニックの数々はッ!

 俺はしごかれ、挟まれ、吸引されたのみならず。

 指まで突っ込まれて、さらにはその指でぐりぐりとほじられまでした。


「フフフ、わたしは人体に詳しい……」

 それがヒサメの弁だった。

 ヒサメは精力的で、責め苦は際限がないかと思われるほどだった。

 そんなのフィクションだと思っていた、ウブな俺はもう過去の存在だ。

 実在をこすり込まれたと言ってもいいだろう。

 そこで俺はハッとする。


 もしや……。


 これがッ!


 巷で噂のッ!!


『逆レイプ』なんやろかァァァ!!!


 とんでもない経験をしてしまった。

 ヒサメのヤツ、冷徹そうな物腰の本性は、とてつもない変態だ……。

「う、うむぅ……」

 俺はうめきながら、ところどころヒリヒリする身体を起こし、シャワーを止めた。

 今日はもう寝よ。

 あまりの脱力感に、服を着忘れて食堂に出るところだった。

 ちゃんと服を着て、自室へ向かう。


 自室のドアを開けると、もちろん中は暗い。

 奇妙なことに、甘ったるい女の匂いがした。

 天井にリングを向けて照明をつける。

 異変はすぐにわかった。

 ベッドが膨らんでる。

 枕元に赤いものが覗いていた。

 近づいてみると、それは輝くような赤髪だった。

 顔は隠れていたが、アデーレしかいない。

「おい、アデーレ……」

 シーツをめくり上げて、俺の目は点になった。


 確かに、ピンクのパジャマを着たアデーレだったが。

 前は大きくはだけて、薄い胸が丸見え。

 下は……ズボンとパンツが膝まで下げられている。

 その姿で、アデーレは安らかな寝息を立てていた。


 人のベッドでナニしてんだ、コイツは……。

 いや、ナニしてたんだろうけど。

 俺のベッドでナニして、そのまま眠り込んでしまった。

 それ以外の解釈はあるまい。

 欲望が湧いてこないでもなかったが、不意打ちはよくない。


 俺は目のやり場に困りながら、アデーレの肩を揺すった。

「アデーレ、おいアデーレ!」

「んん……、ハッ!」

 アデーレは目を覚ますと、バネ仕掛けのように身体を起こした。

 俺の姿を認めると、おろおろした調子で弁解し始める。

「すすすすすすすいません、ごめんなさい、タネツケさま!」

『さま』づけか。

 俺としても、ここでの出来事にいちいち驚いてはいられない。


 アデーレはうろたえながら続ける。

「か、鍵穴から覗いたら、タ、タネツケさまが居なかったので、ベッドを温めて待っていようかと!」

 気弱なわりに行動派なんだよな、コイツは。

 俺は冷たい調子で言い放ってみた。

「そのカッコウでか?」

「!!!!!!!!ッ」

 アデーレはやっと自分の姿に気づき、声にならない悲鳴を上げた。

「ここここ、これは、あの、その」

 アデーレは耳まで真っ赤になって、俺を見上げる。

 下がり眉の下の、泣きそうに潤んだ青い瞳で上目づかい。

 何かがぐっとこみ上げてくる。

 これがあの傲慢な鎧女の中身だと思うと、嫌がうえにも嗜虐心が高まった。

 さっきまではヒサメにさんざんイジメられたものだが、いまのアデーレはイジメたくなってしょうがないッ!


 俺はゾクゾクしながら言った。

「で? ベッドを温めようとして、どうしてそんなカッコになるんだ? 正

直に話さないと、明日の朝飯どきの話題だぞ……?」

「ごめんなさい、ごめんなさい! こんなつもりじゃなかったんですぅ!」

 そう前置きしてからアデーレは続けた。

「ここで寝てたらタネツケさまの匂いがして、気がついたら手が勝手に……」

 そこで言葉を切り、探るように俺を見上げる。

 何かを期待している目の輝きで、アデーレは言った。

「み、みなさんには黙っていてください……、な、なんでも言うこと聞きますから……」

「うっ……!」

 その可愛らしさに思わずツバを飲み込む。

 つい興に乗って、ここまで来てしまった。

 アデーレは待っている。

 次の一歩を。


 これはッ!


