アイディアを考える過程でとりあえず1話書いてみたので限定公開しておきます。
ストーリーは大体できていますが、続きを書くかは完全に未定です。
タイトル:悪徳村長になりました
「その、本当によろしいのですか?」
「あぁ、もちろん村人に反対されていることは知っている。しかし…、それでも必要だと思ったなら、やるまでだ。俺…、いや、私は人に好かれたくてこの|村長の座《せき》についたわけじゃない」
「ですが! …いえ、わかりました。それでは、手配します」
苦虫を噛み潰した表情を浮かべつつ部屋を後にするナタリー。彼女は俺の2つ上の幼馴染みであり、俺の秘書として頑張ってくれている。
まぁそれはいったん置いておいて…、俺は何処にでもいる普通の転生者だ。いや、転生者なんて滅多にいないし、普通でもないのだが…。あくまで前世でよく読んでいた転生モノに酷似した体験をしているという意味だ。
俺はベタなことに、前世では何の変哲もない冴えないオッサンだった。何の哲学もなく普通に働いて、帰ったら動画やWeb小説を読んでちょっとだけニヤニヤして、寝る。そんな生活を何千回だか繰り返したある日…、死んだ。
まぁそんなことはどうでもいい。もう終わったことだ。問題はそれから。俺が転生したのは剣と魔法がおりなす異世界の…、田舎の村長宅だった。裕福では無かったが、それなりに権力はあった。残念ながらこの世界に美少女の女神様はいないらしく、なんのチートも授からずに(本当に微妙な能力は一応あるのだが)この世界に記憶を引き継ぐ形で生を受けた。それでもまぁがんばらないわけにもいかないので、俺は前世の知識と村長の息子としての立場を利用して、それなりに村を助け、それなりに発展させた。
そして俺は…、足りなかったこの異世界の知識を本格的に学ぶため魔法学園へ入学した。因みにこの世界に義務教育制度はなく、あるのは金と時間と才能に恵まれた者だけが通える専門校のみであり、年齢としては中学に相当する。一応、幼いころから剣や魔法の修練は積んでいたので…、それなりの成績だったし、まぁ、充実した学園生活を送れていたと思う。
しかし、春のある日。両親が…、処刑された。
理由としては、じつのところ詳しくは分かっていない。たまたま領主が視察を兼ねた旅行で村に立ち寄り、そこで我がままを言って…、よくわからないが、機嫌を損ねて処刑されてしまった。
自慢じゃないが、俺も前世の記憶もあわせれば結構な歳で、とうぜん"出る杭は打たれる"ことくらい知っていた。だから知識をひけらかさず、うまく立ち回っていたつもりだし、実際それまでは上手くいっていた。
しかし、交通事故と同じで自分だけが注意していても意味はない。絶対的な力、そしてなにより時のめぐりあわせの前では、人の力はあまりにも無力だ。
まぁそんなわけで、俺は急きょ学園を中退して…、この村の村長になった。
「 …はんたーい。よそ者をいれるなー」
「この村は住人の力で… 」
「 …! ……!!」
「またか」っと心の中でつぶやく。
ここのところ毎日、村人が抗議に来る。さすがに相手にしていられないので追い返すよう指示してあるが…、結果として空いた時間は昼夜を問わず座り込みと言う名の騒音をまき散らすようになった。
「(コンコン)ナタリーです」
「入ってくれ」
「お待たせしました。"例の酒場"の件で書状が届いていたので、お持ちしました」
「あぁ、すぐに目をとおそう」
「その…、どうぞ」
あいかわらず渋い顔のナタリー。
それもそのはず。例の酒場とは…、一言で言うと"売春酒場"だ。女性であり俺のお姉さんとして昔から世話をしてくれた女性に任せる仕事としては倫理的に問題がありすぎる。しかし、それでも必要ならやるだけだ。
俺が村長になって真っ先に企画した案件は4つ。
①、村の防衛強化。単純に壁を作って守るだけでなく、入村管理局を設置して村に出入りする者を管理・記録をする。
②、村の生産物の見直し。典型的な農村である我が村を2次産業や観光業で稼げる村へと昇華させる。
③、売春酒場の建設。宿を兼ねた酒場で娼婦を働かせ、外から来る冒険者や商人を宿泊させ、外貨を稼ぐ。
④、荒くれ者の雇用。ぶっちゃけ盗賊だ。ほかの街で孤児として育った若い盗賊見習いを近隣の森に非公式で住まわせる。
