第92話 仲良し自慢コンテスト②

「それではルールの説明に参ります」

 ステージ上でにこやかに笑う空知は説明を始める。

「これからペアのお二人にはそれぞれのパートナーの好みについての質問をさせてもらいます。たとえば『パートナーの好きな芸能人は?』といった具合です。その質問に、それぞれが解答してもらい、正解なら得点が入るというルールです」

 ステージ上に仕切りが設置され、互いのパートナーの姿は見えなくなる。そして、それぞれにヘッドホンが手渡される。

「もちろん、問題の性質上、相談は禁止です。問題が発表されてから、『自分の解答』と『パートナーの解答』をフリップに書いていただきます。たとえば、例題ならば『自分の好きな芸能人』と『パートナーの好きな芸能人』を上げていただき、それが一致していれば得点が入るというルールです。みなさん、御理解いただけましたか?」

 空知が各自がルールを理解したことを確認してから宣言する。

「では、さっそく第一問です!」

 こうして、『仲良し自慢コンテスト』は始まった。


「第一問、パートナーの好きな『色』をお答えください」

 ヘッドホン越しに空知の声が聞こえ、その後は雑音が流れ、周囲の声が聞こえなくなる。なるほど、これなら声やなんらかの音でパートナーと打ち合わせることはできないし、仕切りのおかげでサインを送る様な真似もできないというわけか。

 ……しかし、この程度か。

(この程度の問題なら――)

 

