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『黄金と血のニューヨーク ― マフィアの帝国』第五章第2話【登場人物】

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第五章第2話の主要登場人物一覧
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■主要人物

・ルイス・ディアンジェロ(18歳、ヘクターの長男/ニューヨーク警部・アンダーボス)
 蒋介石から紅軍の動向と大渡河・瀘定橋の重要性を聞かされ、南京から宜賓、西昌上空を経て瀘定橋へ向かう本話の主人公である。改良DC-2を操縦しつつ戦況を読み、|西昌《シーシャン》上空での「別働隊ではなく本隊を追うべきだ」という判断や、瀘定橋手前での強行着陸と機銃掃射など、戦術眼と度胸を併せ持つ青年工作員として描かれる。マーガレットとの関係はすでに「公然の秘密」となり、戦場の只中で肉体的・精神的に結びついたパートナーを得た状態で紅軍本隊と対峙する。

・ヘクター・ハミルトン(28歳、テキサス西部の石油王)
 ダラス郊外の邸宅からニューヨークのアンヘルに電話をかけ、ルイスの任務の無茶さを案じる父親である。同時に、アンヘルの要請を受けてロスアンゼルスの石油精製会社に原油を送り出すことで、近未来の戦争に備える燃料供給網の一端を担う。父としての不安と、石油王としての冷静な判断が同時に描かれる。

・アンヘル・ディアンジェロ(16歳、HTS会長兼CEO/ルイスの弟)
 ニューヨークから電話で状況を説明する情報と資金の要である。ハワイに向かう援軍1,000名と、改良DC-2に分乗する後続9,000名の存在を明かし、さらに「近々戦争がある」として、大統領の指示を根拠に大規模な燃料備蓄を進めようとする。若くして世界情勢と軍需を読み、ルイスの戦いを裏側から支える指揮役である。

・マリア・ディアンジェロ(18歳、ルイスの双子の姉)
 ヘクター邸のソファで電話の内容を聞き、即座に行動に移る実務担当である。テキサスでダブついていた原油問題を好機と捉え、1,000台のタンクローリーを即金で購入して油田へ直行させるなど、現場レベルの段取りを一手に引き受ける。ヘクターとアンヘルの巨大資本を実際に動かす「手腕」を持つ人物として位置づけられる。

・ジェームズ・ハリントン大佐(45歳、真珠湾基地責任者/パイロット)
 南京から宜賓、さらに|西昌《シーシャン》方面に向かう改良DC-2の操縦をルイスと交代で担う。西昌上空で紅軍と交戦することを提案するが、ルイスの「本隊優先」という判断を受け入れ、瀘定橋に向かう決断をとる。家族を伴いながら最前線を飛ぶことで、「軍人としての職務」と「夫・父としての役割」が緊張状態に置かれている人物である。

・マーガレット・ハリントン(42歳、ジェームズの妻)
 DC-2に同乗し、ルイスとの関係がもはや誰もが知るものになっている司令官夫人である。西昌上空でルイスの判断に真っ先に賛同し、「私も機関銃を使うわ」と戦闘参加の意思を示すなど、ただの付添人ではない「戦う同伴者」として描かれる。また、ワインに新万金丹を溶かしてルイスに飲ませる場面は、恋人としての親密さと、戦場でのコンディション調整役という二重の役割を象徴している。

■協力者・関係者

・ジョン・スミス(ヘクターのビジネスパートナー)
 ヘクター邸で電話を聞きながら状況を把握し、停止していた油井のボーリング作業の再開命令にサインを入れる。テキサスの地中深くからほとばしる原油を「太平洋で始まる戦火」へとつなぐ、実務面の橋渡し役である。

・エリザベス・ハリントン(20歳、ハリントン家長女)/ウィリアム・ハリントン(18歳、長男)
 両親と共にDC-2に乗り、南京から宜賓、さらに山岳地帯のフライトに同行する若い兄妹である。窓から広がる中国の大地や茶畑、峡谷の風景に目を輝かせつつも、結果的には瀘定橋近くの最前線に連れてこられることで、「軍人家庭では家族もまた任務に巻き込まれる」という現実を体現する存在となる。

