若槻という人間、そして「K9-Assist」というタイトルに込めたもの。
若槻慶次という男は、決して悪人ではありません。
二十年もの間、愚直なほど真っ直ぐに警察官としての正義を貫いてきました。
一言で表せば正しい人間。
けれど同時に、その正しさはどこか歪でもありました。
若槻は仕事にすべてを注ぎ込み、妻を「支える側の人間」としてしか見てこなかった。
妻の紗智子は、若槻の生活を整える存在であり、支えであり、若槻の背中を押す「アシスト」でしかなかったのかもしれません。
そして若槻は、その構造を一度も疑わなかった。
疑うほどの余裕も、想像力も持っていなかったのでしょう。
もしかすれば紗智子は、そんな若槻に変わってほしくて家を出たのかもしれません。
変われるのなら、まだ話し合えたのかもしれない。
結局それは果たされませんでしたが。
「K9-Assist」というタイトルは、そんな若槻の生き方へのささやかな皮肉です。
作中でのK9-AssistはAI搭載犬型支援機の名称ですが、実はこんな意味も込めています。※K9には警察犬という意味があります。
K9(警察犬)──家庭を顧みず働き続けた若槻本人。仕事に従順な存在。
Assist──支え続けた妻、紗智子。
若槻は仕事に尽くし、紗智子は若槻に尽くした。本来は並び立つはずだった二つの存在。一方通行の関係性が辿り着いたのは……。
作中の本庄はこう言いました。
「反吐が出そうな正義感でペラい理想押し付けないでもらってもいいです?」
と。
それはもしかすれば、紗智子を顧みることのなかった若槻自身へ向けられた、痛烈な皮肉だったのかもしれません。
若槻は正しい人間です。
けれど正しさだけでは守れないものもあった。
この物語はそんな問いを抱えたまま終わります。
「K9-Assist」
https://kakuyomu.jp/works/822139838872299553