第91話 仲良し自慢コンテスト①

「さあ、始まりました! 『仲良し自慢コンテスト』!」

 司会を務める女子生徒、空知ここあはよく通る溌剌とした声で宣言する。

「このコンテストは文字通り、この塔坂学園においてもっとも『仲良し』な生徒を決めるコンテストです! 様々な問題をこなすことで、お二人がいかに仲良しかというとを会場に居る皆さんにアピールしていただきます!」

 どうでもいいが、空知の奴はいったいどういうキャラなのだろう。教室に居るときの気だるげな様子は一切見られない。別人かと思ったくらいだ。

「では、さっそく出場選手を紹介します!」

 そう言いながら空知は僕たちの前に立つ。

「エントリナンバー一番、渡辺幸助くんと内田風音さんです」

 ……どうして、こんなことになったのか。

 僕は数十分前の教室でのやり取りを思い出していた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おめえらがそこまで仲が悪いっていうならよお」

 空知はポケットから一枚のチラシを取り出す。

「二人でこれに出てみればいいんじゃねえのか」

 そこに書かれていたのは――

「『仲良し自慢コンテスト』?」

 僕はチラシに書かれた文字を読みあげる。

 確かに今回の文化祭でこんなコンテストが主催されていたような記憶はある。しかし、僕の担当ではなかったので詳細は知らないのだが……。

「ここあ。頭が狂ったのかしら? うちがこんなコンテストによりにもよってこんな男と出ると思う?」

「そうだ。この女とこんなコンテストに出るくらいなら、その辺のドブネズミと一緒に出た方がましだぜ」

 僕と風音の抗議に、空知は「まあまあ」と言って宥めるように掌を向ける。

「アタシの話を聞いてみろよ。聞くだけならタダだろい?」

 空知がそんなことを言うものだから、とりあえず話くらいは聞いてやってもいいかと思ってしまう。

 しかし、それが間違いだった。

「実際、おまえら二人の仲が良いと思ってるのはアタシだけじゃない。他のやつにも言われたことがあるだろい?」

「………………」

 僕と風音は黙り込む。それは図星だったからだ。なぜか僕たち二人は仲が良いという扱いを受けることが多い。

 空知は言う。

「でも、それはおまえらに言わせれば誤解なわけだろ? だったら、その誤解を解くのに今回のコンテストはうってつけ、って言いてえわけだ」

「どういうことよ?」

 風音の問いかけに空知は応じる。

「つまり、このコンテストに出場して、おまえらがぶっち抜けを取ったとしたら。それはおまえらが仲良くなんてないっていう証明にならんかい?」

「………………」

 空知の主張も解らないでもない。確かにこういう場で風音との関係を清算しておくというのも一つの手かもしれない。

 だが――

「だけど、わざわざそこまでやる義理はないな」

「同感ね。ここあの話は解るけど、こんなくだらないコンテストに出る理由にまではならないわね」

「怖いのか?」

 空知は相変わらず感情の見えない表情で言った。

「は……?」

「このコンテストに出ちまったら、実は優勝しちまうんじゃねえかってびびってんじゃねえか?」

 淡々と語られる空知の言葉。

「「そんなわけないだろうが!」」

「めっちゃハモってんぞ」

「………………」

「………………」

 空知からの煽りに僕たちは遂に耐えられなくなった。

「なるほどな……こいつは面白い……」

「上等よ……やってやるわよ」

「じゃあ、二名参加でよろしく。いや、ドタキャン出て、困ってたんだ。助かるぜ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そして、現在に至る。

 しかし、ここまで来てしまった以上はもう後には引けない。

 最後までやりきるしかないのだ。

「では、お二人に意気込みを聞いてみましょう」

 先程までと違ってあからさまな営業スマイルを浮かべた空知は僕たちに話を振る。

 僕は与えられたマイクを使って宣言する。

「我々はここに皆さんの誤解を解くために来ました」

 僕の言葉に会場は少しどよめく。

「僕はこの女と絶対に仲良くなんてしない!」

 僕は風音に向かって指を差す。

 同じくマイクをもらった風音も叫ぶ。

「上等だ……! まずはてめえから血祭りに上げてやんよ……! 『流血の文化祭』の幕開けだ……!」

「はい、とっても仲の良いお二人の自己紹介でした」

「「仲良くねえっていってんだろうが!」」

「では、次の組の紹介です」

 空知は僕たちの言葉を無視して話を続ける。

「エントリナンバー二番、愛原そよぎさんと新宮司ふぶきさんです」

「幸助くん……。なんで風音ちゃんと一緒にこのコンテストに……」

「いや……なんか成り行きで……」

 そよぎの目が怖い……。

 僕もそよぎが出場者であることはついさっき知ったところなのだ。

 ちなみにそよぎはうちのクラスの出し物である「コスプレ占いの館」のユニフォームであるメイド服を着ている。正直、彼女のコスプレを堪能したかったが、今のそよぎをガン見する勇気はなかった。

