表紙絵が上がりました!
ここに装丁でタイトルとかを入れていきます。
滅びの国の魔女紀行も、再度冒頭を書き直して、掴みを完全強化していました。
ポプラ社一次通過のやつを、さらに校正後に冒頭とか気になる箇所を書き直して、、
とにかく最近はプロットと掴みの課題について、動かしている三作くらいの原稿全てでぐるぐると、、
これまで書き上げたやつは割と放置していたので、そのツケが回ってきましたね。
なんでこんなに、魔女紀行が自分の中で侵食してくるのかわかりませんが。
自分の中のかなり深いコードを込めてあるのかも知れません。
せっかくなので書き直した冒頭をご紹介します!
冒頭のみ一人称にしました。
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滅びの国の旅人よ
あの果てしない旅路は
かくも奇跡をもたらした
『聖霊マレナ異聞』より
四日前に目覚めたら、世界は滅んでいた。誰のせいかはわからない。
祝祭が終わったような世界を、ひたすら北へ向かう。
森の道に陽の光が落ち、遠くには雪山が見える。
聴こえるのは川音だけ。人なんてもういない。二人だけの旅路だ。
獣や鳥の声すらしない。それが当たり前だし、もう慣れてしまった。
〈氷の年〉で滅んだ、この世界では。
先をゆくのは赤髪の少女――メイナの背中。クリーム色のローブに背負ったバックパックには、革の水筒が揺れている。森を抜けたところでメイナは足を止め、
「うわっ、リティ。ちょっと、これ……」
わたしはメイナへ近づいてゆく。茂みを抜けると、光とともに渓谷の情景が現れた。
岩ばった大きな渓谷には橋がかかっていた。断崖に挟まれた濁流が、下にごうごうと唸る。川幅は十メートルほど。
――問題は橋に倒れ込んだ大木だった。
茶色の幹の、豊かな葉の生い茂った大木が斜めに倒れ、橋の入り口に乗り上げていた。半分から先は川へと突き出ている。
メイナは呆れたように、
「どうするの? これ……。ほかに、橋なんてないよ!」
わたしも上流と下流に目を向けたけれど、見えるのは渓谷と濁った川と、それらを包む森の光景だけ。
メイナは眉をひそめ、真剣な眼差しでわたしを見た。
「ねえ、リティ、この木……」
「やめてよ」
わたしは顔を背けた。
「ごめん。わかってる。いやだよね」とはメイナ。
そうだ、そんなに簡単に、あれをやるわけにはいかない。
濁流の音を聞きながら、ふとわたしは森の先の、雪山の影を見た。
――そうか。進むしかないのか。生き延びるために。アズナイさまを見つけるために。
メイナの茶色い瞳が、涙にうるんで光っていた。わたしは倒木に近づきながら、
「いいよ。やるよ。進まなきゃ、でしょ」
「リティ……」
心配そうなメイナをよそに、わたしは倒木の前までくる。両手を持ち上げて目を閉じ、荒々しい樹皮に触れる。
『いい子だ。きみの力は、静寂をもたらす。女神ミュートに祝福された、すばらしい才能なんだよ。リティ』
アズナイさまの声が聞こえる気がした。胸がずきりと痛む。アズナイさまのあの青い眼差しが。白く輝く髪が。心の奥に閃光のように現れて、すぐに消える。
(この力は……本当に、すばらしい才能なんですか? アズナイさま……)
そう思いながら、深く息を吸う。深く、深く。
大気や大地には黒い波が漂っている。――とにかく、わたしにはそう感じられる。それらの黒い波を体に集めてゆく。そうだ、〈灰の魔法〉のために。
胸や背中が冷たくなる。こめかみが、ぎゅうと締め付けられる。
黒い波は呼吸とともに体へ流れ込み、両手へと収束してゆく。それを樹皮へと注ぐ。
薄目を開けると、手から樹皮へと無数の黒い筋が、染み込んでゆくのが見えた。木の根が伝うようだ。わたしは念じる。
(溶けろ、溶けろ……。灰に……)
灰の魔法――それは、触れたものを灰にして終わらせる、この上なく冷たい力だ。『祝福された、すばらしい才能』だとアズナイさまやお父さんは言った。けれど、祝福という言葉は嫌いだ。惨めさを白い布で隠すみたいで。
手が触れているところから、樹皮は白くなっていった。それに伴って灰がさらさらと、地面や橋桁に落ちてゆく。白い灰の輝きが、ずっと下の川にも落ちてゆく。濁流の音と風の音。手や腕がびりびりと痺れる感覚。心臓が脈動する。血は巡るのに、体が冷たくなってゆく。
(いやだ。やっぱりいやだ、こんな力! 才能なんかじゃない……)
吐きそうになって、唾を呑み込む。口の端から唾液が垂れる。袖で拭ってから、息を深く吸う。
「大丈夫? リティ。ごめんね……」
メイナの声がするが、構ってなんていられない。集中が途切れたら、またはじめからだ。
なかば朦朧とした意識のまま、大木に向かって両手を突き出して、黒い波を送り込み続けた。
そのとき、触れている木の幹がぐらりと揺れた。
目を開けると足元には、灰が堆積していた。そして木の幹は――わたしが触れている辺りから先が、自重で傾いて、折れ曲がっていった。メキメキと音をたてて、半分から先が川に落ちていく。
大きな水しぶきを上げて。
「レガーダ! すごいよっ」
なんてメイナは飛び跳ねたが、すぐにわたしの顔を見て、
「リティ、ねー、大丈夫? 顔色、青いよ……」
「最悪。少し休ませて」
近くの岩に座って、両手や肩をほぐしながら地面を見ていた。まだ両手が痺れ、頭の芯がぼうっとする。ズキズキと痛む。
いつまで、何度この魔法を使えるのだろうか。アズナイさまと出会うまで、わたしはわたしでいられるのだろうか。なぜこんな才能を、与えられたのだろうか。――灰の魔法を使うと、いつもそんなことを考えてしまう。
そうでなくとも、食料だって簡単には手に入らない。病気や怪我をしても、頼れる人はいない。その日を生きて、旅を続けるだけで精一杯。
蟻が二匹、歩いていた。――昆虫はよみがえっている。生き物がいるんだ。
顔を上げると、橋の向こうの森の先に、雪山の頭が見えた。
「行こうよ。アズナイさまが、待ってるよ」とはメイナ。
輝く丸い瞳には、森の緑が映っている。わたしはそんな瞳に、
「北の聖地、か」
「リティは、アズナイさまに会いたくないの?」
「会いたいよ……」
「だったら、行くしかないよ。アズナイさまや、ほかの人が、いるかもしれない……。ね? そうでしょ。リティ……」
とメイナは橋を見る。道の先にはやはり、明るくもどこか寂しい、森の道が続く。ずっと先には幻のような、白いもやに覆われた雪山。
「聖地、ファナス」
わたしは思わず呟いた。
いったい、人々はどうなったのか。
北の果てにアズナイさまがいるのか。
なぜ女神ミュートは、その冷たい手で世界を終わらせたのか。
とはいえ女神は、すべてを滅ぼしはしなかった。
その証拠に、わたしは目覚め、静かな世界が残されていた。
すべては、あのときにはじまった。
長い冬の果てに。長い夢の終わりに。
あのとき、わたしたちは目覚めた……
(刊行版へ続く)
