いつも『怪異撃滅クラブ』を読んでくれて、
ありがとうございます。
秋野てくとです。
作者ということになってます。
……って、もういいか。このノリは。
改めて、秋野てくとです。
怪異撃滅クラブの秋野テクトちゃんとは違い、
女子高生じゃないし、女子高生だった時期もありません。
読者の皆様、ご愛読ありがとうございました。
まだ読んでない人は今すぐ本文に失せろ!(読んでね♪)
ということで、あとがきというか裏話的なものを書いていきます。
(作中のトリックもバラしちゃうので、未読の人は気をつけて!)
まず、この連載はなんだったのかというと。
「そんなの都市伝〇解体センターに乗っかっただけでしょ」
と言われそうですが、半分は当たってます。耳が痛い。
元々は知人のちゃもなかさんが動画サイトで発表する用の、
ショート動画でやるミステリ作品を構想してたところから始まります。
名前はもちろん『怪異撃滅クラブ』。
とはいえ、今作とはまったくの別物で、
怪異のウワサを持ってくる女の子の助手と、
そのウワサを撃滅する男の子の探偵、というバディものの作品です。
実は既にYoutubeやTikTokにも自己紹介動画が上がってたりします。
私の立場はというと、動画用のミステリのトリックの提供を頼まれました。
面白そう、となって2週間ほどかけて18個ほどトリックを考えたところ――
久々にミステリ小説を書いてみたいな、という気持ちになりました。
幸い、ちゃもなかさんには「ノヴェライズって形でトリックを流用して小説を書いてもいいですよ。動画の宣伝にもなりますし」と言ってもらえたため、久々にミステリ小説に挑戦することにしたわけです。
そういうわけで、実は本作のトリックのうち1~5章のトリックは元々は動画用に考えたトリックをそのまま流用していました。
最終章となる6章のみ、それまでのゲストキャラを総出演させるために逆算して書いたため、小説オリジナルのトリックとなっています。
ちゃもなかさんの動画版は現在、多忙のため続きがアップロードされていない形となっていますが、再開したときにはぜひ応援よろしくお願いします。
ここからは、各話の裏話的なものを書いていきます。
第一章「死を呼ぶ呪いのパズル『エミロム』」
元ネタ:リンフォン
はい、まずはリンフォン回です。
『おとカド』にも最強のボスキャラとして登場させましたが、私はリンフォンが大好きで、『都市伝説解〇センター』を遊んだときも「リンフォン編やりたいなぁ」と思ってました。Twitterでハイクオリティのリンフォン編二次創作が投稿されててビックリしましたが……。
これは動画版のトリックを考えるときにも最初に考えたトリックでした。
いくら形状記憶合金って言っても、どういう構造で三段変形するんだよとは思いましたが、変形ギミックが謎なのは原作のリンフォンと同じなので!
キャラ紹介よりもまずはコンセプトを読者に見せるのを優先したため、全部合わせて1万文字以内に収まるように書いてみました。
この章はヨミが嘘をつくのが楽しそうで、今読み返すとほほえましいですね。
ちなみにヨミのキャラが「無害な嘘つき」で、ミコネのキャラが「騙されやすいお人好し」なのは、全体のプロットで最終章を「ヨミの思いやりから出た嘘をミコネが撃滅して成長する」とこまで考えていたことによる逆算です。
ただし、この時点では「キャッチ―なリンフォンを題材にしたエミロム編を第一話にする」「最終話ではヨミの嘘を撃滅する」ところまでしか考えていませんでした。
トリックだけは18個あるので、まぁ何とかなるだろうと。
そのために、後に地獄(インフェルノ)を見ることになります。
リンフォンだけに。
第二章「足を奪う超高速上半身疾走女霊『くれくれさん』」
元ネタ:テケテケ、カシマレイコ
次は無明マツリ登場回です。
好きなんですよね、仮面ライダーとかスーパー戦隊の序盤で、後のレギュラーが一人ずつ登場していくキャラ紹介の回。
今回はマツリの「忍者」という個性を強調するために、「変装と聞き込みが必要となる学園という舞台」「物理的な脅威として襲ってくる怪異」という題材を選びました。
実は動画版の方のトリックでは「陸上を続けることに嫌気がさした女の子が、引退する言い訳として自作自演で怪異を生んだ」という構図にしていました。
これはショート動画という尺の都合でしたが、小説となると逆にボリュームが足りないので、そちらの真相を偽の解決として「リカンベントバイクで襲ってくる犯人」というトリックを生み出しました。
私は自分用語として「閉じる推理」「開く推理」という言葉を使っていまして、「閉じる推理」は「推理した後でつまらなくなる真相」、「開く推理」は「推理した後の方が面白い真相」といった意味で使っています。
そこで言うと自作自演説は「閉じる推理」で、リカンベントで襲ってくる怪人は「開く推理」かなぁと考えています。できれば、開いていきたい。
ところで、私が以前に住んでいた関東地方のある場所では、地元で有名なリカンベントバイク爆走おじさんがいて、よく奇声をあげていました。
初めて見たときはまさに怪異そのものだったので、使わせていただきました!
