人生には卒業しなければならないいくつかの歴史がある。立ちふさがる障壁を、はてしなく続く人生の階段を登ることで乗り越えていかねばならないのだ。
そして少年もまた、卒業を決めた。厨二病から。
少年は受験生であった。これから1年間、ハードな受験勉強に励まねばならない。とてもじゃないが夢物語でしかない厨二ごっこなどしていられない。
異世界転移勇者共通テスト。世界中の受験生が、選ばれし勇者となるべく受けることを義務付けられた難関試験である。
勇者偏差値55が共通テストのボーダーラインとされる。可愛予備校のテンセイシステムによると、それ以下の受験生は残念だが足切りとなり現実世界での勤務を余儀なくされるのだ。現実はきびしい。だが、その厳しさにあえて立ち向かおうという若者もいる。頼もしいことである。しかし、多くの受験生はモラトリアムたる異世界転移への道を選ぶ。4年間の勇者生活でインターンシップを学び、さまざまな世界をまたにかけた勇者マンとしての生活を夢見るのである。花形職業だ。
国公立の異世界勇者大学に入学するのはたしかに厳しい。
勇者を目指す学生はまず文系と理系、そして体育会系に分かれる。文系は魔法を言語を主に習う。言語の秘めたる能力には恐るべきものがあるという。ヴォイニッチ手稿等の解読などという厨二心を胸に秘めてはならない。決してだ。
次に理系。理系は世界の理を習う。理に介入することですべてを解き明かし、操ることを可能とする。筆頭は医学部とされている。決して、包帯を左目に巻いてウッ……などと苦痛に身を折るそぶりを見せてはならぬ。決してだ。そんな過ちを犯すものは直ちに煉獄の炎に焼かれるが良かろう。煉獄の火とはすなわち酸化反応による光と熱の現象である。
最後に体育系である。体育系は挨拶を習う。おっす!この一言ですべてを破壊してゆくパワーを発揮するのが体育系である。おっす!おっす!世界は破壊される!
少年は日々勇者となるべく勉学に励むのであった。おしまい。