第48話

「空間移動を使う敵をどうやって倒したらいいと思う?」

 夕闇に染まる教室で、こんなことを言い出したのは、誰もが認める美少女、愛原そよぎだ。

 そして、そよぎは、僕の彼女でもある。

「空間移動か……」

 そんな彼女、愛原そよぎの『なやみごと』は、非常に独特である。彼女の『なやみごと』は、彼女の真の正体に起因している。

「魔法少女っていうのも、ほんと色々居るもんだなあ」

 彼女の正体。それは魔法少女である。

 魔法少女と言えば、マンガやアニメでお馴染みであるが、おおよそ、そんな創作の世界に出てくるものと同じようなものと想像してもらえばいい。

 魔法少女は、異世界の魔法の国、合衆国バルバニアから派遣された監督者と契約することで魔法の力を得る。その魔法少女同士の戦いはマジカルバトルと呼ばれていた。

 僕たちはいつもこんな風に、そよぎが敵対する魔法少女に勝つ方法を模索していた。

 そして、そよぎは可愛らしく首を傾げて言う。

「なんでテレポートを使う敵ってクール系が多いんだろうね?」

「そうか……?」

「ほら、スピードタイプのキャラで熱血キャラっていないでしょ?」

「それはなんとなく解るけど」

「筋肉ムキムキの斧もってるパワータイプは、絶対スピードタイプにやられるよね」

「確かにそんな展開多いけど」

 そして、そよぎは話し続ける。

「でも、そういう空間移動系の使い手は絶対ラスボスじゃないよね」

「うーん……?」

「ラスボスの側近にはよくいるけど」

「まあ、そういう能力者が居たら突然現れる演出で便利だからな」

「そして、大体主人公に一瞬でやられるよね」

「さっきから何の話をしてるんだ」

 そよぎの知識の偏りは半端ではない。こういうくだらないことだけはきっちり覚えている。

 僕は話を本題に戻していく。

「空間移動系能力者の倒し方だったな」

「うん」

「まず空間移動系能力者には大きく分けて二つのパターンがある」

「ほう」

 目を輝かせて話を聞いているそよぎに僕は告げる。

「一つは、文字通りに別の座標に移動するタイプだ」

 僕は続ける。

「いわゆるテレポートって聞いて一般人がイメージするタイプがこれだ。消えたと思ったその瞬間、別の場所に現れている」

「ふむふむ」

 そよぎはこくこくと頷いているが本当に理解しているかは怪しい。

「もう一つは、空間に穴を開けて別の場所とつなげるタイプだ」

 僕は指先で空中にぐるりと円を描く。

「たとえば、こんな風にして空間の一部に穴をあける。『ワームホール』とかをイメージしてもらえばいいかもしれない」

「『ワームホール』……」

 そよぎには『ワームホール』という言葉の意味が解らないようだ。どうせ、また頓珍漢な勘違いをしているのだろうと思って、僕は黙ってそよぎの言葉を待つ。

「………………」

 ところが、そよぎは真剣な表情で何かを考え込んでいるようだ。『ワームホール』という言葉の意味を考えているのだろうか。

「どうしたんだ? そよぎ」

「いや……ごめん……」

 そよぎは頭を抱え込んだまま言う。

「ちょっと面白い勘違いネタが思いつかなくて……」

「狙ってボケてたの?!」

 ちょっと待て、こいつ天然じゃなかったのか。

「『ワームホール』だから『ホームルーム』あたりでボケようかと思ったんだけど、流石にちょっと無理があるかなって。『ああ、こいつ、遂にネタ切れか』って思われるのが嫌で……」

「なにコメディ書いてるラノベ作家みたいな『なやみ』を抱えてくれてんだ」

 ギャグの応酬があるラノベを書いてる作家さんは本当にすごいと思います。

「まあ、安心してよ。『ワームホール』って言葉の意味は本当に解らないから」

「何に安心したらいいんだよ……」

 とはいえ、そよぎがきちんとアホだということに、なぜか安心してしまっている自分が居るのも事実なのだが。

「『ワームホール』っていうのは、『虫食い穴』って意味だよ」

 もともとはリンゴの表面に居る虫が、ある一点から反対側に行くためには、リンゴの周りをぐるりと回り込まねば辿り着くことが出来ないが、リンゴを食べながら穴を開けて移動すれば、最短距離で移動できるという発想に由来する命名らしい。そんな話をそよぎにも理解できるように懇切丁寧に説明してやる。

