第63話

「改めまして、彼女が我が児童会副会長白川御舟です」

「よろしく~」

 白川御舟は気が抜けそうな声でゆるい挨拶をする。

 僕は白川御舟を改めて観察する。肩口くらいまでの長さで切り揃えられた髪は無造作に跳ねている。これは寝癖なのだろうか。髪の毛の扱いが乱雑であるわりに見るものに不快感を与えないのは、彼女の持つ落ち着いた雰囲気のためだろうか。

 彼女の顔は小学生らしいあどけなさと、どこか老成した雰囲気が同居しているという少々奇妙な造作をしていた。幼い子供のようにも、大人びた女性のようにも見える。

「もぐもぐ」

 そして、彼女はずっと物を食べていた。今はコンビニで買ってきたシュークリームを口一杯にほうばって目を細めている。

「………………」

 そんな様子を見て、雪哉は眉をひそめているがなにも言わない。

 意外に礼儀にうるさい雪哉なら仮にも客人がいる場で自分の児童会のメンバーが我関せずと食事などしようものなら叱責のひとつでもするのだろうが、白川御舟にはなにも言えないようだった。それは、白川御舟が雪哉よりひとつ年上の小学五年生だからではないだろう。

 白川御舟は自分が寝ている限り、周囲の人間を無差別に眠らせる力を持っている。それもどうやら彼女自身でコントロールができていない力のようで、その魔法は垂れ流しだ。だから、彼女の魔法を止めようと思えば、彼女を眠らせないという方法しかないのだが……。

「あ~、雪哉さま。こっちも食べてい~い?」

「は、はい……」

「ありがとう~」

 そう言うやいなや、今度はクッキーを口一杯に、ほうばっている。

 彼女はほとんど四六時中寝ているらしい。実際、僕と六花が彼女を捜査している間もずっと彼女は寝ていた。遠方から観察していただけだったので、なんとか眠りに落ちずには済んでいたが、酷い倦怠感には悩まされた。それは今にして思えば、彼女の魔法の影響を受けていたのだろう。

 彼女が起きているのは、基本的に食事の間くらいのものらしい。だから、彼女を眠らせないためには、食べ物を与え続けなければならないのだ。

 もうお気づきかと思うが、彼女は信じられないような大食漢である。今もコンビニで籠から溢れるほどの量のお菓子を購入してきたのだが、ほとんどを彼女ひとりで平らげている。あの細身のいったいどこにこの量のお菓子が吸い込まれているのか。体内にブラックホールでもあるというのか。

