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読書メモ㊶

『時間ループ物語論 成長しない時代を生きる』浅羽 通明∥著(洋泉社)2012/11

これ、三度目の挑戦でようやく完読できました。
古今東西の小説、ライトノベル、アニメ、映画とループもののエンタメ作品を取りあげ紹介しながら、様々なテーマから類型化考察、掘り下げを行いつつ、時間ループもの発生以前の同じ仕組みを持つ古典をも引っ張り出しながら普遍的、社会的視点へと論を深めていきます。
早稲田大学教育学部国文科の講義が元らしく、早稲田や東大の先達たちの論議も数多く取り上げてます。

時間ループものって、とどのつまりは「やり直し」ですよね。
ここでは『ファウスト』が成長前向き型時間ループのルーツとして取り上げられてます。若返ってやりなおしたり、古代ギリシャの世界に行って理想の国家、社会を建設しようとしたり。
これってまんま、異世界転生ものや戦国時代に行ったら~ってやつじゃん、と今なら思いますよね。
本書は2012年の刊行なので、直近であったなら異世界転生ものも時間ループの類型として取り上げられていたのかな、とも。

類型のひとつとしてユートピア型なんてものも尺をさいて繰り返し論じられていて、浦島太郎伝説から明治の高等遊民、そして平成のわたしたちへと。
〈サブカルチャーの動向はなんとも言えません。しかし、我が国の世の中全体が、「直線的時間」を大きく回復してゆくのはかなり難しいと思われます。(中略)根拠はもう日本人の大多数は、新しく欲しいものがないからです。〉(p276)
確かにそうかもしれませんけど。

おもしろいなと思ったのは、『名作の読解法』を「我々がいかに小説を表層しか読んでいないかを思い知らされる一冊です。あるいは、再読三読に耐えない小説ばかり読んでいるかを」と紹介しつつ、繰り返し読む名作小説はすべて読者にとっての時間ループ物語ってしているところ。繰り返し体験することでようやく獲得できるものがあるっていう。
なんか大仰ですけど、読む年代によって着眼点が変わるってやつですよね。
読書メモ⑬で紹介した『行きて帰りし物語 キーワードで解く絵本・児童文学』でも、読書そのものが「行きて帰りし」体験である、とありました。
わたしたちにはそういう読書体験ができる物語が必要だし、できることなら新しい名作と出会いたい、とも願うところでありますが。


『女の子の謎を解く』三宅 香帆∥著(笠間書院)2021/11

「や、もっとヒロインについて批評する言葉が増えてもいいはずでは!? 令和じゃん!?」という思いでもって綴られた「物語で活躍する女性」に関する批評の数々。
題材になるのは小説からアニメから映画、ドラマまで。直近の作品や評論も数々取りあげられているので、チェックしなきゃってなりました。

時代のうつろいを反映しやすいキャラクター造形といえるファム・ファタール。

1980年代も2010年代も時代を超えて「戦う少女」は「戦う美少女」とイコールなのか。

母性型ヒロインとケアと自己犠牲について。ケアを自己犠牲とイコールにする構造の問題。

いつか脱出したいものとして労働を捉えるシンデレラ型働くヒロインと、自分の才能を発揮する場として労働を捉えるジュディ型働くヒロイン。
家庭の存在がある限り労働による自己実現を百パーセント肯定できないヒロインたち。

「この国は、少女が好きすぎる。そう思ったことが何度もある。(中略)なんでこんなに日本の男性クリエイターたちは、少女を主人公にするのだろう。」から始まる逆の「女性クリエイターが、少年を主人公に据える場合」も合わせての考察。

〈自分の性の身体を使用してなお、自分の本当に語りたいこと、動かしたいことを体現するキャラクターがもっと出てきたらいいのにとは思う。でもそれは物語の世界の話ではなく、現実のほうの問題なのだろう。
 最後に個人的な話になってしまうが、最近、私は宝塚という文化にハマった。何をいきなり言い出すのかと思われそうだが。私が宝塚の舞台を観ていて強烈に感じることは、「やっぱりこれだけジェンダーを捻じれさせないと、今も私たち女性はフィクションのなかの恋を楽しむことができないのか」ということだった。たとえば男性に「君を守るよ」と言われても、キャーと黄色い歓声をあげることはもはやできないのだが、女性が男装をした姿に「君を守るよ」と言われると、いとも簡単にキャーと黄色い歓声をあげられるのである。〉(p128)

と共感できる指摘の数々の中でも特に、ジェンダーSFというジャンルとしての『日出処の天子』や『大奥』(よしながふみ)論では泣いちゃいました。

〈女性は内側で分断される。「女性」としての自分と「人間」としての自分に。多くの女性が働くようになった現代ではさらにこの分断は深まる。子を産むことと、勉強して働くことは、いうまでもなくまったく異なるベクトルの要求だ。化粧と勉強、結婚と仕事、出産と年収。人生でいつもベクトルの異なるふたつの軸がある。もちろんそんな要求付き合ってられるか、とどれかを切り離すことはできる。ただ、なぜか結局どちらを選んでも、選ばなかったほうから責められているような気になる女性は多いのではないだろうか。少なくとも私はなる。〉(p144)