「なるほど……つまり、リンゴを食べれば瞬間移動できると?」

「やれるもんならやってみろよ」

 僕の想いは通じていないようである。

「ははは、やだなあ。今のはあえてボケたんだよ」

「ほんとかよ」

「私は虫じゃないから瞬間移動できないってことくらい理解してるって」

「いや、虫も瞬間移動はできないと思うよ」

 こいつ、「あえてボケた」という事にすれば、なんでもごまかせると思っているじゃないだろうな……。

 僕は幼稚園児に教えるように一から十まで、丁寧に噛み砕いてそよぎに説明してやる。

「なるほど」

 そよぎはぽんと手を叩く。

「わかったか?」

「うん。つまり、『ワームホール』って言うのは、マ○カでキノコを使ってショートカットするみたいなものって事だね」

「まあ、そういうことだよ」

 そのたとえは解りやすいのだろうか。まあ、本人が納得したなら別に構わないのだが。

「で、やっと話を本筋に戻すんだが」

 毎度のことながらそよぎとの会話は、話の軌道修正が大変である。

「今回戦った相手は、どっちのタイプだった?」

 テレポートタイプか、ワームホールタイプか。

「たぶん、ワームホールの方だよ。なんかピンク色のもやもやが出てきてそれをくぐったら、別の場所から現れたから」

「なるほどな、なら対処法はいくつかある」

 この二種類ならばどちらかと言えばテレポートタイプの方が厄介だ。それこそ瞬間的に移動可能なので、こちらがどれだけスピード上げて対応しようとしても無意味だからだ。テレポートタイプは座標演算が複雑な場合が多いので、相手の思考能力をかき乱してやれば、対処できることも多いが、逆に言えばそれくらいしか対抗策はない。

「ワームホールタイプなら移動自体は瞬間的なものじゃない。単純に相手がそのワームホールをくぐる前に倒してしまえばいい」

「うーん、シンプルで解りやすいけど、そんなにうまくいくかな?」

「確かにな。相手も当然移動前を狙われるという事は解っているだろうからな」

 僕は次の方策を提示する。

「なら、移動直後を狙う」

「ふむ」

「つまり、相手の移動場所を先読みするんだ」

 僕の言葉に、そよぎは渋い顔を浮かべる。

「それは難しくないかな……?」

「いや、そこまで難しく考える必要はない」

 僕は告げる。

「自分が空間移動能力を持っていたとしてどこに移動した場合に効果が高く、どこに移動した場合に効果が低いのかを考えれば、基本的に移動場所を絞ることができる」

「ふむ……」

 そよぎは真面目な顔で聞いているがたぶん話についてきていない。

「結論を言えば、相手は必ず背後に移動してくるはずだ」

「背後に?」

「考えてもみろ。魔法少女の身体能力は高い。動体視力も同様。右や左から現れても即座に対応できるはずだ」

「そうだね」

「だが、唯一背後だけはいくら魔法少女といえど対応できない。流石に見えてない攻撃に対応するのは無理だ」

 特殊な魔法や気の流れを読める達人ならいざ知らず、普通の魔法少女なら背後から一撃は受けられない。

「だから、相手が完全にワームホールに入った瞬間に自分の背後を振り返れば、そこに敵がいるはずだ」

 僕がそう言うと珍しくそよぎが反論する。

「でも、相手もそれを読んでいるかもしれないよ」

「いい指摘だ」

 僕は素直に褒める。

 確かに常に背後に回るという戦略が読まれているという裏をかいて、背後以外の地点に移動するという戦略はいかにもありそうだ。それに、相手が飛び道具を持っていた場合、ワームホールを使って一定距離を保ちながら攻撃し続けたり、ワームホールを使って、飛び道具のみを相手の背後に飛ばすということも想定できる。僕の背後に回った瞬間を狙うという戦略はあくまで相手がワームホールを使って、接近戦をしかけるという想定での対処だからだ。

「なら飛び道具に対抗するには飛び道具だ」

 僕は続ける。

「そよぎの『汎用魔法ジェネラル』は『強化』だったな?」

「おそらく!」

「そうなんだよ。僕は覚えてますが」

 たぶん、『ジェネラル』という単語の意味が解らないから覚えられないのだろう。『general』とは『将軍』などの意味もあるが、この場合は『一般的な』という意味で使っているのだと思われる。

