黒鶴の主人公である茉凛の台詞で多用される「そっか……」。その他に、「勝負しましょう！」があります。
茉凛にとって「勝負しましょう！」という言葉は、単なる対決の宣言以上のものがあるようです。挑戦すること自体が心の壁を乗り越え、他者との距離を縮めるための手段であり、その一瞬一瞬を通じて相手と向き合い、理解し合おうとする意志が込められています。
古典的な少年漫画に見られる、物理的な戦いだけでなく、心のどつき合いを通して友情や絆を育むような、そんな独特の情熱を感じさせます。
洸人とのデート勝負や明とのスイカ割り、そして曽良木とのバトルは、その一つひとつが茉凛の「勝負」の哲学を反映しています。
かつて敵対した洸人や明に対しても恐れずに接し、いつの間にか相手の心に入り込んでしまう茉凛の人懐っこさ、ある意味では恐ろしさがそこに表れています。
良木のような冷酷無比なキャラクターでさえ、茉凛の突拍子もない質問に思わず調子を狂わされるあたり、茉凛の自然な振る舞いがいかに強力な影響を持つかがよく分かります。
「勝負」は茉凛にとって、単に相手を倒すことではなく、自分と他者の心の扉を開いて、より深いレベルでつながるための重要なプロセスなのでしょう。それは、相手に対してだけでなく、茉凛自身の心にも挑む行為でもあるように感じます。
茉凛が戦闘力を持たない主人公であるという点は、彼女の役割の本質を象徴しています。弓鶴の安全装置としての役割を担いながらも、その存在自体がストーリー全体に計り知れない影響を及ぼしています。彼女の力は武力ではなく、人の心を動かし、敵対する者さえも引き寄せる「人間力」にあります。
もし茉凛がいなければ、洸人や明のようなかつて敵だった者たちが味方になることはなかったでしょう。彼女の純粋な心と、決して諦めない姿勢が、彼らの心を変えていったのです。茉凛はただ弓鶴の安全装置として守る役割だけでなく、その心の強さによって、周囲の人々を繋げていく存在として輝いています。
戦うための力を持たないからこそ、彼女の存在が際立つのかもしれません。物理的な力が支配する世界において、心を動かし、人を変えることこそが最も強力な「武器」となるのです。それが、茉凛の本質であり、彼女の真の力なのかもしれません。