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【完結/愛読御礼】BL怪奇アクション『帝国退魔鬼譚 ~我が宿敵に口付けを~』

 どうも、裃左右です。
 例の如く、ネタバレありありの記事を書いていこうと思います。あくまで読んでくださった方へのサービスですからね。

 BL怪奇アクションコミックのように展開しているこの作品ですが、やはり見せ場とアクション、シナリオの配分はかなり意識しています。
 で、主に、そのシナリオに関するお話なのですけれど。
 ただ、ボリュームが多いっ! いや、本当に。実際にそこの土地にある物語について書いてるし……困りますね。
 ちょっと、絞ります。


①大嶽丸とは何者?
 平安初期に鈴鹿山に住んでいた鬼神を指しています。実際の伝承にある話ですね。
 大嶽丸、鬼神魔王、大竹丸などいくつか呼び方があります。

 彼は「薬子の変」という政変が伝説化したものであると言われています。
 日本後紀等に記載される時代のお話ですね。歴史における「藤原 薬子」は政治に敗れて、坂上田村麻呂が指揮する兵に、平城上皇に捕まった際、毒を仰いで自死した愛妾です。

 伝説上の大嶽丸は、往来する人々を襲い、都への貢ぎ物を略奪する賊だったとされています。朝廷に弓引く“まつろわぬもの”ですね。

 そこで田村麻呂は征夷大将軍として、成敗にのり出します。率いる兵力は三万騎。
 ※実際に討った人物については、物語によりブレがあり

 が、大嶽丸は、相当な神通力の持ち主。自由自在に空を飛び、暴風雨、雷鳴、火の雨など天候すら奇怪に操り、田村麻呂を苦しめました。

 さて、鈴鹿山には、鈴鹿御前という天女も住んでいました。大嶽丸は彼女に懸想していたので、たびたび愛の歌を紡ぐか、袖にされ続けている。

 そこで、坂上田村麻呂は鈴鹿御前を口説き落とし、その手助けを借りて、大嶽丸を騙したりして、それでもなお激戦の末なんやかんや討ち取るのですね。
 ようするに、単独では悪鬼討滅を果たせなかったのです。卑怯な手を使い、加護を得た武器を用い、なお決死の戦いでした。

 物語上では、「薬子家」はこの大嶽丸の子孫とされています。


②大嶽丸と薬子家の関係性(物語上)
 わたしの解釈上、大嶽丸はこのようになっています。朝廷に従わなかった猛き異能者にして、誇り高き為政者、王です。鈴鹿山周辺を治める豪族だったのですね。

 薬子は誇り高き血筋の末裔ですが、敗北した彼らの扱いはかなり悪い。
 まず、薬子とは「毒見役」を指しています。別名、「鬼食ひ」です。彼らは朝廷に対する厄災を引き受けることで、生きながらえました。
 神通力に長ける血筋は、利用価値がありました。

 一方で、大嶽丸は子孫に宿り、祟りをもたらすことで、抑止力となりました。死後も、子孫を加護しようとしたのです。
 たった一人の人間が強い念となり、鬼となる。

 誇り高く高慢でも、情も欲も強い男が大嶽丸でもあります。朝廷への監視者となり、子孫が引き受ける厄災を飲みこみながら、力を付けていったのです。
 子孫という縛りがなくなれば、大嶽丸がなにをしでかすかもわからないため、朝廷は過度に貶めることが出来なくなりました。

③大嶽丸と卜部家
 卜部家は、坂上田村麻呂の子孫ですが、出展元は、酒呑童子の討伐を果たした源頼光に仕える“頼光四天王の一人”です。
 「卜部季武」ですね。別名、坂上季猛。平季猛とも言われますね。
 活躍の幅が結構広い人物なのですが、割愛。重要なのは、坂上田村麻呂と“大嶽丸の想い人”である鈴鹿御前との子孫であること。
 仇でありながら、愛する人の子。大嶽丸から見た立場です。

 で、ここで裏設定なのですが、鈴鹿御前とは“大嶽丸の妹”であるというものです。だって同じ山に住んでるの異能者だもの、関係性がない方がおかしい。

 作中、大嶽丸が妹に甘いシーンがありましたが、重ね合わせたまさにそれ。え、じゃ、己の妹に懸想していて、寝取られた男かよ。そうですね、それもこっぴどく裏切られました。

 でも、まだ愛しているのですよね。裏切ったからと言って、過度に恨んでいるわけでもないどころか、受容してすらいる。愛が深い男、大嶽丸。
 そこからの、大嶽丸の卜部壱武への執着は、まあ、わかろうというものよ。

 一方で、薬子千弥の魅力や潜在能力というのは、先祖をさかのぼれば、大嶽丸はもちろん、天女と謳われた鈴鹿御前がいることを思えば、納得できるものではある。
 壱武が、千弥に執着してるところも大概だなって思いますけどね。
 千年を越える因縁が、現代で未だなお、絡みついてBLになっている構造が、この物語。どう? 素敵でしょ?

 いくらでも語れちゃうのですが、このあたりにしておきましょうか。
 読んでくれてありがとう。それでは裃左右でした。

2件のコメント

  • 答え合わせのお時間がひじょうに贅沢でありがたいです。
    妹設定は、闇深くてゾクゾクしますね〜、大獄丸報われない。

    大獄丸から壱武への気持ちについては、美酒が千年のときを超え醸造されて毒になっているような、良き執着でした。

    逆に、たぶんまだ本編では、なぜ壱武が千弥にそこまで執着しているのか、理由は描かれていなかったと思います。
    理由なんていらないのかな?

    まだまだ続く気配しかない本編ですので、また何かの機会に続きを拝読できるのを楽しみにしています。
  • 2人の関係性については、幼少期から遡らねばならないのですね。いつか、書くことがあるでしょうか? ただ、大嶽丸の血筋は、情も欲も深いものですが、壱武は妹君の血を引いておりますから、気質は同じかと思います。言うて、鈴鹿御前も大概やからね?
    大嶽丸、ほとんど報われてないのですが、それでも本人、度量が深すぎてあまり気にしてないかもしれないですね。子孫の守護者でありつつも呪い存在、世を揺るがすタタリ神である在り方すら、一興と見てるやも?
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