「では、それぞれの解答が出揃ったようです!」

 空知の合図でそれぞれがヘッドホンを外し、仕切りが取り払われる。

「では、渡辺くん、内田さんのペアの解答から」


渡辺幸助 

パートナーが好きな色 赤


内田風音

自分が好きな色 青


「渡辺くん、不正解。では、内田さんは――」


内田風音

パートナーが好きな色 白


渡辺幸助

自分が好きな色 黒


「内田さんも不正解! 得点は0点です!」

「くくく」

「ふふふ」

 僕と風音は思わず、笑みを漏らす。

「おや、なぜお二人は不正解なのに笑っているのでしょうか?」

 空知が僕たちに話を振る。

 ちょうどいい機会なのできちんと宣言しておくとしよう。

「あまりに計算通りの展開だったからな」

「計算通り……?」

 首を傾げる空知に向かって僕は言う。

「二人の相性を競う競技。当然、お互いの趣味を当て合う、なんて問題が出ることは予想できる。だから、僕たちはきちんと『予習』してきたんだよ」

「『予習』……?」

「ええ」

 今度は風音が喋り出す。

「互いの趣味、嗜好、好きな食べ物、嫌いな食べ物、休みの日にどんなことをしているかまで、ばっちり打ち合わせ済み……! つまり――」

「僕たちの解答が正解する可能性は万に一つもないというわけだ! 全部、真実とは真逆のことを言うからな!」

「どう、これでうちらの仲がいいなんて絶対に言わせないわ。絶対に最下位になってやるんだから!」

「う、うーん。まあ、お二人がそれでいいならそれでいいのですけど……」

 僕たちの宣言に空知はなぜか苦笑いを浮かべている。

「まあ、次のペアの解答にいきましょう!」

 そう言って、空知はそよぎと新宮司のフリップをめくらせる。


新宮司ふぶき

パートナーの好きな色 白


愛原そよぎ

自分が好きな色 白


「おお! さすがです! 愛原さん、新宮司さんペア、まずは1ポイント獲得!」

「ふふ……。当然です。一流の『そよぎすと』ならこの程度の問題は当てて当然です」

 新宮司は余裕の笑みを浮かべている。なんだ、『そよぎすと』って。

「私は当然、そよぎお姉さまが二番目に好きな色も、三番目に好きな色も、四番目も、五番目も把握しておりますわ!」

「五番目に好きな色なんて自分でも考えたことないんだけど!」

 そよぎがそう言うと、新宮司は、

「お姉さまが好きな色は五番目に好きな色はエメラルドグリーンですよ」

「エメラルドグリーン?!」

「そうです。お姉さまは五番目にエメラルドグリーンが好きなのです……お姉さまの一番の信奉者たる私が言うのです……これは間違いないことなのです……」

「あれ……? そんな気がしてきた……?」

「おい、目を覚ませ、洗脳されてるぞ」

「では、逆に新宮司さんの方の解答は――」


愛原そよぎ

パートナーの好きな色 赤


新宮司ふぶき

自分が好きな色 白


「不正解です!」

 そう空知が宣言した瞬間、

「申し訳ありません、お姉さま。このふぶき、お姉さまのお考えに背いてしまいました……これは我が首をもってお詫びする以外にありませぬ……我が血の赤でこの舞台を染めてさしあげます!」

「やめて」

「はい」

 そよぎの短い言葉に、新宮司は大人しく座り直す。

 そよぎの新宮司の扱いが地味に手慣れているような気がする……。普段から二人はこういう関係なのだろうか……。

「では、次のペアの解答に参りますよ」

 次は、田中と会長のペアだったか。

 まあ、あの男なら余裕で当ててくるだろう。

 空知の進行に合わせて、田中と会長がフリップを掲げる。


田中義晴

パートナーの好きな色 青


魔天楼王妃

自分の好きな色 緑


「おっと、意外にも不正解です!」

 予想に反して、二人の解答は一致しなかった。

 この男は未来が見える。それでなくても頭はキレる方だ。この程度の問題、予測できない方がおかしいのだが。

 僕が首を傾げていると。

「くっくっく……その表情を見ていると、幸助ですら、俺様の深淵な意図に気がついていないようだな」

 田中は邪悪な笑みを浮かべてこんなことを言いだす。

 僕は言う。

「先輩もわざと間違えたっていうんですか?」

 すると、田中は答える。

「ああ、もちろんそうだ。だが、これはおまえのように勝負を捨てたから間違えたわけではない。……勝つためにあえて捨てたんだ!」

 意味が解らず、首を傾げる僕に向かって田中は言う。

「解らんか? こういうクイズでは定番の展開がラストにあるだろ。最終問題の得点だよ」

「最終問題の得点?」

「ああ。『最終問題は百万点です!』っていう奴だ」

 確かにそんなクイズ番組はよく見る気がするが。

「俺様はその最終問題に正解するためにあえて間違えたんだ」

「最終問題が百万点であることと今間違えることに何か因果関係があるんですか?」

 僕が至極真っ当な指摘をすると、

「そんなもん理由は一つだ……」

 田中は芝居がかった調子で言った。

「最後に熱い大逆転劇を演出するためよ!」

 田中は言う。

「最初から最後まで全問正解した上で、百万点なんか取っても何も面白くない! 最後の最後で逆転劇があるからこそ、物語は盛り上がるんだ! 最後まであきらめずに喰らいつき、敵を倒す……。これこそが熱いクライマックスってもんだぜ!」