「まさか、今日日、大食いでキャラ立てしてくるとは思わなかったよ」

「? おいしいよ~?」

 僕の言葉を解っているのか、いないのか。白川御舟は気の抜けるような声で応じる。

 雪哉は小さく溜め息をついてから言った。

「ちなみに彼女も四天王のひとりです」

「どうせ白川夜船とかだろ」

「はい。『白川夜船スリーピングビューティ』というのが、彼女の二つ名です」

 まあ、この二つ名については僕も納得だ。名前からしても魔法からしてもこの二つ名は必然だろう。むしろ、魔法の設定を作ってから名前を決めたようにすら思える。

 そんな白川御舟の姿を見ながら、陽菜はにへらと笑って呟く。

「私も御舟ちゃんの姿を久しぶりに見ましたです」

 僕はそんな姿を見て、思わず陽菜に問い掛ける。

「児童会のメンバー同士なのにか?」

「はいです! すいませんです!」

「いや、いちいち謝らなくていい……謝らなくていいと言われることに謝るというベタなボケも要らないぞ」

「はいです! ベタなボケしかできないカスで申し訳ないです!」

 案の定ベタなボケをかましてから陽菜は答える。

「御舟ちゃんはだいたい奥の『御舟部屋』にいるんですが」

「ああ、あそこ『御舟部屋』って言うんだ」

 児童会室の奥の小部屋。まあ確かにああいうところに隔離でもしておかないと皆、無差別に眠ってしまうからな。致し方無しか。

「眠ってしまうのが怖いのでできるだけ近寄らないようにしてるです」

「まあ、そうだろうな」

 僕だってあんな気絶するみたいに突然眠り込んでしまうのはさすがに怖い。

「寝ている間に殺されるかもしれませんので、です」

「まあ、そこまでは思わんけど」

 と、そんなことを言いながらも陽菜は先ほどまでよりもどこか表情が柔らかい。少なくとも涙目でがちがちになっていた数分前とは天と地の差がある。

「だいぶリラックスしてきたみたいだな」

「すいませんです!」

「謝らなくていいけど、どういう心境の変化だ?」

 すると陽菜はまた少しだけ身を固くしてから答えた。

「寝てる御舟ちゃんを見たので、五日ぶりに眠れたからです! すいませんです!」

「五日ぶりって……」

「実は私は少しばかり心配性でして」

「うん、知ってる」

「普段は基本的に一睡もできないのです」

「一睡も……?」

「はいです! 基本的に御舟ちゃんを見て眠ってしまう以外は絶対眠れないのです!」

 陽菜の言葉を受けて雪哉は言う。

「驚くべきことに彼女には睡眠薬も効かないんですよ」

「すごいんだか、すごくないんだか、わからんな……」

 僕は反応に困る。

「はいです。ですから、御舟ちゃんが居ないと私はたぶんそのうち突然死するです。ですから、御舟ちゃんにたまに強制的に眠らせてもらっているです」

「何事も使いようだな……」

 こんな傍迷惑な力でも人の役に立つんだな。

 そんなことを話していると、児童会室の扉が、すっと開く。

「……遅れた……すまない」

 現れた人物は僕も知っている人物だった。

「静か」

 児童会室を訪れたのは琴山静。雪哉の幼なじみだ。今日は長い髪を下ろしている。普段、実家の喫茶店の手伝いをしているときは髪を結っているから、彼女が髪を下ろしている姿を見るのは新鮮だった。

「……こうすけ、久しぶりだな」

 彼女は、仏頂面で、ぼそぼそと聞き取りづらい声で話す。これはいつものことなので僕は別段気に止めることもなく、気安く声をかける。

「最近、忙しくて店に行けなくてな」

 彼女の実家は喫茶店。レトロな内装の古式ゆかしい喫茶店でありがら、店員はメイド服を着て、給仕をするという謎のコンセプトの店だ。しかし、コーヒーの味は確かで、僕は暇があれば店に通う半常連と化していた。

「お父さんは、元気か?」

「……相変わらずだ」

 静の仏頂面がさらに曇る。彼女の父親はダンディーという言葉を体現したようなナイスミドルなのだが、なぜかメイド服を着ている。それなりに言葉を交わす立場になった僕も、なぜそんな格好をしているのか、恐ろしくて未だに尋ねられずにいた。彼女の様子からすると、まだメイド服を着て、接客しているのだろう……。

 僕とのやり取りが一段落するのを待っていたのだろう雪哉が言う。

「幸助さんには、静の紹介の必要はないですね。六花さん、彼女は琴山静。うちの生徒会の会計です」

 雪哉に突然話をふられてテンパる六花は言った。

「わ、わかったのだ。支払いは六花に任せるのだ」

「いや、その会計じゃない」

「はうあ」

 六花はばつの悪そうな顔で俯く。こいつもアドリブがきかないやつだよな、と思う。

 雪哉は一同の顔をぐるりと見回してから言う。

「本日参集予定の人物は全員居るようですね」

 そう言ってから、雪哉は僕の方を見て付け加える。

「本当はもう一人庶務の加古川という者がおりますが、本日は別の業務で席を外しています。ご了承ください」

「ああ」

 僕の真の目的は、鈴川陽菜と白川御舟にセシリアの魔法を行使することだ。だから、別に児童会のメンバーが全員そろう必要はない。しかし、建前としては僕は文化祭実行委員の代表としてこの場に居る。そのため、雪哉はここに居ない加古川なる人物について言及したのだろう。律儀な男である。