第三章「殺意に寄生し侵略するS級怪異『ウイチグス呪法典』」
元ネタ:黒死館殺人事件
叙述トリック回です。
この回が生まれたのは本当に偶然の産物で、具体的にはこの一つ前の「ブラックアートの忍術」というコラム回を書いているときに思いつきました。
前回のときにマツリに「飛び加藤の忍術かな…」と意味深なことを言わせたのに、第二章の中で回収するのを忘れてたんですよね。
仕方なくコラム回を書いて補足することにしたのですが、ここで筆者である秋野てくとを出すことを思いつき、そこでギャグとして「私がまだ女子高生だった頃……」というネタを言わせました。
これの元ネタはFGOの蘆屋道満の「拙僧がまだ〇〇だった頃…」構文のように見えるかもしれませんが、実は島本和彦先生の傑作オムニバスSF漫画『ワンダービット』で、語り部の首藤レイが「これはまだ私が女性だった頃の話である。」というとんでもない語り出しで始める回が元ネタとなっています。
ここで「じゃあ次の章で、女子高生だった秋野テクトを犯人だったことにしたら面白いよな。一応、すでに登場済みのキャラだからミステリのルールとしてもアンフェアにならないし」ということで、第三章をやりました。
「三人称小説に見せかけて一人称小説である」というトリック自体は、ミステリではありふれたトリックなので、こういった妙な趣向で遊べたのは楽しかったです。
叙述トリックには検討がついていた人も「秋野テクト」の文字列を観たときにびっくりしたんじゃないでしょうか? その顔が見たかった。
殺人トリックの「拮抗作用」は「トリカブト殺人事件」と呼ばれる現実の殺人事件で有名になったもので、ドラマの『相棒』などでも使われているものです。
動画版の方のウイチグス呪法典の回はこのトリックのみでした。
「毒」や「偽史」という要素が、放送中だったガンダムシリーズの最新作とも重なり、ちょうど同時に最終回を迎えることが出来たので、リアルタイム読者には楽しみを提供できたんじゃないかと思います。
番外編「天狗の爪」
元ネタ:天狗の爪
日常回です。
前回は「順番から言って榎木田セラ回だろうと油断した読者をハメる」仕掛けが多く、新登場であるセラが割を食う構成になっていたので、フォローのために改めてセラ登場回をやり直したという趣向です。
この回のトリックも動画版で用意したもので、動画版では主人公たちが仲良くなる日常回の要素を意図して作りました。
コンクールに投稿する以上、全部で14万文字という制約があるため、私の得意技である「更新に困ったら日常回でイチャつかせて誤魔化す」という手法が使いづらく、結果としてこの回で出た要素は後にこすり倒すことになります。
第四章「現実には存在しない場所『さぎり駅』」
元ネタ:きさらぎ駅
映画『REきさらぎ駅』の公開が始まったので、動画用に用意したネタからきさらぎ駅モチーフのトリックを持ってくることにしました。
リアルタイムで楽しみを提供する、ということを第一に考えた結果です。
動画では「ゲームを遊んでいた実況音声を加工して行方不明事件をでっち上げた」という部分で終わっていましたが、そこで終わると小説としてはオチが弱いと思ったので、パターン崩しを入れて「つづく」構成にしました。
RE:第四章「敗者に死を与えるマーダーミステリー『さぎり駅』」
元ネタ:空論殺
ということで、マダミス回です。
私自身が商業でマーダーミステリーを出版した実績のあるマダミス作家ということで、マダミス小説に挑戦してみることにしました。
作中ゲームのトリックは、私が以前に発表した作品のトリックを翻案しつつ、小説用に見栄えよくなるよう改変したものとなります。
最近では本職のミステリ作家さんがマダミスを制作することも増えてきましたが、仮にチェスボクシングのように「マダミスの技術」と「小説の技術」の両方を問うという総合競技をやった場合にはわずかながら私に一日の長があるため、マダミス小説は面白くできるんじゃないかという自負があり、挑戦した次第です。