そうなんですよねえ、ほんとうにそう。みんなそうだと思います。

この他、大人数のアイドル論も面白かったですし(いきあたりばったりにしてもわたしはそれはやっぱり秋元康の手腕だと思う)、シスターフッドものについての、恋愛よりも連携の物語が求められている、という結論に納得だったのですけど、でも、ラノベやweb小説のコンテストでは女性向け異世界恋愛ファンタジーの需要がすごいよな、リアルなお話ではもう恋愛は描けなくてファンタジーでないとダメなのか、とか。
半日ほどで読めてしまえる容量なのですけど、読みながら思考にふけってしまう密度の濃い一冊です。


『泣き娘』小島 環∥著(集英社)2020/10

文章が読みにくくて、どうしてかって読点が多いからなんです。私は読点の多い文章が苦手で。描写の流れもしっくりこなくてなんか合わなくて。
リタイアの文字がちらついたけど、武則天の治世の頃という気になる時代設定だったので我慢して読み進めたところ、主人公のキャラを掴めてくるころにはおもしろくなってきました。めんどくさい燕飛がかわいい。

どこかで「一般文芸じゃない、キャラ文芸だ」ってレビューを見かけたのですけど、そうかな。キャラ文というほどキャラがたってないし、ミステリーというほどの謎解きではないし、かといってストーリーはごく単純だし、泣き女の習俗にクローズアップしてるわけでもないし。
むしろweb小説に近い中身の薄さかも、と。内容の薄さっていうのを余白と捉えて、いろいろ解釈しようと思えば読みを深められるのかしらーとも。なんでわざわざ女帝の都を舞台にしたのか、とか。褒めようと思えば褒められるってところもweb小説っぽい。
これが「小説すばる」掲載作品なのか、っていうのが私の率直な感想です。


『国語教師』ユーディト W.タシュラー∥著(集英社)2019/05

同作者の『誕生日パーティ』がお目当てだったのに書架に見当たらなかったのでこっちを先に借りたんですが、面白かったー。
よくある男女の会話あるあるで思わず笑ってしまう元恋人同士のやりとりから始まり、どんどん細部を露わにしていく構成が見事。ミステリーというよりサスペンスホラーのようで「きゃー……」ってなりながら読み進めて、私はシニカルな笑いが浮かんだのですけど、感動的にまとめられたラストにはそれはそれで泣いちゃいました。なるほど、「愛と裏切りと死の物語」。そして圧巻の人間ドラマでした。
いやあ、しかし、ネタバレになりますが………



ヒーローがクソ。本当にクソ。それを赦しちゃうごとくのヒロイン。いや、ひっくりかえせば、これはこれで復讐だよねって、私はそう思いたいです(大人げない読者)


以下は資料メモ

『子どもの養子縁組ガイドブック』家庭養護促進協会大阪事務所∥編集(明石書店)2013/12
『盗賊の日本史』阿部 猛∥著(同成社)2006/05
『平安京の下級官人』倉本 一宏∥著(講談社現代新書2649)
『古代日本の官僚 天皇に仕えた怠惰な面々』虎尾 達哉∥著(中央公論新社)2021/03

2件のコメント

  • こんにちは~。
    時間ループものって、漫画やアニメ作品のリバイバルにも通じるところがあるのかな、なんて思います。
    昔のあの作品よかったよね、今の技術でもう一度やってみようよ。みたいな。
    日本人にはもはや新しく欲しいものがない、っていうのも痛いところ突くなって思いました。


    宝塚はね~、ホントにそう。今、私Vtuberに傾倒し始めたんですけど、宝塚と共通してるのは現実とフィクションの混在だと思うんですよ。生身の人間とキャラクターが違和感なく一つの体に同居してる。
    だから普通のアイドルよりもう一歩踏み込んでフィクション≒妄想できる。
    完全なキャラクターよりももう一歩こっちに近いところに来てくれる。
    すごい文化だなーって思います。
  • 確かに。リバイバルもループだね。その中でも三度四度と再評価されるものって、どれだけ物語としての強度が強いんだって思います。

    ♪「それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?」、使い回されるのはエコ的にはいいのだけどね( ̄▽ ̄;)

    なるほどー。完全なる二次元じゃないと萌えない人にとってアイドルや2.5次元は範疇外でも、Vtuberはいけるのかな。
    そういう隙間の需要って多いかも、なんて。境界の曖昧さって、重要ポイントなんだな、なんて。
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