• 異世界ファンタジー
  • ラブコメ

ループして六属性を極めた魔術師、七周目で極めるのは【淫】 side26‐4 リベル(13歳まで)

この話は『ループして六属性を極めた魔術師、七周目で極めるのは【淫】』で出世卿とか狐目男とか言われてるリベルの話です
最後まで終わらすつもりだったんだけど長くなってしまったので、まずは彼が12歳〜13歳のできごとをやっていきます。
全5話
本日が第4話
なおいずれ一般公開もしますのでご了承ください
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡

 リベルというのはいけ好かない男であった。

 ……そういうのが、スパルティ大神官のそば仕えたちの心情であった。

 というのもこれは、リベルがその精神をむしばみ続ける『傲慢』を表に出すようなヘマをやらかしたとか、そういうことではない。
 だいたいの平民は最初、そう思われる。

 そして、《《わからせられる》》ことになる。

 スパルティ大神官の小姓は全部で五十名ほどおり、そのうち四十名ほどが貴族家出身の者であった。
 貴族家出身者たちは平民が小姓として来るたびに『立場をわからせてやる』と称していじめを行うことを通例としており、新たに来た有能なる平民たちは、そういう儀式によって格付けを行われ、『優秀だが貴族には逆らえない』という精神性を叩きこまれるのである。

 この通過儀礼は当然、リベルに対しても行われた。

 まず貴族たちが徒党を組み、『臭い』だの『貧弱だ』などと、簡単な罵倒を、遠巻きに、しかし聞こえよがしに行う。
 続いては平民の私物を隠す、服を汚すなどの工作を行う。
 その次の段階として、平民に『こいつが私のものを盗んだ』などの罪をでっち上げ、平民ではとても返しきれぬような借金を背負わせてみたり、大勢の前で額に床をついての謝罪を要求してみたりして、『格付け』を済ませる。

 その途中で歯向かうような生意気な平民に対しては集団で取り囲んで暴力をふるうという『無礼者への教育』が行われる場合もあるのだが、たいてい、数も多く、また、英才教育も受けている貴族たちに実力で敵う平民はいないので、この段階を避けるため、平民は貴族に絶対服従、どれほど理に適わなくとも、貴族が『白い』と言えば『はい、おっしゃる通りです』と平伏するしかないのであった。

 こういったことが、リベルに対しても行われた。

 これはそば仕えたちの主人であるスパルティ大神官も目こぼしする行為であり、上に訴えたからどうなるというようなものでもない。
 というより、こういういじめのターゲットになるのも『優秀な平民の業務の一環』だと考えているふしがあり、訴え出るような者はそば仕えを辞めさせられるのが常であった。

 リベルは、これに耐えた。

 ……傍目にはそう映っただろう。貴族たちの理不尽に何も反抗せず、貴族たちのいじめに平伏し、平民としての立場をわきまえ、報復など考えてもいない様子で、ひどい仕打ちに耐え続けた。

 だが、リベル当人の内心を語れば、こうなる。

(貴族の子女といえど、平民とそう変わらぬ生物だな)

 こんな場所で格付けを行って、それがさも絶対であり、永久不変であるかのように思い込むその愚かさ。
 どうにも『理不尽なことをされて頭を下げ、逆らわない』という様子を通してしか安心を得られない儚さ。

 神殿という勢力にはびこる『空気感』はきっと、こういうところから発し、有能が肩書きを得られず、無能がのさばる、そういう原因になっていることをリベルは確信した。
 確信したうえで、貴族の子女たちのそういう行為に対して怒りはわかなかった。

 彼らのせいではないのだ。

 彼らはすでにある空気の中から見出した流れを踏襲する以外に生き方を知らず、『流れに沿っていること』以外に安心を得る方法を知らない。
 教わっていないことができるというのは異能なのだと、リベルはすでに学んでいた。
 ゆえに、リベルに対して『格付け』を行う貴族たちもまた、異能を持たぬ普通の人なのだ。貴族だの平民だのにことさらこだわる様子は滑稽に思えてしかたなく、理不尽な仕打ちに対する怒りをこらえる苦労はなくとも、彼らの追い詰められた者特有のあがきを見るたびに笑いをこらえる苦労は大変なものがあった。