「では、早速議題ですが――」

 雪哉の議事進行のもと、僕の提案した学年を越えた交流会についての話し合いが行われる。

 意外だったことは、

「ごめんなさいです。でも、それは小等部側の教室数が足りなくなるかもです」

「だったら、隣接してる中等部とも協力したらいいよ~。中等部も仲間に入れる方がコンセプトにも合うし~」

「……中等部を抱き込んだ方が、参加予定生徒数が上がるから補助経費も増える」

 このメンバーが想像よりも有能だったことだ。

「すいませんです。中等部を加えるなら、この条項は修正しないといけないです」

「……予算はわたしが再計算する」

「予算が増えるならカメラを用意して、景品にチーム毎の記念写真とかつけると面白いかも~。交流会の名目にも叶うし~」

 正直、なぜ、こんな色物ばかりが児童会のメンバーに選ばれているのか疑問だったのだが、彼女たちの姿を見て、僕は認識を改める。

「幸助さん、ここなんですが――」

「ああ」

 これは僕もうかうかしていられない。僕は文化祭実行委員として本気で彼女たちと向き合ったのだった。


「今日のところはこの辺りでしょうか」

 そんな雪哉の言葉を聞いて、僕は時計に目をやる。まだ、そこまで遅い時間帯ではないが、よく考えれば小等部は高等部よりも下校時間が早いのだ。そろそろお開きにすべきだろう。

「そうだな。予想していたよりも話が捗ってよかったよ」

 彼女たちの能力が高かったこともあったが、話し合いがスムーズに進んだのは雪哉の力によるところが大きい。話が停滞する絶妙なタイミングで言葉を挟んで議論を盛り上げ、積極的に話し合いに参加できない六花にも気を配り、うまく話し合いに乗せていた。やはり年少ながら会長に選ばれているだけのことはある。

「では、今日のところはここで。ありがとうございました」

 そう言って雪哉は僕に手を差し出す。握手を求めているのだ。

 これが僕たちがあらかじめ立てていた作戦だった。この流れで握手をするのは不自然じゃない。これで六花が鈴川陽菜と白川御舟に触れる機会を作る。

 雪哉が六花とも握手をし、自然な流れで僕と六花が陽菜に握手を求めたときだった。

「ひいいです! すいませんです!」

 始めに比べれば比較的落ち着いていた陽菜がまたテンパりだす。

 そして、叫ぶ。

「あ、握手をしたら何らかの呪いがかかるんじゃないかって、想像してしまいましたです! すいませんです! 殺さないでほしいです!」

(なんだこいつ、無駄に鋭い……)

 当たらずとも遠からずなのが恐ろしい。

「陽菜……そういう失礼なことは……」

 雪哉が陽菜をたしなめる。それに答えて陽菜はまた叫ぶ。

「ひいいです! 雪哉くんは普段なら私が礼儀知らずなことを言ったらもっと強い調子でたしなめるです! そんな風にしないということは雪哉くんもグルで、握手を通じて私に何らかの魔法をかけようとしているのかもしれないと想像してしまったです! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいです!」

(もうこいつ全部見抜いてるんじゃないだろうな?!)

 図星であったためか、さすがの雪哉もとっさに言葉が出ないようだ。

 仕方がない。ここは僕が何とかするしかない。

 僕は努めて優しい調子で言う。

「それなら無理に握手しなくても構わないよ」

「え?」

「嫌がる人に無理に握手しても仕方がないからな」

「あっ……」

 僕がそう言うと陽菜はばつが悪そうな顔をする。彼女だって人間だ。僕の態度を見て、罪悪感が芽生えたのだろう。

 なら、その気持ちを利用する。こうやってどこか悲しげに引き下がられるとかえって拒絶しにくいのが人間だ。まして、この数時間の付き合いだけでも察せられるが、陽菜は気が弱い。こんな風にされれば、かえって握手を受け入れるはずだ。