 僕は話題を逸らすために言う。

「だ、大体、なんでそよぎも出場してるんだよ。しかも――」

 僕はそよぎの傍らに立つ女生徒に目を向ける。

「そよぎお姉さまそよぎお姉さまそよぎお姉さまそよぎお姉さまそよ――」

「よりにもよってそいつと……」

 新宮司は、完全に目が逝ってしまっている……。完全にホラーの構図である。

 そよぎは遠い目をしながら呟く。

「これには深い事情があるんだよ……」

 そよぎは言う。

「ふぶきちゃんが一緒にこのコンテストに出たら、私が狙ってたゲームの限定品の設定資料集をくれるって言うから……」

「物に釣られてんじゃねえよ……」

「だ、だって、本当にレアアイテムなんだよ!」

 そよぎは慌てたように言う。

「ネットオークションで頑張ったけど、何故か手に入らなかったんだから!」

「おまえ、オークションなんてできるのかよ……」

 そよぎにオークションなんてやらせたらバカみたいに金をつぎ込むに決まっている。

「入札価格ってところに打ちこめるだけ『99999999――』ってうちこんだのに……」

「おまえ、マジで言ってるのか? いったいいくら金を使ったんだよ」

 僕が青くなりながら言うと、

「お金? お金が要るの?」

「は?」

「あれってできるだけ大きい金額を打ちこんだ人が勝つゲームなんじゃないの?」

「おまえ、一生オークション禁止な」

 イタズラ入札を見なされたようです。

 ステージ上で会話する僕とそよぎの間にぬるりと割り込むように新宮司が現れる。

「ふふふ。渡辺先輩……。そよぎお姉さまはもう私のものですわ……」

「いや、ふぶきちゃんのものになる気は、さらさらないんだけど……」

「このステージの上に二人で立つということは、仲良しの証明! いわば、私たちの結婚式と言っても過言ではありません」

「過言だよ! 過言でしかないよ!」

 珍しく真っ当なツッコミを入れるそよぎを無視して新宮司はにたりと笑って捨て台詞を吐く。

「ふふふ。渡辺先輩、私がお姉さまを手篭めにする瞬間を黙って見ていることですね」

「言葉の意味はよく解らないけど、すごく危険な感じがするんだよ!」

 そよぎは涙目になっていました。


「エントリナンバー三番、田中義晴くんと魔天楼王妃さんです」

「よお、幸助。おまえもこのコンテストに出ていたとはな」

 僕に気安く声をかけるのは生徒会副会長の田中だ。

 ……正直うざい。

 田中は不敵な笑みを浮かべて言う。

「ちょうどいいぜ。これはいわばリターンマッチだ。前回は様々な理由で全力が出せなかったが、今回は違う。今日、勝つのは俺様だ! 首を洗って待ってろ、幸助!」

 ノリノリで宣言する田中に向かって言う。

「あ、今回、僕は全力で負けに行くんで、先輩の勝ちでいいですよ」

「はあああああああああああっ!」

 僕の言葉を聞いた田中は大声を上げる。

「ホワイ?! どうしちまったんだ?! あの熱いソウルを持ったおまえはどこに消えちまったんだ?!」

「どこの世界の僕の話だ、それ」

「俺様の熱いパッションはどこに向けたら良いんだよ!」

「自己消費してください」

「なんだよ、つれねえな……」

 意気消沈した様子の田中に、隣に立っていた生徒会長、魔天楼王妃が声をかける。

「義晴、らしくないな」

「なんだと?」

「相手が誰であろうと、どういうときであろうと、全力で戦う。それが田中義晴という男なのではないか?」

「………………」

 会長の言葉を聞いた田中は表情を引き締め、ぽつりと呟く。

「へへ……。ひーちゃんの言うとおりだな……。獅子は兎を狩るのにも全力を出す。幸助が本気を出さねえのなら、本気を出さざるを得ないようにしちまえばいいんだよな」

「何をされても本気は出さないけどな」

「目が覚めたぜ! 俺様は本気で幸助を倒す!」

 田中は真剣な眼差しで僕を睨む。

 僕は会長に向かって言う。

「ちなみに今の台詞は『シナリオ』通りですか?」

「もちろん、そうだが」

