第56話

「さて、今日から本格的に捜査開始と行くわけだが」

 放課後の教室。そこに集まったのは、いつものメンバーだ。そよぎ、凪、風音、雪哉、そして、六花。

 そもそも、六花がここへやってきたのは、セシリアが僕たちバルバニアのマジカルバトル関係者の中に居る裏切り者を見つけるためだ。そのために、容疑者をひとりひとり当たって行く必要があるのだが……その前にやっておかねばならないことがある。

「まず、僕たちのスパイ容疑を晴らしておこう」

 僕がそう宣言すると六花の身体を借りたセシリアが不思議そうに言う。

「え? 私はもう旦那さまのお仲間を疑っていないのですが」

「その根拠はなんだ?」

 僕はセシリアに問いかける。

 するとセシリアは豊満な胸を張って、微笑んで言う。

「それは旦那さまが、そうおっしゃったからですわ」

 僕は小さく溜め息をついてから告げる。

「そんな根拠で上層部が納得するはずがない」

 仲間だから、友達だから、そんな理由で疑いが晴れるなら捜査に苦労は無い。

 僕はセシリアをじっと見つめながら言う。

「セシリア、おまえの『魔法』を僕たちに使え」

「私の『魔法』ですか……?」

 セシリアの『魔法』とは、魔法少女たちが『独創魔法オリジン』と呼んでいる類いのもの。基本的に他人には使えず、自分自身にしか運用できない唯一無二の魔法のことだ。

「セシリアの『独創魔法オリジン』は読心魔法だ」

「読心魔法?」

 そよぎは首をかしげている。

「セシリアは人の心が読めるんだ」

 僕はそよぎにそう説明してやる。

 僕の言葉に反応したのは、凪と風音だった。

「なるほど。それはスパイ捜査にうってつけだな」

「ていうか、そんな魔法あったらスパイなんてすぐに見つかるんじゃないの?」

 風音がもっともな疑問を呈する。

 すると、セシリアは申し訳なさそうな顔をして、その疑問に答える。

「申し訳ありませんが、私の読心魔法には様々な制約がございます」

 そう言ってセシリアは自らの魔法について説明を続ける。

「まず、人の心のどんなことでも知ることができるわけではありません。ある一定の出来事を読もうと集中しなければ読む事はできません。たとえば、『昨日、何をしていたのか?』という一点に絞り込まねば、心を読みとることはできません。ある程度の指向性を持たせなければ、雑然としたイメージが流れ込んでくることにしかならないのです」

 さらにセシリアは続ける。

「また、読めると言ってもかなり漠然としたものであり、細かい点はわかりません。たとえば、『昨日、何をしていたのか?』という問いかけで心を読んでも、せいぜいどこに居て何をしていたのかを理解できるだけです」

 皆、セシリアの説明に黙って耳を傾けている。

「たとえば、『教室で勉強していた』ということは理解できても、どんな勉強をしたのか、とか、どんな事を考えていたのかまでは基本的にはわかりません。あまりに強い感情であったり、私と術式の対象者の魔力の波長が近かったりすると、感情面も解ることもあるのですけど。また、本人が忘れているような遠い過去の出来事を調べることもできません」

 セシリアは、言う。

「ですから、私の魔法は『心を読む』というよりは、基本的には『記憶の中からアリバイを確認できる』という程度の性質のものとご理解いただければと思います」

「『アリバイを確認する』魔法か……」

 凪は何かを考えているような顔で呟く。

 今度は雪哉が発言する。

「しかし、たとえアリバイ確認魔法だとしても、今回の捜査に関して言えばそれで充分なのでは? 記憶を客観的に観察してスパイ行動を行っていればクロ。していなければ、シロと見なせばいいわけでしょう?」

 雪哉の疑問も、もっともだ。

 要するにセシリアの魔法は、対象者の一定期間の過去をのぞき見る魔法。そこでスパイとして敵国に情報を送る様な行動を取っていればクロ。取っていなければシロ。至極単純な話に思える。

 それを受けて、セシリアが応える。

「雪哉様のおっしゃることは最もでございますが、私の魔法には非常に面倒な『限定条件』がございます」

「『限定条件』?」

 そよぎが首をかしげる。

 『限定条件』とは、要するにその魔法を使うための条件だ。その条件は魔法によって様々で、呪文を唱える必要があったり、特定の呪物を用意する必要があったりする。

 セシリアは言う。

「私の魔法の『限定条件』は『対象者の身体に触れること』です」

「これで安易に魔法が使えない理由はわかっただろ?」

 僕は雪哉に向かって言う。

 すると、雪哉は僕の言葉に小さく頷いて応える。

「ええ、確かに。本当のスパイが理由なく無防備に身体を触らせてくれるとは思えません」

 雪哉は続けて言う。

「すべての事情を明かして、あくまで疑いを晴らすために心を読ませろ、という方法も考えられますが、リスクが高いですね」

「ああ。相手が本物のスパイならどんな手段を使うか解らない。それこそ、接触を利用して呪いを仕込んだりする可能性もゼロじゃないからな」

 僕はそう言って、今度は全員に向かって言う。

「捜査方針はいったん置くとして、とりあえず僕たちの疑いだけは晴らしておく必要がある。だから、申し訳ないが素直にセシリアの魔法で心を読ませてほしい」

 僕の言葉に否を唱えたのは、なぜか心を読む側であるセシリアの方だった。

「旦那さま。ですから、私は旦那さまとそのお仲間の皆様を信じております。左様なことをなされなくても、私はスパイの容疑など」

「セシリア――」

 これは僕ではなく、ワルドの言葉だ。

「これは単なる一個人の感情で決めてよいことではありません。君の単なるあて推量と、まがりなりにも読心魔法を使った捜査結果ならば、どちらの方が信憑性が高いのかは明らかです」

 ワルドは更に言葉を紡ぐ。

「君は私を信用し過ぎです」

 ワルドのその短い言葉の中には、セシリアへ対する様々な思いが詰まっている。僕にはそれが解った。

 セシリアはワルドの言葉を聞いて、複雑な表情を浮かべる。一度口を開きかけてやめ、何かを考えるようにうつむいてから、再び顔を上げる。

「……わかりました。みなさまに同意していただけるなら私は魔法を行使いたします」

 セシリアは少しうつむいてそう答えた。


 結局、話はまとまった。

 心を読むのは、あくまでスパイ容疑に関することだけ。それ以外のプライベートな事に関してはできるだけ読まないようにする。そういう条件で全員が納得したのだった。







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