前回の近況ノートで「殺戮にいたる病」を読みますと書いたところ、「読後のメンタル楽しみにしとくわ」とのコメントをいただいて嬉しかったので、調子に乗って読了後の感想を述べたいと思います。
以下、重大なネタバレはありませんが内容について触れます。
・まず
今回私が読んだのは「新装版」です。
めっちゃ面白かったです!すごい!
ということを念頭に置きつつ、変な先入観のある状態で読み始めたことを最初に言い訳しておきます。
・変な先入観
これ、なんでだっけ…と思ったんですけど、自分なりに「こうなんじゃないか」というのがありました。
“読む前に、「ラストがやばい」「読むには覚悟がいる」という情報だけは握っていた”
そこから連想して、なんとなく、「読後に心を抉り取られたように鬱っぽくなるタイプの小説なのかな?」と思ってました。
イメージとしては、向日葵の咲かない夏。
端的に言うと、“嫌な気持ちになりたいときに読む本”だろうと勝手に認識していたわけです。
ちなみに、電子書籍で読みました。
実は、購入日は半年以上前になります(Kindleのまとめ買いキャンペーンで沢山買ったうちの一冊)。
・実際の読後は……
鬱にはならなかったです!
感想の第一声は「なるほど!」って感じ。これまで読者に与えられてきた違和感の答え合わせ!
私、書いてあることをあまり疑わないピュアな性格なので、恐らくミステリー作家の方々から見たらすげえカモなんですよね。
ちょっとした「ん?」という違和感があっても、スルーして先に進んでしまうタイプ。
そしたらですよ。読了後、「くそー、やっぱり騙す気満々だったんだな!」となるのがオチ。
で!
前述の勘違いのせいで、見当違いの覚悟(読了後にド鬱になる覚悟)をキメて読んでいるわけです。そのせいで余計に騙されてる。
恥ずかしながら、“これは叙述トリックの名作ですよ”という情報もなく読んでおりましたから、私としては二重の意味で想定外のラストを迎えたことになります。
・読み返しの理由
そりゃもう、「あのときスルーしてしまった違和感」を追う旅ですよ。
二周目だと、「いや、ミスリードにしてもこれはズルじゃん?」という気持ちになります。しかし何を言っても負け惜しみ。
本作にはかなり残酷な描写もありますが、それすらも、トリックから目を逸らすためのワザなのかなと思うとニヤニヤしますね。
あと、エピローグが冒頭に来る構成になってるので、誰でも自然と読み返しちゃうのがニクい(褒め言葉)ですよねぇ!
・最後に
めっちゃ面白かったです!(2回目)
普段からワイダニットものを好んで読むので、どのように犯行がなされたか・だれが犯行を行ったのか、という部分よりも、その人物は何を思い、なぜその行動に至ったか? という心理的な部分を見せてもらえると気持ち良いんですよね…!
本作のメインとなる連続殺人の犯人・蒲生稔(※名前出しはネタバレでもなんでもないです、念の為)ですが、彼の狂気にしっかり寄り添っているのが魅力的でした。
彼の犯行はとても猟奇的であり異常だけれども、その狂気に触れていると、どんなことがあっても「お前ならそうしても不思議じゃないわ」という意味で、行動に説得力があります。
私自身はその狂気の領域にいないけど、なんでそうしたのかは理解してやれるよ、という感じ。フィクションならではの楽しみ方ですね。