この物語の原型は、論考的なエッセイだった。
混乱期に人はどう生きるべきか、何を信じて立ち上がるべきか。私はそれを物語として語ることで、もっと深い場所に降りていきたかったのだと思う。
主人公ルカは、過去に背を向け、一度は逃げた教師だ。だが、彼は「再び言葉を発すること」で、自分を回復していく。
「私は、今日──灯になろう。」というセリフは、彼が再び他者に火を渡すと決めた瞬間だ。
印刷工房と火刑台。創造と破壊。言葉と沈黙。すべての象徴は、「火を継ぐ」という行為の重さを描くためにあった。
そして、万年筆がルカから弟子エリシャへ受け継がれるラストは、「言葉という火は、名もなき者たちの中で燃え続ける」という祈りでもあった。
この作品を書くことで私は、「過去を抱えたままでも、意思の力で、改めて灯をともせる」という視点を得た。
それは、書くことでしか得られなかった肯定だった。