ここでは大オチとして「ゲストキャラは実はマツリの変装だった」という仕込みを入れたことで、マツリ活躍回の趣が出ました。
そのため、次の五章はセラを活躍させる回にしようとなり、モチーフが決まります。
第五章「空を裂き牛をさらう円盤型飛行物体『U.F.O』」
元ネタ:UFO
この回のトリックも動画版から流用したもので、実在する「和牛預託商法」というポンジスキームの詐欺を元にしています。
イチャイチャイベントの都合上、ソフトクリームが欲しかったので、和牛ではなく乳牛で詐欺をしていたという風にアレンジしました。
作中のサブタイトルでも引用したとおり、稲生平太郎の名著『何かが空を飛んでいる』にも強い影響を受けたほか、UFOコンタクティに密着したドキュメンタリー映画『虚空問-Gate-』にもオマージュを捧げた一作です。
私自身が最も好きな怪異がUFOであることもあり、思い入れの強い回です。
言うならば「ウルトラマンで怪獣を倒さない回」的な異色の回でもあり、自己満足が強すぎたかなという反省もありますが、Twitter上での感想でも「一番好きだった」と言ってもらえることが多く、書いてよかったと思う回でもあります。
四章と五章を経ることで、主人公であるミコネにも傍観者(ワトソン)ではない個性と自我が芽生えてきたのを感じ、最終章で書くべきことが見えてきました。
第六章「死と生が交わる禁断の地『かだす島』」
連結封鎖領域【カダス・アイランド】撃滅戦
元ネタ:ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer
ドラマ『ケイゾク』の劇場版に登場する「黄泉の国がある島」の終末感が素晴らしく、いつかああいう舞台で物語を締めてみたいと思っていました。
流用したのはイメージのみでトリックなどは全てオリジナルとなります。
深棲海獣ダゴンのイメージは、佐野史郎が主演したビデオ版『インスマスを覆う影』のラストに登場したダゴンです。
作中の真相については「これまでのゲストキャラを全て出す」から逆算したもので、意図としては「怪異撃滅クラブが全て犯人であることまでは予想できるだろうから、その予想を上回ったら面白くなるんじゃないかな」というものです。
書いているうちに、どんどんミコネのことが好きになりました。
ヒロインの名前が「黄泉」なのも決まってるなぁと(自画自賛)。
ちなみに途中で「救済分の穴埋め」を入れたのは、予定よりも5章までにヨミの出番を作れなかったことで、肝となる「嘘は本当のことを入れると信ぴょう性が増す」という伏線を入れられなかったことで、無理やり伏線タイムを作るために書きました。
まさか、ここから回収してくると思わずにビックリしたと思います。
イェイ。
エピローグ
ラストに登場した『システム・アガスティア』というのは、実はカダス・アイランドの後に書く予定のエピソードに登場するマシンでした。
ちょうど佐藤二朗の『爆弾』の予告がTVでよく流れていたので、最終エピソードとして東京の各地が爆破されていく話をやりたいと考えていたのもあり、
・未来を予知するというAIが開発される
・正体不明の爆弾魔が東京を爆破していく
・AIは爆弾の設置場所を予知して、警察は防ぐ
・果たしてAIは本物なのか?
みたいな劇場版コナン映画のスケールで締めようとしていました。
実際には、5章を書き終えた時点でコンクール規定に収まる残り文字数は5万文字を切っており、尺が足りないことがわかったため、6章に全力投球するように路線変更した形となります。
以上が裏話となります。
連載を一旦〆たことで、一休みしつつ、文学フリマ用の原稿などに移ろうと思います。
休止中の『おとカド』についても、折を見て再開したいところです。
今後とも、秋野てくとをよろしくお願いします!