「いい孫を持ったな」
花鬘は鏡に映る桔梗を見て微笑んだ。
控えていた女房らは、頷きながら主の手腕を褒め称えていた。薬を与えなくて良かったですね、詳しい話を聞く慎重さが素晴らしいですわと。
「褒めても何も出ないぞ。仕事をしろ、仕事を」
裁縫の手が止まっていることを指摘しつつも、花鬘の表情は明るかった。
自分がしたことは、恩人の孫へ満杯にならない文箱を贈って元の時間と場所に返しただけだ。歳を取って生を終えるまで浦島太郎を城にとどめ置いた、乙姫よりは情があるのかもしれない。
聞こえないと分かっていながら、花鬘は桔梗に囁いた。
「桔梗。鶴の怪我を治してくれた礼、確かに果たしたぞ」
花鬘は敦久に思いを馳せた。
おとぎ話の玉手箱は、止まった時間を勢いよく流して開けた者を死なせる運命を負っていた。だが、敦久は悲しい箱を生まれ変わらせた。忘れかけていた長年の思い出を呼び覚ますという意味を加えたのだ。また、捕らえた詐欺師達から金を取り返すことはできなかったものの、被害者が家族の温かさを感じるように尽力していた。
「ふむ」
花鬘はそっと小槌を取る。
「百年先、千年先になれば変わるものはあるけれど、優しさだけは色あせないでほしいものだな」
願いを込めて見上げた空から、今日も一筋の光が差し込んできた。
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自主企画がきっかけで主催者の方から意見をいただき、2019年1月20日 18:26まで上の形式に変更していました。
この形式でもアリかなと思っていたのですが、作品全体を見たときに違和感が拭えませんでした。
フォローしていただく方がいるのも事実。直してほしいと親身になって接してくださる方がいるのも事実。
相反する思いにどう対応しようか悩んだ末、本当に届けたいと思えるものを公開することに決めました。
☆が減っても、あの作品にはあの書き方が合っている。今の自分は、そう自信を持って答えられるので。