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アイドル・グループのセンターで揉める

 

 最初にそれを口にしたのは、うちの母親だった。
 墓参りのときだっから、お盆、もしくはその直後、すなわち八月中旬から下旬にかけてのことだろうと思う。

 うちの母は唐突にこんな話をしたのであった。

「欅坂(けやきざか)46のセンターの子が凄いよ」

 それに対するぼくのリアクションは、こうであった。

「え? 乃木坂でなく?」

 しかし、母は冷静に返す。

「そ、欅坂。自分のことボクって言ってて、ダンスとかもカッコいいんだから」

 

 実際には、欅坂46というグループが実在することは知っている。知識として、知ってはいる。

 だが、どんなグループで、どんな歌を歌っているとか、どんな子が所属しているのかという実質的なことは何ひとつ知らない。ぼくのアイドルとか芸能人に関する知識では、乃木坂46が最近はちょっと人気があって、そのメンバーの何人かをちょっとだけ知っている、その程度である。よって、欅坂46といわれてしまうと、そこは理解の外、知識の限界を超えた異次元の話になってしまう。

 ということで、後日、動画検索をしてみた。

 正直、いくつかの動画があって、どれを見ていいのか分からなかったが、いくつか見て、たぶん母が言っていたのは、これだろうというものを見つける。おそらくは姪っ子のハナちゃん──母にとっては孫にあたる──に見せられた動画だと思うのだが、欅坂46の、それっぽいPVを見ることが出来た。

 なるほど、たしかに凄い。センターの子の個性は強烈だ。

 なんといえばいいのか。こういうことを文章で表現するのは難しいが、一言で例えるなら、欅坂46は「女子版一世風靡セピア」。センターの子は、「元気な綾波レイ」といったところか。……実際のところは、よく知らんけど(笑)。

 ただ、それはそれで一度終わった話ではあるのだ。


 しかし、後日、ふとテレビのCMに、この欅坂46が出ているのを発見する。
 あれ、もしかして欅坂46って有名なのか? 疑問に思ってしまった。自分は知らなかったが、もしかしたら世間的にはかーなーり有名なグループなのかもしれない。


 そこで職場で、B店長に聞いてみた。

「欅坂46って知ってます?」


 B店長は60代女性。血液型はAB型。未婚。
 結構強烈な個性の持ち主で、獣のような言語中枢を持っている。B店長のBはババアの略であり、店長と呼ばれてはいるが、実際に店長なわけでもない。

 こんなエピソードがある。

 あるお店は、帰るときに店の入り口のカギを、ビルの入り口に並んだ郵便受けに入れて帰り、翌朝、出社した人はその郵便受けの扉を暗証番号で開いて取り出し、店を開ける。つまり郵便受けを、一種の金庫のように使っていたのだ。
 で、あるとき、鍵だったか、それともそれに近い重要な物だったかは忘れた。が、とにかくそれをぼくが手にしていると、B店長が大声で叫んだ。

「ちょっと、それ、46番に入れておいて! 46番、46番!」

 ぼくは冷静にB店長のところまで近づいて、こう提案した。

「あの、郵便受けのことを、それを開けるための暗証番号で呼ぶの、やめません?」

 46番とは、郵便受けを開くための暗証番号である。
 その暗証番号で呼ぶのはやめようよ。
 しかも、大声で。

「そうね、そうね」

 どうもそこは理解してくれたようで、そうねを連発していた。
 
 とまあ、B店長の言語中枢とは、そんな感じだ。思ったことを考え無しに叫ぶところがある。

 で、このB店長。芸能通を自称しており、そのくせ人の名前は思い出せないもんだから、何かというと芸能人の名前を、ぼくらは三題噺みたいなヒントで解答を要求されることが多い。

「乳でかい、30代前半、できちゃった婚」の3つのヒントだけで、「真木よう子」に辿り着くのは、ほんと大変だった。



 とまあ、そういう経緯があり、「欅坂46のセンターの子って知っている?」とぼくに尋ねられて、「知らない」とは言えなかったらしい。変なリアクションが返ってきた。


「欅坂のセンターは、あたしの好きな卓球選手が大ファンで、テレビの番組で会って泣いちゃったのよ!」

 言いたいことは分かるが、意味が分からねえ。だいたい今唐突に登場した『あたしの好きな卓球選手』ってなんだ! ここにきて謎を増やすな!