「なら投擲武器を強化して使うこともできるな」

「おそらく!」

「石でも何でもいい。『硬度強化』で硬度を上げて、『肉体強化』で全力で投げれば、そよぎにも遠距離攻撃が可能なはずだ」

 できれば、拳銃があればベストなのだが、無い物ねだりをしても仕方がないだろう。何か代わりになる物を探しておいた方がいいのかもしれない。

「これで飛び道具に関しては『イーブン』だろ」

「………………」

 そよぎは突然スマートフォンをいじり始める。

 そして、画面を見ながら棒読みで言う。

「熱した空気または壁面などから発する赤外線によって食品を加熱し、焼いて、または乾燥を行う閉じた空間の調理器具かあ……」

「………………」

「って、それは『オーブン』やないかい!」

「………………」

「今のボケはどう?」

「32点」

「やった! 満点だ!」

「32点が満点の採点方式なんて生まれて初めてだわ」

 世の中には僕の知らないことがたくさんあるんだなと思いました(小並感)。

「で、『イーブン』って何?」

「それをスマートフォンで調べればいいんじゃないかな?」

 『イーブン』とは、五分五分の形勢のことである。


「話を戻すと」

 僕は話題の軌道修正を試みる。

「これでとりあえずはそよぎも飛び道具を使えることになる。これで相手が飛び道具を使ってきても形勢は五分だ」

「ふむ……」

 そよぎはあごに手を当てて何か考えている様な素振りを見せている。

「それで」

 そよぎが再び口を開く。

「私が飛び道具を使ってどうすればいいの?」

 僕は応える。

「接近戦に持ち込めるならそれでいい。だが、相手がワームホールを駆使して遠距離攻撃を仕掛けてきたときは」

 僕は野球の投球動作をしながら告げる。

「ワームホールにこちらから飛び道具をぶち込んでやればいい」

「ワームホールに?」

「ああ」

 僕は頷く。

「さっきも言ったようにワームホールの出現位置は基本的に背後と見ていい。裏をかいて別の場所に現れたときはそよぎの動体視力なら追えるはず。どちらにしても、出現したワームホールにこちらから先制攻撃をぶち込む」

 ワームホールの欠点は出現位置を相手に教えてしまうこと。テレポートタイプならばモーションが少ないので、この手は使いにくいが、ワームホールならば相手の位置は一目瞭然だ。

「たとえ、相手が使っているのが飛び道具であってもそこに相手に通じる道ができていることは間違いない。ワームホールは相手の攻撃の手段と同時に、相手に直接攻撃をぶち込むショートカットでもあるんだ」

「なるほど」

 実際には、『強化』の魔法が使えることと、投擲武器を使いこなすことはまったくの別問題。魔法少女は通常の人間よりも格段に身体能力こそあがるが、戦闘技術が上がるわけではない。特殊な魔法をのぞき、技術は修練以外で身につけることは不可能だ。だから、実際にはそよぎが投擲武器を持っても、相手の飛び道具と五分になるなんていうことはありえない。

 それに相手のワームホールを利用して反撃するという方法は悪くないアイデアであると思うが、相手だってワームホールを展開したからには、少なくともそこを通じて攻撃をしかけてくるのだ。こちらが反撃しても相手からの攻撃が止まるわけではない。つまり、この方法ならば相討ちがいい所なのだ。

(だが、そよぎには独特の魔法がある……)

 魔法少女が一人一つ持つという『独創魔法オリジン』。彼女の『独創魔法オリジン』は――

(『機械仕掛けの女神デウスエクスマーキナー』)

 『運命操作』魔法。

 平たく言えば、願いをかなえる魔法。

 もちろん、万能の力では無い。いくつもの制限が存在する。

 たとえば、『時間を止めたい』とか、『透明になりたい』のような魔法的には可能でも、物理的に不可能な願いについては原則叶えられない。

 また、その願いが心からのもの、信じているものでなければ叶わない。たとえば、『50メートルを6秒で走りたい』という願い自体は不可能ではないが、それを心の底から願わなければ叶わない(ちなみに『50メートルを1秒で走りたい』は叶わないと思われる)。

 だから、今回のように実際には戦略に穴があろうとも、そよぎ自身が「勝てる」と思えば、戦闘に勝利することができるのだ。

(これは恐ろしい力だ……)

 様々な制限こそかかっているとはいえ、願いをかなえる力だ。それが並大抵のものでないことは明らかだ。マンガで例えるなら、ラスボス級の能力と考えて間違いない。

 当然、この力を何らかの形で利用しようとする者が居ることも考えられるわけだ。

(この力の存在は、既に大統領に知られている……)

 大統領。合衆国バルバニア第26代大統領リリシア・ドランバティ。

 権謀術数に長けた女狐。

 なぜ奴がそよぎの存在を寛恕しているのかは、僕には理解が及ばない。

 だが、それも間違いなく何らかの企みを持ってのことだ。

(僕はみっともなくても、卑怯でも、そよぎを守ると決めているんだ)

 もしも、いつかそよぎの命が脅かされる様なことがあれば、僕は全力で彼女を守る。そう決意している。

 この身に変えても、と言うつもりは無い。

 この子は僕や仲間が居ないと生きていけない。

 だから、僕は自分を含めて絶対に誰の犠牲も払わずにこの子を守らなくてはならない。

 都合のよいことを考えているだろうか。

 だが、それでも僕は、そんな『ご都合主義』の結末を望んでいるんだ。

「幸助くん?」

「ああ」

 そよぎに呼びかけられて我に返る。僕は笑顔を作ってそよぎに応える。

「これで勝てるな?」

「うん」

 そよぎはにっこりと笑う。

 僕はこの笑顔を守る。

 どんな方法を使ってでも。


「結局、一個解らないことがあるんだけど」

 そよぎはこんなことを言いだす。

「なんだ?」

 そよぎは真剣な眼差しで言った。

「ワームホールを作るときって、どこからマ○カのキノコ出してるの?」

「うーん、そのオチ7点」

 もちろん、32点満点である。










 これが僕たちの日常だった。

 こんなくだらない日常を破壊するものが、すぐ目の前まで迫っていたなんて、このときの僕は知る由もなかった。

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