――ある日のこと。
「主様。バレンタインってなに?」
神獣少女リーニャが、突然そんなことを聞いてきた。尻尾をふりふり。興味津々のようである。
ある程度『元凶』を予想しつつ、俺はたずねた。
「誰から聞いた?」
「女神様」
やっぱりか。
大方、俺の記憶を勝手に引っ張り出して教えたのだろう。
……つーか。
「俺が寝てる間にヘンなこと教えんじゃねえよ、この人間オタク女神が」
『たまたま強い記憶を探り当てたので、つい』
つい、じゃねえ。
まあまあのトラウマだかんな、ソレ。
「ねえねえ主様。バレンタインってなに? 食べ物?」
「あー……まあ、食べ物っちゃあ食べ物になるのかな。俺の故郷にある風習、みたいなもんで、女子が男子にチョコレートを贈るんだ」
「なんで?」
なんで……って。
『風習にかこつけて、女性が意中の男性に最高レア度の贈り物をして、身も心も傀儡にするためですよ』
「悪辣が過ぎるわ。俺だってそこまでバレンタインを恨んじゃいねえぞ!」
見ろ。リーニャが衝撃を受けてるじゃないか。
神獣少女は真剣な表情で質問を重ねる。
「じゃあ、ちょこれーと、ってなに?」
「そっか。リーニャは食べたことなかったな。うーん、口の中で溶ける甘いもの、かなあ」
「にゃ。口の中で溶ける甘いもの。リーニャわかった!」
獣耳と尻尾をぴんと立てたかと思うと、リーニャはいきなり踵を返した。
主様待っててね、との声を残し、あっという間にいなくなる。
『楽しみですね』
「不安しかねえわ」
――それから待つこと数十分。
意気揚々と戻ってきたリーニャは、数匹の動物たちを連れていた。得意げなリーニャの後ろで、どこか神妙な顔付きのまま控えている。
一応、聞いてみた。
「リーニャ。彼らはいったい?」
「にゃ。口の中で溶ける甘いもの。ズバリ、極上のお肉! 森一番の美味を連れてきた。肉溶ける。肉汁甘い。リーニャおすすめ。さあどうぞ」
「丁重にお帰り頂け」
解散を命じると、動物たちはホッとした様子で森に帰っていった。
一方のリーニャは、見ている方が可哀想なほどしょげかえっていた。
「ちょこれーとお肉……」
「気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとな、リーニャ」
「にゃあ……」
いつもより長く頭を撫でてやると、ようやく落ち着いてくれた。
『これが噂に聞くバレンタインお断り作法なのですね』
やかましいわ。
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追放? 俺にとっては解放だ! ~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった転生者の俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する。俺も、みんなもね!~
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