 この二人は相変わらずのようだった。


「最後の出場者は、エントリナンバー四番、愛原雪哉くんと白川御船さんです」

 最後に紹介されたのは、雪哉と御船だった。……なんか、僕の知り合いしか居ないのは偶然なんだろうか。

 僕は雪哉に向かって言う。

「……まさか、おまえまで出場していたとはな」

「……ええ」

 僕の言葉に雪哉は短い返事をする。そんな彼の様子に僕は違和感を覚える。なぜなら、彼は珍しく殺気立っていたからだ。

「どうしたんだよ……。何か気に食わないことでもあるのか?」

 僕が尋ねると、雪哉は言った。

「むしろ、この状況で落ち着いていられる幸助さんの方がおかしいですよ」

「……何の話だよ」

「わからないんですか……?」

 雪哉は目を大きく見開いて叫ぶ。

「姉さんが、世界で、宇宙で、いや森羅万象において最も愛すべき存在である姉さんが、あんな女に寝とられているというのに! 落ち着いてなんていられません!」

「……は?」

 呆気に取られる僕。雪哉の叫びに応じたのは新宮司だった。

「おほほほ。弟くんね。お姉さまはもう私のものになりましたよ。この勝負私の勝ちのようですね。私のことは『お義姉さま』と呼んでも構いませんよ」

「認めないぞ! 姉さんはぼくが守る!」

「ふふふ。させませんよ。私とそよぎお姉さまの結婚式を親族席からじっくりと見ていることね」

 何故か二人でヒートアップしている新宮司と雪哉。

 僕は尋ねる。

「あれ? おまえらって知り合いだっけ……?」

 少なくとも僕はこの二人が会話しているところを見たことがなかったのだが。

「知り合い……と言えば、知り合いですかね」

 雪哉は苦々しげな表情で言う。

「この女はぼくが姉さんを影から見守っているときによく会うんですよ」

「ああ、要するにストーカー仲間ね」

「失礼な。私はお姉さまのストーカーなどではありません。お姉さまを影から助けているだけです」

「魔王討伐でもする気かよ……」

 僕のツッコミを無視して、雪哉は言う。

「ともかく、この女と姉さんが仲良しだなんていうことを認めるわけにはいきません! 優勝は断固として阻止します!」

「無駄ですよ。もはや、そよぎお姉さまは身も心も私のものですから」

「なんだと!」

 一触即発。睨み合う二人。今にも殴り合いを始めてもおかしくなさそうな雰囲気である。

 さすがに止めないと、そう思った瞬間だった。

「二人ともケンカしない♪」

 そよぎは笑顔で言った。

「ケンカするんだったら二人とはもう口きかないよ♪」

「ぼくたち仲良しです!」

「ええ! 親友と言っても過言ではありません!」

「ならよろしい♪」

「……茶番だな」

 まあ、最悪の事態は回避できたみたいだから良しとしよう……。

 僕はずっと黙ったままガムを噛んでいる御船に向かって尋ねる。

「で、なんでおまえはこんなコンテストに出場を?」

 御船はいつもの眠たげ表情とは違い、引き締まった表情で答える。

「もちろん、優勝のため」

「……優勝したいのか?」

 つまり、こいつは雪哉と仲良しであるということを周囲にアピールしたいのか? そんな考え方は御船らしくないように思える。僕の周りには何を考えているのか解らない奴が多いが、こいつはぶっちぎりで何を考えているのか解らないからな……。

「優勝したら、文化祭の屋台、食べ放題チケットがもらえる……!」

「ああ、なに考えているか解ったわ」

 すごく解りやすい理由でした。


「さあ、出場者の紹介も終わったところで、さっそく競技に入ります!」

 紹介もなにも僕たちがただ駄弁っていただけだったのに、それでよかったのだろうか。

 そんなことを僕が考えている間もコンテストは進行していくのだった……。

                             (また続く、はず)

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