 僕が賢しい打算を組み立てていると、

「ボクは握手するよ~」

 そう言って僕の手を握ったのは御舟だ。

 そして、彼女は僕と六花の手を握りながら、陽菜を振り返る。

「大丈夫だよ~陽菜~」

 そして、にこりと微笑んで言う。

「二人はそんなに悪い人じゃないみたいだよ~」

「そんなに、って」

 僕は思わず苦笑する。

 まさに今、腹の黒いことを考えていたのだが。

「なんとなくだけど解るよ~。きっと幸助さんは、大切な人のためなら、冷たいこともできるけど、本当は優しい人」

 僕は――ぞくりとする。

 彼女の人物評が的を射ていたとは思わない。僕は別に自分が優しい人間だなんて思っていないから。

 だが、僕は自分の冷酷な面を表に出したつもりは更々なかった。なのに彼女はそれを見抜いた。僕はその点に思わず戦慄を覚えないではいられなかったのだ。

「六花さんは、すこし怖がりでその分、強がってしまう部分もあるけど、本当は誰よりも人の気持ちに敏感な人なんだよね」

 六花も御舟の言葉を受けて、目を見開いている。「気持ちに敏感」というのは、セシリアの魔法のことを見抜いて言っているのか……?

「六花さん~?」

「あっ、ああ」

 御舟はうっすらと笑みを浮かべたまま、なぜか六花の手を離さない。

(まさか、こいつ六花が魔法を使うのをあえて待ってる……?)

 六花の表情を見れば、六花がまだ魔法を行使していないのは明らか。六花は魔法を使うと一瞬意識が飛ぶ。彼女はまだ意識をはっきりと保っている。

 僕は一瞬迷った。それは御舟の行動の真意が読めなかったからだ。頭に過ったのは、御舟がスパイであり、読心魔法に対して何らかの対抗魔法を用意していたというパターン。それならば、安易に魔法を使うのは危険だ。

 だが、同時に今が得体の知れない御舟を調べる最大のチャンスでもある。

 僕は逡巡のために指示をくだせなかった。

 だが、六花は一瞬、僕に目配せしたあと、――魔法を使った。

 それは一瞬だった。おそらく、魔法の知識がない静ならば魔法が行使されたことも気が付かないだろう。

 六花の魔法が終わったことを見極めたのか、御舟はにこりと微笑んで言った。

「ありがと~」

 六花は呑まれたようにきょとんとした顔をしている。

 御舟は陽菜を見て、言う。

「ほら、陽菜も~」

「で、でも……」

 またも涙目になっている陽菜に向かって御舟は言う。

「もしかしたら、陽菜にはもう呪いがかかってるかもしれないよ~」

「ふええです?!」

「でも、もしかしたら、六花さんの手には呪いを解く力があるかもだよ~」

「ありがとうございましたです!」

 御舟にそう言われた瞬間、陽菜は六花の手を飛び付くようにして握っていた。

「死にたくないですぅ!」

 陽菜はぼろぼろと涙を流しながら六花の手を握るのだった。


「二人とも『白』ね……」

 帰り道。僕は六花と並んで歩く。雪哉は用事があるということで先に帰った。おおよそ、そよぎ関連ではないかと思うが。

「あいつはいったいどういう人物だったんだ……」

 白川御舟。『勇者』候補に名前が上がるくらいの魔法を持ち、それだけでなく、何もかもを見透かしているような得体のしれなさがあった。

 セシリアが白というからには白なのだろうが、どこか釈然としないものが残っていることも事実だった。

 昨日と同じように僕は自転車を押して、六花は徒歩で帰宅の徒につく。初日はリムジンを乗り回して登校していた六花は最近は最寄り駅までを徒歩で通学するようになっていた。さすがにリムジン送迎は学校側に許可されなかったようだった。