 しかも、貴族の子女たちは、リベルに『あるもの』をもたらしてくれた。

「大丈夫か? ……ずいぶん服を汚されてしまったが、このあとスパルティ大神官のおそばでの仕事があるのだろう? 着替えはあるか?」
「……リベルか。……着替えも、やられてしまって」
「では、私の服を貸そう」
「いいのか!?」
「ああ、同じ孤児出身、平民のよしみだ。スパルティ大神官は、成果さえ出せば認めてくださる。しばらくの辛抱だ。辛抱のあいだは、我々も連帯して、やっていこうじゃないか。……安心していい。私は、君の味方だよ。悩みがあるなら、言ってくれ。私がきっと、励みになろう」

 そう言って肩を抱き、耳元で優しく、笑顔でささやいてやる。

 すると、『生涯の友人』ができるのだ。
 しかもあの、能力主義の極まったスパルティ大神官に、そば仕えに選ばれるほどに優秀な『友人』である。

 貴族たちのいじめは、リベルにたくさんの、深い『友人』を与えた。

 同じ神殿で育った、軽んじることのない仲間。
 いかなる苦境でも思い返して励みにすべき故郷。

 一生涯、自分の手駒になりうる味方……

 貴族たちの賜物に違いなかった。
『敵』がいなければ、バラバラの神殿から来た、平民というだけしか共通点のない者どもが、このように連携することはなかったはずなのだから。

 ……とはいえ、この友人関係が絶対ではないことをリベルは理解している。

 なので、たまに工作もした。

「やつらが、徒党を組み、あなたたちへの反乱をくわだてておりました!」

 平民神官の中には、仲間を売って、貴族神官に取り入ろうとする者もいる。
 そういう者を《《出して》》、仲間の中の連帯をより強固に、そして貴族たちにわからぬよう秘密裏にできるように、工作したのだった。

 とはいえリベルがしたことは、裏切りそうな心の弱い者に、はっきりと言葉にせず、当人はそう言われたともわからぬよう、裏切るよう誘導しただけである。

 しかしそれで、平民全員に疑心暗鬼が生まれてしまっては意味がない。
 そこで、仲間たちには『……実は』といかにも深刻そうな顔で、貴族におもねろうという《《予兆》》がある者について相談し、こいつをどうにか説得したいと涙さえ流してうったえ、友情というものの尊さを信じているかのように裏切ろうとしている仲間をかばい、そうして《《押し切られて》》裏切りを黙認するしかなかったという、影での小芝居もしたのであった。

 すると仲間たちはリベルの予想通りに裏切った元仲間を蔑み、そいつの企てにあらかじめ準備を終えた状態で裏切らせ、『やはりこうなった』と内心で思いつつ、表向きには『裏切りなど予想もしていなかった』という顔をし、貴族たちにやりこめられたように振る舞う。

 そして貴族たちの前で消沈し、もはや仲間など信用できないかのようにしながら、裏ではますます緊密に連帯していくという、そういう流れができあがったのであった。

 この環境は、リベルにとって、掌握たやすいものだった。

 もしも|養護長《マザー》の薫陶なくば、ここまで人の心をつかむことはできなかっただろう。
 それに、リベルが傲慢にその身をゆだねる性質であれば、ここで一人の味方も得られず、追い落とされ、蹴散らされ、あるいは殺されていたかもしれない。

 まぎれもなく幸運であった。

 さらにリベルは時間をかけ、貴族たちのあいだにも力関係や人間関係があることを浮き彫りにし、分断し、一つ一つ掌握、あるいは壊滅させていった。

 簡単だった。
 むしろ、平民同士の、『その場の空気感』と呼ぶしかないもののみが支配する関係よりも、家だの、あるいは親戚関係だの、そういう背景に由来する関係性であるから、情報を得るだけでだいたいの人間関係がわかる。

