こんばんは。夜桜です🌸
連日暑い日が続きますね。もう私が言わずとも、皆さん暑さ対策はされているでしょうけれど……お気を付けくださいね。
さて、本題ですが……先日お知らせした通り、今日(7/6)は連載作「わくらばに重なりし灯は妖しくもあたたかく」(略称:わくら灯)の連載一周年記念日になります㊗️
そのお祝いと感謝の気持ちを込めて、わくら灯の初期案をここに載せることにします。
わくら灯は、もともと短編として考えていたものを長編化したものだったりします。短編で送り出すには、キャラクターたち(主に異形さん)が魅力的過ぎて……。設定を練り直して書くことにしたわけです。
今となっては、過去の私、GJ(グッジョブ)! と言いたいくらいです。それくらい、この作品は書いていて楽しいです。
長編版(現在連載中)はこちらです↓
https://kakuyomu.jp/works/16818093080582040215先に触れたように、いろいろと設定が長編版とは違っています。主人公の性格だったり、異形さんの性格や体の造りだったり……。そして、この時点ではキャラクターたちに名前が付けられていなかったりします。
推敲が足りていないので、粗さはありますが……これはこれで、私は味があって良いかな と思っています。
さて、語るのはこの辺りにして……どうぞお楽しみいただけたらと思います。文字数は3000字程度になっていますので、ごゆっくり。
◇◇◇◇◇◇
タイトル(仮)《ガス灯頭》
私がソイツと遭遇したのは、月の見えない夜のことだった。
その日は大掛かりな手術が三件もあって、流石の私も疲れていた。
長いこと照明の下に居たせいで目もシパシパするし、肩から首にかけての筋肉は強張ってる。おまけに、昼食を食べ損なったからお腹と背中がくっつきそうだ。はやいとこ家に帰って、なにか温かいものでも食べたい。そんな欲求を抱えながら病院の裏手から駐車場に出たときだ。
「……?」
視界の端を、光るなにかが横切った気がした。
「なに?」
疲れ目のせいで見間違えたのだろうか。私は足を止めて、周囲を見渡してみる。
「!」
いた! 今度は見間違えなんかじゃない。確かに光るものがいる。ふらふらと駐車場の奥の方を飛んでいるさまは、まるで人魂のようだ。私はそれに吸い寄せらせるように歩みを進めた。
近づいていくと、人魂の正体がわかった。それは一匹の蝶だった。……と、言ってもただの蝶じゃない。その蝶は、炎で出来ていた。蝶の羽を象った炎が、炎で出来た鱗粉を散らしながら飛んでいる。その様は幻想的で美しかった。
私は暫くその蝶に見とれていた。すると、蝶が急に進路を変えた。蝶は、駐車スペースの脇にある植え込みに消えた。私もそのあとを追う。
──そこで、私はソイツと出会った。
「……!」
植え込みに足を踏み入れた途端、私の足は止まった。植え込みの奥、少し開けた場所。そこに揺らめく炎があった。
……いや、違う。炎じゃない。あれは──異形だ。
体長は二メートルくらいだろうか。円錐形に近しい胴体は、静脈血のように赤黒い色をしている。そしてその胴体の頂点からは、細い腕のようなものが二本生えていた。シルエットだけなら、ドレスを着た人間に見えるかもしれない。
けど、その頭部。そこに人間の頭蓋は無かった。代わりにガス灯のランプ部分のような構造物が乗っかっていて、その内側では炎がメラメラと燃え盛っていた。
頭部に炎を灯す異形。ソイツはなにかを捜すように、その場をぐるぐると動き回っている。……と、蝶の姿を見つけ、その細腕を蝶に伸ばした。
『……ドこ、……いっテ、……』
女性とも男性とも取れない不思議な声が響く。なにを言っているのか気になって、私は耳を澄ませた。
『……マッたく、ドこいっテたンデす? トおクへいっチャ、アぶナいンデスよォ?』
今度はちゃんと聞き取れた。人の言葉を喋っている。……口も無いのに、どうやって喋っているのだろうか。どこかに発声器官があるとか? 胴体はどうなっているのだろう。……気になる。気になる。
私は引き寄せられるように、異形の背後へ回る。異形は蝶を捕まえるのに夢中で、背後にいる私には気づいていない。
「…………」
うわぁ、……スゴい。こんな生き物見たことない。
石油ストーブみたいな香りのする異形。近づいてみてわかったけど、その頭部だけじゃなくて胴体からも熱気が漂っていた。この異形の体、きっと温かいんだろうなぁ。……ちょっと触ってみようかな。