 暑苦しい様子でそんなことを宣言したのだった。

 僕がアホらしくなって絶句していると、空知は言った。

「あの、先に言っときますが」

「おう、なんだ」

「最終問題、百万点とかないですよ」

「なん……だと……?」

「だって、そんなの不公平ですからね」

 空知は当然なことを言う。

 そらそうだよな……。

「ええ! 嘘だ―! 絶対最後になったら百万点とかになるんだ!」

 田中は駄々っ子のような口調になっている。

「口ではそう言ってても、身体は正直なんだろ!」

「よくわかりませんが、セクハラで訴えます」

「ちくしょう!」

 田中は勝手に自滅したようである。

 もう放っておこう。


「では、最後のペアの解答です!」

 残っているのは、雪哉と御船なのだが……。

 二人がそれぞれフリップを掲げる。


愛原雪哉 パートナーが好きな色 緑


白川御船 自分が好きな色 緑


「おお! 見事正解です!」

 そして、もう一枚のフリップをめくる。


白川御船 パートナーが好きな色 白


愛原雪哉 自分が好きな色 白


「おお! こちらも正解! これで二点獲得! 愛原くん、白川さんペアが一歩リードです!」

 こいつらが普通に正解してくるとは……。まあ、二人ともバカではない。これくらいの問題ならきっちり予測済みだったのかもしれない。

 僕は二人の様子を窺うと、

「今回はおふざけは無しだ……キャラ設定なんて気にしてられない……食べ放題がかかってるんだから……」

 御船の目は血走っていたので、目を合わせないようにしようと思いました。


 そして、コンテストは進行し――


「さあ、遂に最終問題です!」

 色々なことがあったが、やっとここまでこぎ着けたのだった。

「最後に得点を確認しておきましょう!」


渡辺幸助、内田風音 0点

愛原そよぎ、新宮司ふぶき 5点

田中義晴、魔天楼王妃 6点

愛原雪哉、白川御船 8点


「愛原くん、白川さんペアはなんとここまでパーフェクトです!」

「当然……!」

「外すと御船さんに何をされるかわかりませんからね……」

 雪哉の背中から哀愁が漂っている。

 あの二人の力関係は本当に謎である。

 空知は解説を続ける。

「田中くん、魔天楼さんはペアは最初の問題以外はパーフェクト。最終問題で愛原くん、白川さんペアがミスをすれば、まだ優勝の芽は残っています!」

「ねえ、本当に最後百万点じゃないの? あ、十万くらいでもいいけど」

「ないです」

 空知は田中の戯言をあっさりと切り捨てて次の説明に移る。

「愛原さん、新宮司さんは新宮司さんの解答は完璧でした。愛原さんの方は一問正解に留まっています」

「私はお姉さまのことを理解していても、お姉さまに自分を理解してもらう努力を怠っていたんですね……。こんなことではお姉さまの伴侶失格です……」

「なんかすごい重いことを言われている気がするんだよ……」

 そよぎはうんざりした顔で新宮司を見ていた。

「そして、最下位は渡辺くん、内田さんペア。なんとここまで逆パーフェクト! これはある意味すごい!」

「ふん、当然だな」

「これしき朝飯前よ」

「本当にお二人がこれでいいならいいですけどね!」

 空知は訳の分からないことを念押ししてから、最終問題を出題する。

「では、最終問題です!」

(さあ、なんでも来い!)

 そして、出された問題は――


「パートナーの好きな異性のタイプは?」


「ん……?」

「好きな異性のタイプです!」

「………………」

 好きな異性のタイプ……?

(恐れていた事態が?!)

 僕は思わず息を呑む。

 「仲良しコンテスト」なる大会の性質上、当然、こういう類の問題が来ることは予想できていた。なにせ我々は青春真っ盛りの高校生。色恋の話題に触れれば盛り上がるだろうという単純バカが運営側に居ることは当然予想されてしかるべき事態だった。

 だが――

(好みの異性のタイプなんて風音に聞けるわけねえだろうが……!)

 僕は全問不正解になるために問題を予測し、風音と綿密に打ち合わせをしてきた。だから、奴の好きな色から、嫌いな食べ物までばっちり覚えてきている。だが好みの異性だけは打ち合わせしていない。

(なんかそんなん聞くの恥ずかしいし……)

 いや聞けねえだろ、そんなん! なんかラブコメとかだとそういうの聞くと無駄な勘違いフラグが立って、後でめんどくさい事態になる定番じゃねえか!

 しかし、ここに来て、そのつけが回ってきた。

 どうすればいいんだ……。

「とはいえ、漠然と言葉で書くのも難しい問題ですので、4つの選択肢の中から相手の好きな異性を選んでいただくことにします」

 空知の説明が続く。

 確かに好きな異性のタイプというのは、色や食べ物と違って漠然とし過ぎている。選択問題でなければ当たらないだろう。

 選択肢のフリップが与えられる。正解だと思うものに丸をすればいいようだ。

 選択肢は――

①優しい人

②かっこいい人

③頭のいい人

④運動ができる人


(なるほど、好みというよりは異性を好きになる時にどの項目を重視するのかということか……)

 僕は風音の好みについて想像してみる。

 奴は見た目で人を判断するタイプか、中身で判断するタイプかというと――

(どっちかと言えば後者か……?)