 おばあちゃんの知恵袋的なッ!!


『弱みを握られたフリして逆に誘いをかける女』やないかァァァ!!!(長い)


 俺らしくないが、仕方ない。

「よ、よおし、じゃあ大人しくしろぉー」

 言いながら、アデーレに覆いかぶさってゆく。

「あ、ダメっ!」

 アデーレは俺のあごに手を当てて、腕を突っ張った。

 そのくせ下は。

 両足で俺の腰をがっちりホールドしている。

 おかげでアマレスの技かなにかみたいに、俺の腰がキマってしまっていた。

 逆エビ固めに近い。

 アデーレは細身だが、怪力の持ち主だ。

 俺の腰がミシミシいう。


「いでででででっ!」

 俺の苦痛の声で、アデーレが腕を離した。

「はーはーはーはー」

 荒い息が出る。

 もう少しで本気を出して振りほどこうとするところだった。

 アデーレは怯えたように言う。

「す、すいません、つい反射的に……。や、優しくしてください、わたし初めてで……」

 俺はゆっくりと、アデーレの唇をふさいでいった。


 ☆☆☆


 アデーレの反応はすべてにおいて控えめだったが、力が強かった。

 がっしりと組みついてくる。

 かなり動きにくかった。

 なんというか、俺のほうが慣れていてよかったといえよう。


 アデーレは無言でパジャマを着け終わると、やおら立ち上がった。

 ぺこぺことお辞儀の連射を始める。

「すいません、すいません! こんな大それた真似しちゃってごめんなさい!」

 首だけこちらへ向けて、お辞儀しながドアに向かう。 

「ごめんなさい! わたし厚かましかったですよね、嫌わないでください、すいません」

「アデーレ……」

 俺は声をかけたが、アデーレは聞いちゃいない。

「ごめんなさい、すいません、わたしこれからも……ぐがっ!」

 前を見てないからドアにぶつかる。

 俺は立ち上がって、アデーレのもとへ行こうとした。

「大丈夫か、アデーレ? 前を見て歩こうよ?」

「ああ、大丈夫です! お心遣い感謝します。すいません、ごめんなさい!」

 俺が着く前にドアを出て行ってしまった。


 と、閉まったばかりのドアが、カチャリとわずかに開く。

 ちょっと嬉しげなアデーレの声が言った。

「ごめんなさい、一生の思い出にします!」

 再びドアが閉まる。

 今度こそ、アデーレの気配が消えた。


 ひとりきりになる。

 ずいぶん久しぶりのような気がした。

「……」

 俺はシャツとボクサーパンツを身につけて、ベッドに寝転ぶ。

 天井を見ながら物思いにふけった。


 なんということだろう……。


 この屋根の下にいる女のほとんどと、関係を持ってしまったッ!


 戦闘メンバーの女全員だ。

 残っているのは比較的に接点の少なかったイリアンだけだ。

 ちょっとだらしないかもしれないが、来るものを拒めない。

 マトイ、ナムリッド、ヒサメ、アデーレ。

 個性的な四人だ。

 魅力的な四人ともいえる。

 本音を言ってしまえば、みんな好きだ。

 四人ともかわいい。

 いや、ヒサメはちょっと怖いかもしれない。

 だが、やはり他の三人には無い魅力があった。

 誰か一人に絞ってつきあうことなんて、いまの俺には無理な話だ。


 天真爛漫でちょっとやきもち焼きなマトイ。


 優しいお姉さんぽい、というか俺の師匠でもあるナムリッド。


 得体の知れないミステリアスさを持つヒサメ。


 鎧を着ているときの傲慢さと、脱いだときの気弱さのギャップが嗜虐心をあおるアデーレ。


 みんないい。

 ついでに言えば、全員処女だったし。

 俺が戦闘メンバー全員と關係を持ってしまったことは、明日の朝にもみんなに感づかれるだろう。

 仲良くしてくれるといいけど。

 この身体の絶倫さをもって、平等に愛すればうまくいかないだろうか……?

 どうだろうな……?


 長く、激しい夜だった。


 俺はいつの間にか眠りに落ちていた。

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