 駅までの田舎道。そういえば、昨日ここで六花が僕の気持ちをそよぎに暴露したんだっけか……。

 そんなことを考えながら僕はぽつりと呟く。

「そういやさっきはすまなかった」

「さっき……?」

「おまえが白川御舟に魔法を使うかどうか迷ったときに指示が出せなかった」

 思い返すとあれは痛恨だ。僕は僕自身の能力は、消去法的に作戦立案と判断能力にしかないと思っている。それが現在魔法をまともに使いこなせない僕に唯一できることだったからだ。

「ごめんな」

 僕は六花にそう言って謝った。

 六花は、僕の言葉を聞いて、冷たい目で僕を睨んだ。

「どうでもいいのだ」

「どうでもって……」

「別に謝ってもらわなくちゃいけないほどのことではなかったのだ」

 六花は僕から目をそらして、顔を伏せながら呟いた。

「むしろ、謝らなくてはならないのはりっかなのだ……」

「謝る?」

「こないだ、この場所で言ってしまったことなのだ……」

 僕は六花が自らその話を出してくるとは思っていなかったので面喰らう。

「悪かったのだ……こんなこと言ってももう遅いだろうけど……」

 六花が言った「もう遅い」という言葉がひっかかった。だから、僕は言う。

「なんだよ、もう遅いって」

 六花は足を早めて、僕よりも前を歩きながら呟いた。

「きっと昨日のことで、おまえはりっかを嫌いになっただろ」

「………………」

 六花の意外な言葉に、僕は言葉を失う。

「りっかはいつもそうなのだ。前の学校でもそうだった。言わない方がいいこと、言っちゃいけないこと。そういうことを我慢できずに言ってしまった。そしたら、みんなすぐに六花から離れて行ったのだ。お金を持ってても友達の気持ちは買えなかったのだ」

 前を歩く六花の顔は見えない。

「りっかには何もないのだ……セシリアが居なくなって、魔法が使えなくなったら、きっとおまえにとって、りっかは何の価値も無い存在になるのだ」

「……おまえ、そんなこと考えてたのか」

 僕は六花の気持ちを見誤っていた。

 有り体を言えば、僕は六花を見くびっていた。

 僕はこう考えていた。

(友達の居ない六花は、今、僕たちという『友達』を得て満足しているんだ)

 と。

 六花が前の学校で友達がいなかったことは、カラオケに行く前の会話から察していた。六花が転校の手続きをするセシリアに黙ってしたがったのだって、そうした人間関係が根本にあるのだろうと考察していた。そうでなければ、いかにセシリアが六花の身体を使って、転校手続きを進めようとしても保護者が承認するはずがない。つまり、もともと六花には転校するだけの理由があった。


 きっと、六花は前の学校でいじめにあっていたんだ。


 だから、僕はこうして六花と『友達』を『やってあげてる』。

 そんな傲慢な考えがどこかにあった。いじめられっ子に付き合ってやってる。かまってやってる。

 僕は六花を心の底で見下していたんだ。

 そんなことに、今やっと気付かされた。

「ああ、僕もまだまだだよ」

「幸助?」

「悪い。ちょっと調子に乗ってた」

 そよぎの大きな『なやみごと』を解決して、生きる希望を与えて、僕はどこか自惚れていた。ちょっと前まで、自分の立場は今の六花とそう変わらないものでしかなかったことを忘れて天狗になっていた。

 なんだこれ。馬鹿みたいだ。

 僕は自己嫌悪に陥る。


 ――それでも


「六花、おまえは僕の大切な『友達』だ」

「………………『友達』」

「ああ。たとえ、ちょっとくらい嫌なことをいってしまったからって、それで終わりになるわけじゃない。『友達』だからな」

「………………」

「たとえ、魔法がなくたって、おまえは僕の『友達』だ」


 僕はいつかこの瞬間の報いを受ける。

 だが、たとえ、僕が時間をさかのぼってこの場所に辿り着いてもきっと同じことを言ったはずだ。

 大切な人の気持ちを利用してでも、踏みにじってでも、僕には守りたいものがあったから。

 そのために必要であるなら、僕は――

 



 ――いくらでも悪辣を為す。


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