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物語が始まらない『ゾンビ』

Block!! Block!! Block!!

 迫りくるゾンビの前に赤い文字が躍る。

 一体につき一発。
 文字に押されるようにゾンビはその動きを止めていく。

Block!! Block!! Block!!

 動きを止めたゾンビを押し倒し、乗り越えてゾンビどもは次々と湧き出てくる。
 眼下は押し倒されたゾンビの海だ。

「これ、意味あるんですか!?」

 スコープから目を外し、ずんだは叫ぶ。

「意味なんてねーよ!こいつらいくらでも湧いてきやがる!ただスカッとするだけだ!」

 手羽先は顔も上げずに答えた。

「じゃあ、なんでこんなことしてんすか!」

 ようやく手羽先が引き金を引く手を止めた。あきれたようにずんだを見る。

「腹が立つからだよ。俺らの居場所荒らしやがって。こいつらのせいで、今までみたいに祭りも覗けねぇ。必要な情報も届かねぇ。せめて俺の視界だけでもきれいにしたいんだよ。お前もそうじゃねーのか?」 

「いや・・・・・・自分は、みんなの為になるかと思って。」

「だったら、その銃じゃ意味ねーよ。」

 手羽先は眼下へと銃口を向ける。

Block!! Block!! Block!!

 一体につき一発。
 正確で素早い射撃。

「じゃあ、じゃあ、どうすればいいんですか!」

 ずんだの言葉に苛立ちが滲む。
 一番近くにいた二体を軽く仕留め、手羽先が銃を置いた。

「めんどくさいぞ?」

 手羽先はボウガンを取り出すと、一体のゾンビに向けて矢を放った。括りつけられた赤い旗が、ゾンビの頭上で風になびく。刺さったことに気づいてないのか、ゾンビは歩き続けている。
 素早くゾンビの動きを止めると、手羽先は手元の端末を操作した。

「よく見てろよ。」

 赤い旗のゾンビは押し倒されることもなく固まっている。

 ブブッと手羽先の端末が震えた。

「駄目だったか。」

 手羽先の呟きと共に、ゾンビに刺さっていた旗が消えた。ゾンビは押し倒され、あっという間に他のゾンビに覆い隠された。

「運がよけりゃ凍り付いて粉砕される。まあ、ほとんど無理だがな。ゾンビの種類によって旗の色も変えなきゃいけない。効率が悪すぎる。」

 それでも良ければご自由に、と手羽先は引き金に指をかけた。



 今日もずんだはゾンビを撃つ。

Block!! Block!! Block!!

 あの会話の後、しばらくはボウガンで抗った。

Block!! Block!! Block!!

 しかし消すことができたのは1割にも満たなかった。
 ずんだのやり方が悪かったのかもしれない。

Block!! Block!! Block!!

 ボウガンで一体倒す間に銃なら三体は倒すことができる。
 銃でさえ億劫に感じることもある。

 ずんだの頭に本来の目的なんて残っていなかった。
 自分の為だけに、自分の視界が少しでも開けるようにとしか考えていなかった。

Block!! Block!! Block!!

「先輩!これ、意味あるんですか!?」

 ずんだの横で最近仲良くなった後輩が叫ぶ。

「意味なんてねーよ。」


240124脱稿

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