 中身を見るというよりは、外見にはあまり興味がないタイプのような気はする。これといった根拠があるわけではないのだが。

(ということは素直に考えれば、風音が選ぶのは②ではないだろう)

 問題を外すという観点で考えれば、②を選べばいいということになるはずだが……。

(そんな単純な考え方でいいのだろうか……?)

 ここまで来たら逆パーフェクトは逃したくない。冷静に自分の考えに落ち度がないかとを分析する。

(②を選ばないことはほぼ間違いない。これには自信がある。だから、僕の解答は②でいいだろう)

 だが――

(風音は残りのどれを選ぶのだろう)

 あいつはどんな男が好きなのだろう……。

 なぜか、そんなことが気にかかった。別に問題を外すためだけなら、そんなことどうでもいいはずなのに……。

「さあ、時間です! 解答をお願いします!」

 そして、運命の時がやってくる……!


「なんで解答書かなかったんだよ……」

 コンテストが終わって二人きりになったときに僕は風音に問いかけた。

 風音は心底嫌そうな顔をして答える。

「あれは打ち合わせしてなかったから。しかも、四択。適当に答えても当たる可能性があった。そのリスクを避けるためよ」

 確かに風音の言い分にも一理ある。だが――

「お互いが解答を提示した上で外すから、僕たちが仲良くなんてないというアピールになるんだ。無回答で不正解では本当の意味で仲良くないというアピールにはならない」

 僕がそう指摘すると、風音は少し気まずそうに目をそらす。

「……そりゃあ、そうよ。あんたの言い分は解る。だけど、万が一にも当たってしまうよりはましよ。その前の問題までで目的は達していた。それに、一番大事なのは『全問不正解の最下位』になるっていうこと。実際、あのステージを見ていた人間なんて限られる。ほとんどの人間は伝聞で結果を聞くことになる。そのときに、『全問不正解』か『そうでない』かが一番重視されるのであって、問題の内容や解答方法にまで着目する人間は少ない。だから、うちは安全策をとった……。それだけよ」

 風音の主張も解らないではない。一応、筋は通っている。

 しかし、奴の言い分は、どこか風音らしくないような気がした。

 だが、僕にはこれ以上、彼女を追及する気にはなれなかった。

 文化祭ももう佳境だ。後は夜に行われるキャンプファイヤーを残すのみ。僕は運営として準備に参加しなければならない。そろそろ、六花が待っている時間だろう。

 そろそろ行こう。そう思い、風音に別れを告げようとしたときだった。

「幸助、ちなみになんであんたは②を選んだの?」

「②を選んだ理由?」

「なんでうちの好みの異性は『かっこいい人』じゃないと思ったの?」

 風音はいつものように眼鏡越しに僕を射殺すように睨んでいる。しかし、その瞳に宿る光は何かいつもとは違っているような気がした。

 だから、僕は風音の質問に素直に答えた。

「なんとなく……まあ、おまえは人を見た目で判断するようなタイプじゃないかな、と思っただけだ。……深い理由はない」

 僕がそう言うと、彼女は一瞬だけ遠くを見るような顔を見せてから――にやりと笑った。

 そして――

「いたっ」

 彼女は僕の頭を小突いてから言った。

「なんかムカつくわね」

「なんでだよ!」

「なんとなくね」

 それだけ言うと、彼女は僕に背を向け、ひらひらと手を振りながら、歩いていく。

「じゃあね。実行委員、最後まで頑張りなさい」

 そして、彼女はこの場を後にした。

「なんだよ……あいつ」

 僕は風音が僕を小突いた瞬間の顔を思い返す。

 ……あいつのあんな表情は初めて見たな。

 僕はため息を一つ吐いて、夕焼けに染まり行く空を見つめるのだった。


 数日後、何故か僕と風音の仲が良い説は一層根強いものになっているという事実に僕たちは愕然とするのであった。

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