• 現代ドラマ
  • エッセイ・ノンフィクション

ドラゴンライダー・こっこ!<IF>

丸和華さんのノートで、一緒に遊んでいたリレー小説【ドラゴンライダー・こっこ!】の続き<IF>版を、ここにのっけようと思います。

水木レナ版・第二幕


『夢物語』

こっこ、ねえこっこ。
初めて会った時、君はちっちゃな羽根をばたつかせていたね。
僕はマグマの中で生まれた5歳の幼竜で、精霊たちに炎竜の子、神竜の末と言われていい気なもんだった。
まだこの腕も小さかった頃、まだこの翼も弱々しかった頃のことだ……。

僕は強くなりたかった。
父のように激しく、母のように強くなりたかったんだ。
だけど、僕は二人の顔を憶えていない。
二人とも、僕が物心つく頃には、世界の果てへ旅立ってしまった。
「決して青の境界線を越えてはいけない」
とだけ言い残して。
おかしな話だよね? 二人はその境界を越えて、旅立っていったのだから。
だから、こうなるのは実は自然なことだったのかもしれないと、今は思うんだ。
こっこ、ねえこっこ。
僕たち、出逢うべくして出逢った。
そうだよね?
君は竜でなく、僕は鳥ではないけれど、そんな妙な垣根を取り払って、友達になったんだ……かけがえのない、友達に。
一緒に冒険したね。
笑ったね。
だから、この先も、ずっとずっと、一緒だよね。
ね……こっこ。

気がつくと、僕は一人ぼっちで、海岸に立っていた。
冷たい氷の海が遠くにあって、せりだしたがけっぷちに、小さな灯りが見えた……。
(おかしいな。こっこの姿が見えない)
「こっこー」
こっこ、こっこを探さなきゃ。
「どこだーい、こっこー」
あの灯りの下にいるのだろうか。
そうでないならば、行って帰ってくるまでに、こっこが無事でいられるかどうか、あやしい。
けど、けれど、こっこがあの光を目指していったならば……。
僕も向かおう。
ぐっと翼を伸ばす。
そのまま精霊の力を借りて、天高く舞い上がって僕は北極星を目指した。

紫のオーロラが見える。
まるでヴェールのようにきらめき、たなびいている。
あ、これはまさか。
紫の世界への、境界線じゃ……。
思いながら、その美しさに惹かれて、オーロラに近づいたとたん、だれかの声がした。
『おまえ、マーズ、来てはいけない』
「え、だれ?」
『おまえの大事なものが、一つ消えるよ』
「僕の前に現れろ!」
僕が叫ぶと、幼心に憧れた、父母の姿が見えた。
『マーズ』
「お母さん、お父さん!」
『来てはいけない。世界を超えるには犠牲がつきものだ。おまえはそれに耐えられない』
「でも、お母さんたちは、このオーロラを越えたんだ……そうじゃないの?」
二人は黙って、がけっぷちをさししめした。
『彼女を犠牲にできるのか?』
お母さん、お父さんはなにを言っているの?
『おまえを信じてついてきた、あの小さき友人を、あなたは失えるの?』
「……二人が何を言っているのか、わからないよ!」
『選びなさい。氷の海を越える前に』
「なんのこと?」
『身を切られるような後悔に、さいなまれる。だから、境界を越えてはいけないと言ったのです』
「だって! こっこが行きたいと言ったんだ。こっこが!」

「あなたはズルい」
気づくと背後から声が聴こえ、僕はあの海岸にいた。
周囲を見渡すと、こっこがいた。
「ああ、よかった。そこにいたんだね、こっこ」
「……マーズはズルい」
「え」
「赤い祝福を持って生まれて、誕生日には特別の加護がもらえて、紫の世界にも行ける。ズルいことばっかりだわ」
「何言ってるんだ。一緒に行くんだろ? 僕と、こっこと! 紫の世界へ」
こっこはすうっと目をすがめた。
そうすると、こっこの顔が別人に見える。
どうしたんだ、こっこ……。
「そんなこと言って、マーズは自分だけ紫のオーロラを越えようとしたじゃない」
「え? そんなことしないよ」
「した! わたしを置いて行こうとした!」
「してないよ!」
「マーズはズルい……自分だけ、ズルい……」
そんな、僕は、確かにオーロラに触れようと手を伸ばしたかもしれない。
でも、君を忘れたことはないんだ、いつだって!
「マーズはズルい。あんたはズルいの。ずーっと、ずっとそうだった……」
もう!
「いいかげんにしろよ!」
思わず叫ぶと、こっこの目からしずくが滴った。
「ほら、わたしを責める。わたしを信じてない。マーズはいつもそう」
「いつもって、いつだよう!」
「いつもはいつもよ!」
「そんな……」
そんなのって。
「あんまりだよ……」
僕は君のために翼を鍛えた。
空を飛んだ。
一緒に冒険したじゃないか!
「いいのよ、わたしのこと、置いて行っても」
「何……?」
「しょせん、その程度なのよ、マーズにとって、わたしなんかね!」
「何言ってるんだよう!」
悔しさにあふれてくるものをぐっとこらえた。
「僕はね、こっこ、君がいない世界になんて、ほんとは、これっぽっちも興味ない。一人で行きたくなんてないんだよ……?」
「へえ、そう」
「だけど、だけどこっこが行けっていうんなら、そうする。こっこと別れ別れになっても、僕はこっこを忘れない。でも、だから……」
震える胸に息を吸った。
「僕のことは、忘れてよ……」
こっこの言う僕が、本当の僕なら、そんな僕は消えた方がいい。
「さよなら! 僕の、友達……」

目が醒めると、早くも朝の陽ざしに焼ける砂漠の片隅に、マーズとこっこは寄り添っていて、こっこは羽毛を上下させてすやりすやりと眠っていました。
「夢……」
マーズは心底ほっとして、その顔を見つめました。
「よかった……」

<つづく>

※つづきません。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する