『……ヴァ!? アアアぁアァァッ!!?』
私が異形の胴体に触れた途端、異形が奇声を上げた。
「あ……」
触られるのは嫌だったのかな……。まあそうだよね。急に触られたら誰だって驚くし、私だって知らない人にいきなり触られたら嫌だもんなぁ……。
『……ハ? え? ナ、ンだおマエ……』
異形は困惑したような音を奏でた後、私の方を振り向いた。異形は明らかに動揺していて、その頭部の炎を激しく揺らめかせていた。
『ナんデこンなトコロに人間がいるンでスかァ!? 火事場泥棒ってヤツですカァ!?』
異形が私に向かって叫ぶ。へぇ、そんな言葉知ってるんだ。……いや、私は火事場泥棒じゃないし。むしろ、火事を起こすとしたらそっちの方だと思う。
「いや、私はただの通りすがり……」
『ヴァアアア!! ヤだア!! 見ラれタァ!!』
異形はそう叫ぶと、頭を抱えてうずくまった。……脚がどうなってるのかわからないから、うずくまっているという表現が正しいのかわかんないけど。
さっきまで私の頭上にあった異形の頭。それが、今私の目の前にあった。……おぉ、すごい。ガス灯みたいだけど、上に穴が空いてるんだ。触ったらやっぱり熱いかな。……ちょっと触ってみよう。
「……あっつ!!」
『ヴァ!? な、ナにしテんデすカ!! バカじゃナいンデすカあ!??』
私が異形の頭に触った途端、異形は悲鳴のような声を上げた。
「やば……指が焦げるとこだった……」
『アアあ!! アんタ、死ヌ気でスか!? 人間ハ脆いンデすかラ、触ンないデ下さイよォ!!』
異形はほぼ骨だけみたいな細腕を振り回して、私に抗議する。……なんか可愛い。
「ごめんごめん」
『……ハアァ。モウ、いいデすよ』
異形はゆらりと立ち上がる。……やっぱり、ガスストーブみたいな良い匂いがする。
『今日ワぁシに会っタコトは忘れテ下さイ。良いデすネ?』
「え、やだ」
『ナァんデでスかァ!!』
思わず即答して、異形にツッコまれてしまった。
『話聞イテマシタ!? 今日ワぁシに会っタコトは忘レロって言ッタんデすヨ!?』
「いやだ」
私は異形の提案を突っぱねる。
「だって、こんな面白い生き物忘れられるわけないじゃん」
『ワぁシは面白クナどないでスよ!!』
「いや、面白いよ。その頭とか、胴体とか……。出来るなら解剖して中身見てみたいもん」
『ヴァ!? 解剖ッテ、アなた正気デすかァ!? アアぁ、ヤだア! こンな人間ニ会ゥなんて!』
異形はまた頭を抱えて唸っている。面白いなぁ。
『モう、イイでス……。忘れナくテもイイから、今日ハ帰っテ下サい……』
異形は投げやりな調子で言った。私は少し考える素振りを見せて、口を開く。
「じゃあさ」
『ナンですカ』
「なんか記念になるものちょうだい」
『ハアァ!? なんでスか!?』
「いいじゃん。なんか面白いものくれたら帰るから」
私はそう言って、異形に右手を差し出した。
『……ヴァァ、メェんドくせェでスね。えエと……』
異形はそうぼやくと、胴体に細腕を突っ込んだ。そして、しばらく右へ左へとまさぐる。……なにしてるんだろ。
『……アあ、コレでいイや』
異形はそう言うと、胴体からなにかを取り出した。
『ワぁシの栄養源でス。人間デ言うトコロの……エネルギぃ? そウいウ感じの物でス。ホい』
異形はそう言って、胴体から取り出したものを私に渡した。それは、ビー玉くらいの大きさをした黒っぽい球体だった。……これが栄養源?
「ありがとう」
私は異形に礼を言って、貰った栄養源をポケットにしまった。
『……帰ッテ下さイますカ?』
「うん、帰るよ。コレ貰ったし」
『アァァ……良かッたァ……。ソれジャ、ワぁシハもゥ行きマスから、人間ハお家ニお帰り下サイ』
異形はそう言って、私に背を向けた。そして、炎の蝶と共に夜の闇に消えていく。
私は踵を返し、自分の車へと戻る。そして、異形に貰った栄養源をポケットから取り出して、改めて観察してみた。
「……飴玉みたい」
車内灯に照らしてみると、その色は真っ黒ではなく、少し茶色が混ざっていた。匂いもどことなく甘い。……本当にコレ、食べられるのかな?
私はそれを口の中に放り込んだ。そして、舌の上で転がすように舐めてみる。……ん、甘い。それに美味しい。……なんかちょっとクセになる味かも。
「また会えたら良いなぁ……」
異形の消えた闇夜を見つめながら、私はそう呟くのだった。
《了》