• 現代ドラマ

読書感想文② ブラッドジャケット

 まだ小学生だった私に、“ライトノベル”を教えてくれたのは五つ上の兄だった。
当時流行っていたのは、魔術師オーフェンとかラグナロクとかヴァンパイアハンターDとか。今もあまり変わっていない気がするけど、中世を舞台にしたファンタジーが流行っていた。勿論、それらは全て面白かった。

 しかし、その中でもひと一際、異色を放っていて、記憶に残っているのが『ブラッドジャケット』でした。

 この作品自体が、全三部作の二作目となるのだが、素晴らしい世界観を構築している。舞台は中世でもなければ近世でもない。正にオリジナル世界観で構築されている。作中曰く、恐らくかなり大きい“積層都市”が舞台であり、その都市には公安局なる治安を守る組織やらと中央政権を司る組織がある。其れらは“降魔局”とも呼ばれています。
 この世界では死人が蘇り、呪いだとか、霊的存在だとか、私達からすればオカルトと呼べる概念が普通に存在する世界。そして、降魔局の唯一の目的が『神』とか『天使』を認知する事。かなりやばい世界観で構築されています。そして、ライトノベル特有の“造語”が多い。でも、それがどこかお洒落。

 で、勿論、そんな世界だから当たり前に吸血鬼がいて、その吸血鬼がその積層都市を恐怖に陥れていた……。その親玉がロング・ファングという異名で恐れられています。

 当時の、ライトノベルの“源流”を作ったとも謂われる「ブラックロッド」。「ブラッドジャケット」はその二作目に当たります。そして、今作はブラックロッドにも登場していた、吸血鬼ロング・ファングを討伐した、吸血鬼殲滅部隊――通称ブラットジャケットを率いた『アーヴィング・ナイトウォーカー少佐』の出自の話を描いています。嘗て、都市を恐怖に陥れた悪の親玉を打倒した、民衆のヒーローの英雄譚となったいます。作中、TVドラマにもなっている、そんな英雄のお話と、物語の“冒頭”はなっています。
 ――嘗て都市を恐怖に陥れた、吸血鬼ロング・ファング。最強とも謳われた彼を打倒した、アーヴィング・ナイトウォーカー少佐はどのように生き、また少佐になったのか!?

 煽りでは大体その様な感じですが、中身は本当に切なく、どう仕様もなく、哀しく愛に満ち溢れている作品です。蓋を開ければ、少年と少女の絶望から逃れる逃避行の話。そして吸血鬼絶対殺す男と、神を何が何でも証明したい降魔局のお話でもあります。
 アーヴィーは最後に“ある決断”をします。それは果たして彼に取って吉とでるか、凶とでるか。果たしてそれはアーヴィーに取っては、人生で一番“重要な瞬間”に迫られた選択なのでした。

 作中、とにかくその積層都市と言う囲まれた中で、誰もが見ることがなかった、太陽。終いに、その東の空から昇る太陽。その太陽を素晴らしく伝えるこの作品は、本当に素晴らしいです。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する