リトール:さて、今からどうするんだい?この先どの街や村に立ち寄っても悪目立ちするぜ。かと言って情報収集には立ち寄るしか無いぞ。タイガス:私に案があるのである。ヨルデリア:そうか、タイガスの魔法の腕は一流だ。リトール:うん?タイガス:私の魔法でエルフに変装して行くのである。他者の視覚認識を操作する魔法であるから、変装はしても変身はしないのである。リトール:…へぇ。アンタもただのボンボンお坊ちゃまじゃねえんだなぁ…。ヨルデリア:貴族はリール騎士団に入れないから無理なんだけれど、タイガスは団長をやれるくらいの力量があるよ。リトール:クハハッ、そりゃ兄貴が猫可愛がりしたくなるのも分かるなあ。ヨルデリア:ああ…ユーディン様のことだから、今頃私に対して『タイガスを連れていった』と激怒しているんじゃないかなあ。ヨルティーネちゃんもプリプリ怒っているだろうし…戻ったときが憂鬱だ。うん、ぶっちゃけ、帰りたくない。リトール:ヨルティーネ・ランケール…タイガスの嫁予定さんは噂に聞く限りは絶世の美女らしいな?ヨルデリア:冗談じゃない、噂どころか事実だよ。あんな綺麗な子は帝国に、世界に一人いるかいないか…だね。美人揃いで有名なエルフ族でさえ、あの子の前に出たら凄いブサイクに見えるもの。リトール:…そんな美女を放置して何をやってんだタイガス…。タイガス:だ、黙れである!英雄の末裔として、責務を私は果たすのである!
三人は情報収集しつつ、王都アマルナイアを目指す事になった。
ハルーン:僕は死にたくなかったのか。おまけに現状に甘えて生きてきた…。どうすれば良いのかな、これから。真面目に考えたことさえ無かったな、そう言えば。…甘えているんだろうね、今も。だけど、一つだけ僕にはしたいことがある。ヨルデリア達の側にいたい。あの三人の側にいたとき、僕はシビアなことも言われたけれど、結構楽しかった…。それだけは、嘘じゃない。よし、追いかけよう!
ヨルデリア:まずいな、関所だ。通行手形を調べているぞ。タイガス:強行突破するのである!リトール:馬鹿!応援呼ばれたらお終いだ!???:心配は要らないよ。ヨルデリア:あっ。関所の役人:おおっ、ハルーン様!何かご用で?ハルーン:訳あってこの三人をアマルナイアまで連れて行くことになった。通してもらえるね?関所の役人:勿論ですとも!
ヨルデリア:どうして…。ハルーン:君の言ったとおり、僕は現状に甘えて生きている。今も、きっとこれからも。だから一緒にいて楽しいヨルデリア達に同行するよ。タイガス:何とふざけたヤツであるか…。ハルーン:だってそれが僕だろう?
リトール:ケッ。ろくでもねえなコイツ。ヨルデリア、どうする?ヨルデリア:本人の好きにさせるしかないね。
ハルーン、パーティに再加入。
夜、宿屋にて。
ヨルデリアがちょっとだけ外出すると、三人は話し出した。
リトール:おいタイガス。ヨルデリアは何なんだ。この前、あの数のエルフを一瞬で倒しちまった。いくらリール騎士団団長でもおかしくねえか?タイガス:そんなに知りたいのであるか?ハルーン:…僕の勝手な推測だけれど、ヨルデリアは人間じゃないような気がするよ。だって…あの感じは…『姫』に…。タイガス:……。『化物のヨルデリア』……これが幼い頃のヨルデリアのあだ名だったである。
化物のような怪力に身体能力、人間ではあり得ない回復能力。でも心は人間の女の子。子供達から石つぶてを投げられて、あっちに行けと大人からも嫌われて、ずっと独りぼっちで迫害された。心が少しずつ削られて死んでいく。お父さん、私はばけものなの?…ヨルデリア、お前は何になりたいんだい?石を投げられたくない。あっちに行けって言われたくない。独りぼっちが怖い。人間になりたい。ヨルデリア、人間の心を持っていればお前は人間だよ。本当?良いかい、お前は人間になると決めたんだ。だから父さんと約束しておくれ。お前は人間だと。