一巻記念ssと銘打てば、2章後のことを書き放題なのでは?
と気がついてしまった……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「キャッチボール」
部活の午前練習から帰ってきた三弦は、昼食のお好み焼きを食べ終わるとすぐに声を掛けてきた。
「兄貴、キャッチボールしようぜ」
「……。あれ、さっき練習してきたばっかりだよな」
「おう。有意義だったぜ」
「あんま部活のこと有意義って言ってる中学生いなくない?」
だいたいが「疲れる」とか「大変」とか、よくても「楽しかった」ぐらいの感想のような気がする。「有意義」は初めて聞いた。意識が高すぎる。
「俺、グローブないけど」
「いいんだよ。柔いボールだから」
「そんなのあったっけ」
「部活の道具置き場にあったやつ。いらねえから持ってけって言われたんだよ」
「ふうん。ならいいか。すぐ行く?」
「先に練習着を洗いたい。兄貴はそのあとでもいいか?」
「俺はいつでもいいよ」
「わりぃな」
三弦は風呂場に移動すると、泥だらけのユニフォームを洗い始めた。泥汚れに効くという洗剤を買ってはいるが、なにせ元が白い練習着だ。ちゃんとこすらないと、茶色がこびりついてしまう。
俺はキッチンに戻って、冷蔵庫の中身を確認する。まだ買い物には行かなくていい。今日の夕飯はなににしようか――麻婆豆腐の素はあるはずだから、それもいいかもしれない。市販の素にひき肉と野菜を多少加えれば、なかなか豪華な見た目になってくれて便利だ。スープは中華卵スープにして、あとはサラダを作れば完璧だろう。
米のタイマーだけセットしておいて、あとは数時間後の俺に任せる。
星奈と星花は、夏休みの宿題をやりにお友達の家に行っている。仁奈は部屋で勉強の続き。六月は昼食後、眠そうにしていたのでお昼寝をさせている。だが、そろそろ起こしてもいいだろう。
布団の上、タオルケットをお腹にのせてすやすや眠る六月の隣に座る。
「むーつき」
呼びかけると、六月はごろんと寝返りを打って俺にしがみついてくる。
「ん……」
可愛い顔をゆっくり動かして、ぱちぱちと小さな瞬きをする。
「あさ?」
「昼」
「ひる?」
「そう。昼。三弦と遊びに行くから、六月も一緒に行こう」
「みっくん」
六月は目をごしごしして、布団から立ち上がる。目を擦りながら、ぽてぽてした足取りで部屋から出ていく。六月は三弦のことが大好きなようで、家に帰ってくると必ず「おかえり」を言いにいく。
微笑ましいことだ。弟たちが仲良くて、お兄ちゃん嬉しい。
三弦の洗濯が終わったところで、俺たちは三人で公園へ。六月の友達がいたので、近くにいたお母さんたちに挨拶をしてその中に混ぜてもらう。彼らの様子が見える場所で、俺と三弦はキャッチボールをすることにした。
ある程度の重さはあるが、スポンジでできているようで素手でも痛くない。
「なあ、兄貴」
投げる勢いは軽く、俺たちはほとんど離れない。捕る。投げる。そのリズムは、なるほど。なにかを話したくなる。
「親父ってさ、野球好きだったよな」
「そうだな」
だから、三弦が野球を選んだことに驚きはなかった。
「覚えてるか? 夏になると、高校野球に連れて行かれたの」
「どうだかなぁ……覚えてるような、覚えてねえような……」
三弦は手の中でボールを転がして、ぼんやりと宙を見る。俺に投げ返して、言う。
「俺が野球部って知ったら、親父はなんつうかな」
「普通に大喜びだろ」
「そか。ま、もういねえけど」
「そう。でも、俺が大喜びしてるよ」
「兄貴が?」
「うん。なんか懐かしくてさ」
「ふうん……」
三弦はそれから、十回ほどボールが往復する間黙っていた。
「親父はどこの球団を応援してたんだ?」
「球団?」
「プロの野球チーム」
「ごめん。全然知らない」
「なんかヒントねえかな。なんとなく、色とかさ」
「青かった気がする」
「……三択まではいけたか?」
決定打にはならないヒントだったらしい。
「でも、『負けなかった方が勝つ』って言ってたよ。そういうチームが好きだったのかもしれない」
「負けなかった方が……か。ありがとな」
三弦なりに、父さんには興味があるのだろう。
これからどんなプレイヤーになっていくのだろうか。たぶん三弦は、負けない選手になるような気がする。真面目で我慢強く、なにより熱い。粘って守って、最後に勝ちをもぎ取るような男になる予感がしている。
でも、本心としては。
三弦が楽しそうにしてくれれば、俺は満足だ。絶対に言わないけどさ。
「この後は短ダッシュしようぜ、兄貴」
「あぁ……オッケー……」
この熱血には、ちょっと困る。
ま、俺もちゃんと体動かしとかないとな。