他にも考えている案はまだあるが、通常の業務もあるので一旦はここまでにしておく。あとは追い追い状況を見ながら臨機応変にやっていくつもりだ。
「 …なるほど。"アバナ"のやつフっかけてきたな。持つべきものは何とやらって言葉、知らないのか?」
アバナは魔法学園で知り合った商人の息子だ。魔法学園は、なにも魔法使い志望の人材だけがかようわけではない。魔法科、戦士科、商業科の3つに分かれており、大学のように自分で受ける授業を組み合わせて、卒業に必要な専門科目とそれ以外の分野の単位を必要数獲得すれば卒業できる。俺も商業科に在籍していたのでアバナのように見込みのありそうなヤツには以前から声をかけていた。
「その、大丈夫ですか?」
「大丈夫ではないが…、まぁ最悪、私が直接買い付けに行って、自分で持ち帰れば済む話しだ」
「はぁ…」
「問題は冒険者ギルドの認可の方だな。できれば出張所を酒場に設置したいが…、下手にケチると審査で落とされる可能性がある」
売春酒場には冒険者ギルドにも入ってもらう予定だ。ギルドがあるかどうかで訪れる冒険者の数はガラリとかわる。なにより、依頼を出すたびに近隣の街に使いを出す手間を省ける。
しかし当然、簡易の支店であっても維持費や施設管理の負担はバカにできない。基本的にギルド自体の運営は、すべて冒険者ギルドがやってくれるのだが…、今回は俺の村長就任にあわせて手前の都合で来てもらうのだ。店舗や税金などある程度負担や譲歩が必要になる。
なるのだが…、金が、ない!
いや、あるにはある。そのへんは父さんや幼少期の俺が頑張ってくれた。しかし、それ以上に領主に無茶な税を課せられてしまった。
あの|領主《クソ野郎》は、一方的に父さんや母さんを処刑しておいて、あろうことか! 代わりの村長を自分の末の子供にやらせようとしたのだ!!
さすがに俺や村人はキレたし、国の役人もコチラを擁護してくれた。確かに領主は貴族であり、絶対的な権力を持っているが…、それはあくまで国から与えられたものであり、土地の管理に関わる大きな変更は領主の一存だけでは決められない。そのあたりの話は長くなるので割愛するが…、つまりは上手くいかなかったから腹いせに税金を限界いっぱいまで釣り上げられたのだ。クソ野郎は税金の未払いを理由に再度村長の座を奪うつもりなのだろう。
そのせいで俺の将来設計は大きく狂った。村を存続するためにコチラも限界まで税金を上げる羽目になったし…、倫理に反する金策も余儀なくされた。とりあえず雇った盗賊に領主を襲わせる計画を考えるくらいには…、倫理観は崩壊した。
「その、ただでさえ心象の悪い施設なので、貯えを切り崩すことも、必要かと…」
「それはそうだが…」
ナタリーも、これが村の存続をかけた瀬戸際であり、ナリフリ構っていられないのは理解している。ナタリーの家系は代々、村長の一族を補佐してきた。許婚…、とはちょっと違うが、幼少期から次期村長である俺を補佐する役目を運命づけられていた。小さい時は頼れるお姉ちゃんとして身の回りの世話をしてくれたし、一緒にお風呂にも入っていた。今でこそギクシャクして割り切った付き合いになってしまったが…、学園に入学する前は、本当にブラコンというか…、母さん以上に、俺の母親であり、姉であり、幼馴染みだった存在だ。
そんな事を考えていると…。
「 …! …さん、大丈夫ですか!!」
「え? あぁ少し意識が飛んでいたようだ。気にしないで続けてくれ」
最近ほとんど寝ていなかったので、一瞬、意識を失ってしまった。転生して鍛え直したおかげで体力はそれなりに自信はあるが…、やはりゲームのように回復魔法で疲れを誤魔化すのには限界があるようだ。
「気にします! ご飯もろくに食べていないようですし…、アナタに倒れられたら…」
「す、すまない」
ポロポロと涙をこぼすナタリー。流石の俺も姉さんの涙には勝てない。
「すまないじゃありません! 無理をしないといけない状況なのは理解していますが…、それでも自分の体を大切にしてください!! 普段の村の業務なら父さんたちだけでも何とかなりますから、アナタ一人で抱え込む必要は、ないんです」
体を優しく抱き寄せられる。この感覚、久しぶりだ…。
そう、まず何とかしないといけないのは"人材"だ。物語のようにチートで強引に解決する力のない俺には…、もっと頼るべき部下が必要…、なの…。
気が付くと俺は、柔らかい温もりに抱かれ…、眠っていた。