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『おれの創世記』続き⑩

「そうそう。忘れないうちにこれをオレに渡しておくわ。」

 ナナオがヨレた茶色い紙をおれに差し出した。

「お。なんだ?」
「この街周辺の地図よ。」
「おお、それは助かるぜ。ナナオが書いたのか?」

 おれはナナオから地図を受け取り、開いて見た。
 ナナオの地図にはおおまかな丸と四角と、山や川と思われる絵と、地名がインクで書いてあった。

「そうよ。……絵、下手だった?」
「いや、ありがとう、ナナオ。この中心の丸がこの街ってことだな。」
「うん。それで、前に行ったキースの村がこの辺で、こっちに——」

 ナナオは、おれの横に来て一緒に地図を覗き込みながら説明を始めた。
 近いな。ナナオの匂いがおれの鼻にも届く。

「聞いてる? オレ?」
「ああ。大丈夫だ。それでナナオの村はどの辺りなんだ?」
「私の村は地図の外ね。この紙には書ききれないわ。」
「そうか。」
 
 まあ、この街の周辺のことさえわかればクエストを受ける分には困ることはない。依頼書で見覚えのある地名もいくつか書いてある。地図の上が北で、街の入り口の門がこの位置ってことは、おれは西の方からこの街に来たってことだなあ……。

「やっぱりオレって、東の出身じゃないよね。」
「え?」
「まあいいけど。それより、この地図で今日のクエストの場所わかる?」
「あ? ああ。……ここだろ?」
「うん。正解。それじゃ、そろそろ向かいましょう。」

 おれとナナオはジャイアントボアが出没するという森へと討伐に向かった。
 おれがこの世界の地理に詳しくないことはナナオにはバレているようなので、クエストの途中でも、おれは恥を承知でナナオに質問しまくった。
 まとめるとこうだ。この街ウェスベルクと東にあるイースベルク、ナナオの出身のサンベルクの村は同じベルクという国にある。それに対してエバンスが出身だと言ったノースカロンはここより北にある国で二つほど国を跨ぐらしい。ウェスブルクの西にはダリオという国があって、ナナオはおれをダリオの出身ではないかと予想していたらしい。まあそれは違うとわかったようだ。

「だからおれは神様で、この世界には数日前に来たばかりなんだ。」
「……また変なことを言ってる……。」

 本当のことだけは、なかなかナナオに信じてもらえないみたいだったが。

     ◇

 おれたちがジャイアントボアの討伐で得た報酬は銀貨一枚。ナナオと分けて一人当たり銅貨十枚。つまり五千円。
 ここ数日に受けられた他のクエストも、報酬はだいたいそんなもんだった。
 これが今のおれたちのランクでの平均日給だとすると、ひと月に三十日働いても銀貨十五枚か。もちろん毎日クエストが受けられるわけではないし休息も必要だろう。そうなると一ヶ月の収入は銀貨十枚がいいところだな。金貨一枚にもならない。

「なあ、ナナオ。もっと稼げるクエストは無いのか?」

 おれは冒険者ギルドのテーブルで依頼書を吟味しているナナオに聞いた。
 ナナオは顔をあげておれに答えた。

「無いわ。」
「まじか。」
「もっと割のいいクエストはね、ランクの高い冒険者のところに直接依頼がされるの。私たちはまだFランクでしょ? 今はこうして受けられる依頼をこなして、冒険者のランクを上げるしかない。」
「そういうものか。」

 じゃあどれくらい依頼を受ければ冒険者のランクは上がるんだ? 何年もかかるんじゃしょうがないぞ?

「ナナオ。どうやったらランクは上がるんだ?」
「……ひと月で金貨一枚分を稼げるようになればEランクになれる。」
「お。それなら少し頑張ればいけそうだな。」
「そうね……。」

 つまり、今の倍働くか、今の倍の報酬のクエストを受ければいいわけだ。
 ナナオがおれの顔を、いや、おれの目を見る。そのナナオの目には不安の色が見える気がした。

「どうした、ナナオ?」
「ううん。オレはさ、私と一緒でいいの?」
「ああ? もちろんだ。ナナオにはいろいろ助けてもらっているしな。」

 ナナオがこの世界で今のところ一番親しくなった女だしな。

「ふふ。そっか。ごめん、変なこと言った。」
「気にするな。」

 この時のおれはまだナナオが気にしていたことを全然わかっていなかったが、後から考えると、おれたちがランクを上がれない理由は報酬を二人で分けているからで、それをナナオはわかっていたのだろう。

「それでナナオ。今日のクエストはどうするんだ?」
「そうね。これなんかどう?」
「ああ。いいんじゃないか。」

 まあ、気長にいくか。
 結局はナナオの成長に合わせるしかないってことだ。
 それにおれはこのナナオとの時間も楽しいからな。

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