私が淡々とした、磨り硝子のような恋のお話を書くのは、
私自身の理想を詰め込んでいるから、なのだと思う。
自分でも、よくわかっていないけど。
「そうであったらいいな」と、いつも思う。
私は、自分の書く話が好きだ。
否、私が紡いだ世界で息づく彼らが好きだ。
彼らに劇的な感情は存在しない。
きっと、私がそんな感情をいまだ一度も抱いたことがないからだろう。
そして、私がそんな感情を抱くことを拒んでいるからだろう。
恋ができないわけではない。
きっと人並みに恋はしてきた。と、思う。
でも恋は苦手だ。
誰かに入れ込むのも、不安になるのも、疑うのも。
全部全部、苦手だ。
相手のことを知っていきながら、少し不安になりつつ、
それでも熱にうかされながら、相手を信じていく。
そんな恋の第一段階が、言葉だけで辟易してしまう。
私は、そんな無為乾燥した奴だ。
だからこそ、「No title」の二人が生まれた。
二人は、今の私の中の完成形だ。
恋に憧れながら、恋を疎む私の、最上級だ。
当たり障りない会話。味噌の匂い。カラカラとした笑い声。
手に吹きかける温かい息。桃色の花。大きなあくび。
短い睫毛。伸びる影。雨の音。
そんな他愛もない日常の中で、
したいことをして、中身のない話でただ笑い合う。
自分の持つ「好き」という感情に、ただ素直に。
疑うこともなければ、特別信じることもしない。
曖昧な感情の中ただ好きな人と、好きなことをして生きる。
「No title」の二人がそうであるかは分からない。
それは読者ごとに解釈が異なるだろう。
作者である私も、彼らが紡いできた時間の代弁者でしかない。
彼らの感情なんて、知る由もないのだ。
私も彼らみたいな時間を過ごしたい。
部屋でまったりしながら、ちょっと奮発したチョコレートと頂き物のコーヒー片手に洋画観たり。
青空市に行って、新鮮なトマト片手に色々好きな食材買って、一緒に料理作ったり。
蚤の市でちょっと予算オーバーだけど、素敵な掛け時計見つけて、一緒になって色々悩んでみたり。
お昼食べたあとに、パン屋から漂う香ばしく甘い香りに誘われてみたり。
普段は着ないような背伸びしたお洒落をしながら、コンサートを聴きに行ったり。
そうゆうコーンスープのような、甘く仄かな温かい時間を。
私は誰かと紡いでみたい。