「魔力の枯渇?」
「そう。あなたの頭痛や疲れやすい体質の原因です」
夢だろうか?
俺は、真っ白な何もない世界に浮かんでいた。
目の前には、穏やかに微笑む神様がいる。
神様は言葉を続ける。
「あなたは違う世界に生まれるはずでした。しかし、手違いで日本に生まれてしまったのです。魔力が必要なのに、魔力のない日本で生活するのは辛かったでしょう?」
「はあ……。虚弱体質なのかと思っていましたが、魔力が原因ですか……」
俺は子供の頃から、体が弱かった。
頭痛、貧血、倦怠感。
学校では、保健室の常連で、体育の授業はいつも見学だった。
近所にある大学を何とか卒業したが、日に日に体調は悪化した。
就職出来るわけもなく、間もなく三十才になるのに実家のベッドで寝起きする日々だ。
「あなたの命は、間もなく尽きます」
「そうですか……、いよいよ死ぬんですか……」
最近の体調の悪さに予感はあった。
恐怖よりも、若いうちに死ぬ理不尽さに怒りを感じる。
「そんなに怒らないで下さい。あたなには救済措置を用意しました」
「救済措置?」
「ええ。魔力がある世界に転生しませんか?」
「魔力がある世界に転生!?」
思わぬ提案に俺が驚いていると神様は、いろいろと説明を始めた。
転生先は魔力のある世界……、つまり俺が健康に生きることが出来る世界らしい。
手違いの埋め合わせとして、現地の異世界人よりもちょっと能力をアップして転生させてくれるそうだ。
「新しい世界で、自由に、楽しく生きて下さい」
「ありがとうございます!」
「ただ、一つお願いがあります。転生先の世界では、困っている人がいるので、助けてあげて下さい」
「はあ……。俺の出来る範囲でしたら助けるようにしましょう」
「結構です。では、旅立に備えて下さい」
それから三日後、俺は実家のベッドで息を引き取った。
同時に意識が浮上して、どこか遠くへ飛んでいく気がした。
既に両親には手紙を書いてある。
悲しむ両親を妹が慰めてくれるだろう。
さようなら、ありがとう。
そして、次の人生が始まる。
俺は遠のく意識の中で、泣きながら笑った。