 そして職場のパソコンで欅坂46のセンターを画像検索。どうでもいいが、このとき画面一杯に表示した画像がすげー格好良くて、「あれ、いったいどうやって見つけたんだろう?」と、実は最近も探しています。


 まあ、それはいいとして、B店長。

 よく分からねえなら、よく分からねえって白状しろよ!


 で、さらにいろいろ検索してみたらしいB店長。しばらくして戻ってきて、

「あたしの好きな卓球選手がファンだったのは、乃木坂のセンターだったわ」

 つまり結局、欅坂のセンターは知らないってことだ。が、ちょっとまって。

「あれ? 乃木坂のセンターって、それ誰のことですか?」

 乃木坂46のセンターは固定ではなく、たしか何人かがいろいろやっているのではなかったか? よく知らんけど。

「綺麗な子!」

 なんのヒントにもならねえ。

「白石麻衣ですか?」とりあえず知っている名前を出してみる。

「ちがう。名前に夏のつく子!」

「あ、いますね。夏のつく子。なんだっけな?」

「ちょっと待って、いま思い出すから! えーと、に……し……の……、七瀬!」

「夏なんかつかないじゃないっすか!」




 とまあ、そういう事件を経ての話なんだが、欅坂46のセンターは平手友梨奈ちゃん、愛称はテチというらしいです。
 あっ、タ行とハ行を組み合わせると、ずいぶん硬い印象の名前になるんだな、と気づきました。

 次回作の主人公は生真面目な性格なので、このタ行とハ行の組み合わせで名付けることにしました。ビジュアル・デザインが、平手友梨奈ちゃんに似ているのは、だから決して偶然ではありません。

 どんな話になるかは、お楽しみに。

4件のコメント

  • 大竹斬太様

     この度は、拙作にお付き合いいただき……、と、お礼のつもりで伺いましたら、ノートに一本の物語がwww
     思わずお腹を抱えて笑ってしまいました ← とは言えアイドルのことなど全く分からずですが( ̄▽ ̄;)


     ☆☆☆ 日常。がゆえにドラマティック。

     B店長、あるあるですね。わたしも、我がふり直さねばと感じ入ることになりました!
  • こんばんは、初めまして。近況ノート好きの上原と申します。
    こういうノート内容も大好きです!一本のまとまったエッセイを読んでるかのよう。完成度の高さと観察眼の鋭さ恐れ入りました。

    それでは、今後ともよろしくお願いします。ちょくちょく覗きに来させていただきます!
  •  如月さん、こんにちは。

     なんとか「秋山が立たされた理由」、追いつきたいものだと思っているのですが、案外読み進められない。きっと一日一話で読む形態だからとは思いつつ。が、今回はまさかのバイト編。しかも外に立つという演出。

     上の話は実は作品として書こうかとも思ったのですが、それほどの話でもないし、どこまで続くのかも分からないし。もちろん場合によっては作品にまとめることも考えているのですが、ひとつ問題が。なにせこれ、実話なんです(笑)。
  •  上原さん、はじめまして。

     近況ノートに創作とは関係ないエピソードを載せるのはどうなのかな?と少し迷っていたのですが、どうせそんなに大勢が見るわけでもない近況ノート。やっちまうかと決心したあたりで、上原さんの自主企画を見つけたので、参加させていただきました。

     あ、でも、普段は真面目な話が多いですよ、きっと。次回作に関する宣言とか、前作に対する反省とか、創作論とか。
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