 これはもうリベルにとって本当に掌握がたやすく、同時に、リベルは貴族の社会でも自分は充分にやっていけるという確信を得るぐらいなのだった。

「ずいぶん派手な動きをしたようだな」

 ある日、スパルティ大神官に呼び出され、なんの話題かも言われずに、そう切り出された。
 それはまぎれもなく、スパルティ大神官のそば仕えたちが詰める神殿の《《空気》》についての話であり、これまでの『貴族と平民』という関係性を変え、神殿の内部の力関係を変えた犯人がリベルであると、そう確信しての問いかけだった。

 リベルは、こう切り出された時に、こんなふうに思った。

(ようやくか)

 スパルティ大神官に呼び出される《《予定》》であったし、そのために派手めに動いたのはあったが、呼び出されるのが遅かったなという雑感だった。

「お気に召しませんでしたでしょうか」

 リベルは議題をはっきりさせぬまま問いかけた。
 スパルティは「いや」とつぶやき、

「手間が減り、仕事の効率が上がった。今後も励むといい」
「わかりました」

 そのやりとりを経て、リベルはいよいよ確信する。

(この男も、掌握できるな)

 スパルティ大神官ならこう言うだろう、と想定していた会話が、そのままなされたのだ。
 だが、リベルは内心でまだ己を戒める。

(……傲慢だ。この神殿で寝起きをともにしている者どもならいざ知らず、侯爵家出身にして大神官であるこの男には、まだ私が把握していない部分がある。決めつけるな。理解したぶるな。まだ、知らない情報があることを常に念頭におけ)

 己を戒める、その理由。

 ……『それ』を振りかざす貴族の子女たちは、滑稽で笑いそうになってしまったものの、リベルの中にある、『それ』に対する怒りは、まだまだ消えたわけではないのだ。

 いやむしろ、神殿の、大神官のそばに仕えてみて、ますます『それ』への怒りが燃え上がっていると言ってしまっても、いいだろう。

 有能な者ではなく、無能な者が、肩書きを得ていること。

 怒りだ。

 理不尽への怒り。肩書きがハマッていない不格好な者が、その肩書きにあるということへの、我慢ならないほどの怒り。
 この世界が正しくなく、誤っていることへのどうしようもない、生まれつきとしか思われないほどの、憤怒……

 この身を焼くほどの怒りをどうにかするためには、やはり、己の力で、己の世界を正しいようにするしかないと確信している。

 やはり、最大神官になるしかない。

 だが平民だと行けても神官高弟、しかも中央権力から遠ざけられた、いち神殿の管理者としての立場までというのが限界だ。
 その限界を、どのようにうちやぶるか。

 ……神殿内の人間関係は、人心掌握によって限界を越えた。
 今やリベルは貴族出身、平民出身にかかわらず、あらゆる者を『友人』としている。

 だが、神殿というより大きな組織、顔を見ることもかなわぬ者、声を交わすこともままならなぬ者が多くいる、この巨大組織の中で上り詰めるには、いちいち顔を見て、掌握して……という手順は踏めない。

 ならば、どうするか。
 その答えとなる流れもまた、リベルは用意していた。

「ところでリベル、《《この環境》》は君がいなくとも持続|能《あた》うかね?」
「問題なく」
「では、私のそばについて仕事を手伝いなさい」

 返事は一つしか許されていない。

「わかりました」

 権威の利用。
 現在の環境でより上位の肩書きを欲するのであれば、現在の法則に合わせるしかない。

 そのための第一歩として、侯爵家出身大神官のもとで、信頼を得る。
 平民出身だなどと言わせないで、つい大神官に推してしまうぐらいに、《《愛される》》。

 人からの愛など計画的に得られるわけがないと、言う者がいるだろう。
 だが、リベルはできると確信していた。愛する、愛されるというのは、リベルにとって極めて論理的なものなのだ。

 リベルは己が大神官になれる才覚を持つと確信した。

 いつか、この胸にたぎる、生まれつきある怒りを鎮め、やすらぎを得る。
 それがリベルにとっての夢であり、それがいつか叶うことを、十三歳のこの時にはもう、確信していたのだった。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する