・蒋介石(国民党総統)
 南京の国民党政府庁舎でルイスとジェームズを迎え、紅軍・毛沢東・薛岳中央軍の位置と作戦意図を詳細に説明する。|宜賓《イービン》での給油、西昌経由で瀘定に向かう経路を指示し、「紅軍を瀘定橋で渡河させるな」という戦略上の最重要目標をルイスたちに託す存在である。

・毛沢東(紅軍総指導者)
 本話では姿を見せないが、紅軍の報告を分析し、薛岳の挟撃計画を見抜いたうえで「西昌を迂回し大渡河を先に渡れ」と命じる人物として描かれる。ルイスたちの任務の標的であり、「大渡河をめぐる追走劇」の中心にいる見えざる敵である。

・紅軍本隊と国民党守備兵
 5月26日午後、瀘定橋の南側で塹壕に籠もる紅軍本隊と、北側の瀘定の街から砲撃を続ける国民党守備兵である。紅軍は塹壕に潜んで砲撃をやり過ごし、国民党側は砲弾が尽きかけるという状況に追い込まれている。ルイスの機銃掃射によって、瀘定橋を巡る攻防が新たな局面に入る。

・茶摘みの女性と宜賓の茶農家たち
 宜賓の茶畑で、ピンクの花柄の服と白い布を身につけて新芽を手摘みする女性と、その周囲で働く茶農家たちである。彼らの姿は、辛く芳ばしい四川の朝食とともに、戦場へ向かう途中でルイス一行が出会う「平和な日常」と「土地に根ざした文化」を象徴している。

■組織・舞台

・ダラス郊外・ヘクター邸とテキサス油田(アメリカ・テキサス州)
 1935年5月10日夜、ヘクターがアンヘルに電話をかける場面の舞台である。書斎のランプの光と、遠くで唸るポンプの音、原油と土の匂いが満ちる空間で、テキサスの油がハワイや中国内陸の戦場へとつながっていく。

・南京国民党政府庁舎と南京飛行場(中華民国首都)
 地図と書類が積まれた執務室で蒋介石が作戦を説明し、その後、ルイスたちが改良DC-2で飛び立つ出発点である。インクと紙、軍服の匂いが漂う庁舎と、油と砂埃の匂いが混じる飛行場が、「情報戦と空輸作戦の中心」として描かれる。

・宜賓の街と茶畑(四川省)
 辛味と花椒の香りが立ちこめる朝食の食堂と、山の斜面一面の茶畑が印象的な中継地である。四川料理の朝食と茶摘みの風景を通じて、ルイスたちは戦場へ向かう途中でこの土地の自然と文化に触れ、一瞬だけ「旅行者としてのまなざし」を取り戻す。

・四川盆地からチベット高原への山岳地帯(西昌近郊)
 赤茶けた砂岩の柱と深い谷筋が連なる、雄大な地形の上空である。改良DC-2の窓から見下ろす景色は、砂岩の柱の上に張り付く緑と、そこに点在する小さな家々の屋根によって、「過酷な自然と人間の共存」というモチーフを浮き上がらせる。

・大渡河と瀘定橋周辺(紅軍本隊の塹壕陣地)
 5月26日午後、瀘定橋の南岸に紅軍本隊が塹壕を掘って籠もり、北岸の瀘定の街から国民党が砲撃を続ける決戦の舞台である。砲声が止み、土煙と硝煙の匂いが漂う中で、ルイスがDC-2を強行着陸させて機銃を掃射し、瀘定橋を巡る攻防の「火蓋」が切られる地点として描かれる。
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 本話は、1935年5月10日のダラス郊外ヘクター邸での電話から始まり、テキサス油田とロスアンゼルスの精製会社による燃料供給網の構築、5月21日の南京での蒋介石との作戦会議、南京から宜賓への3日がかりのフライトと四川での朝食・茶畑見物、さらに5月23日の山岳飛行と|西昌《シーシャン》上空の情勢判断を経て、5月26日瀘定橋手前での紅軍本隊との初交戦に至る物語である。テキサスの石油、南京の作戦室、四川の茶畑、瀘定橋の塹壕が1本の時間軸で結ばれ、「家族と恋人を抱えた青年マフィア」が世界史の転換点を狙う戦場へ踏み込んでいく過程を描いたエピソードとなっている。
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