「デビュー前夜」Vol.4 『不器用で』ニシダ(ラランド)インタビュー

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人気男女お笑いコンビ「ラランド」のニシダさんの小説家デビュー作『不器用で』の発売が決定しました。きっかけはなんと、カクヨム誕生祭2022 ~6th Anniversaryでの小説執筆への挑戦です。カクヨムに投稿した「アクアリウム」は高校生の繊細で不安定な心情を描き出し、「暗黒青春小説」として話題になりました。
インタビューでは執筆秘話を中心に、読書の原体験、最近夢中になっている小説など、ニシダさんの飽くなき小説愛に迫ります。「お笑い芸人なのに、しゃべるのが得意じゃない」というニシダさんにとって、小説の存在とは――?

――『不器用で』には「アクアリウム」のほか小説 野性時代に掲載した作品も合わせて、計5篇が収録されています。まずは処女作の「アクアリウム」についてお聞かせください。「小説を書いてみませんか」とオファーを受けた時、どのように感じましたか?

ニシダ:読むのが好きなだけだったので、書く方になることは全く想像していませんでした。エッセイを書くお仕事はありましたが、小説は恐れ多いという気持ちでした。書いてみたいと思ったこともなかったのですが、よい機会だと思って、挑戦しました。爆笑問題の太田さんや劇団ひとりさんのような、ネタを書く側の人しか小説を書いてはいけないのでは……と思い込んでいました(笑)。自分はネタを書いてないので、その権利がないんじゃないかと。ネタを書いている方は小説を書いて、ネタを書いていない方は音楽をやるケースが多いんですけど、ラランドは逆ですね(※注:相方のサーヤさんは、川谷絵音さんらとバンド「礼賛」を結成し、活動している)。あんまりない組み合わせだと思います。

著者近影の撮影後、スーツ姿でインタビューを受けるニシダさん

――「アクアリウム」は日常に閉塞感を抱いている高校生の心の闇を描いた作品で、お笑い芸人として活躍する普段のニシダさんからは想像できない内容でした。読み手としてのご自身の好みが反映されているんですか?

ニシダ:元々、暗い作品を読むのが好きというのはあります。例えば、太宰治とか。明るくて面白い作品もあるんですけど、暗い作品も多くて。「走れメロス」とかだったと思うんですけど、教科書で読んで知りました。中高一貫校に通っていて受験がなかったので、中学2、3年の頃に図書館で全集を読んでいました。太宰の中では、「畜犬談」という犬が嫌いな主人公が犬に懐かれる話が一番好きです。この作品は暗い方に振りすぎず、ちょっと面白いところがいいんです。

――ユーモアのある作品を選ぶところに、ニシダさんのこだわりを感じます。処女作を書いてみて、印象に残ったことを教えてください。

ニシダ:「絶対にここは書きたい」という部分は書けるんですけど、その間にある文章を書くのが難しかったです。小説の書き方や正解が分からないので、手探りで、細かく描写することを意識しました。あと、小説を書くと、自分の文章を何度も読まなければいけないということに驚きました。特に書籍化の作業では、もう自分の熱が冷めている頃に読むので、気になる部分が多くて。「アクアリウム」に関してもカクヨムにアップする時は納得した状態で出しましたけど、書籍化にあたって構成を変えたりと、かなり加筆修正しました。

――Web版とは大きく変わっているようで、書籍で読むのが楽しみです。ちなみに、読み返してみて、気に入っている場面や文章はありますか?

ニシダ:主人公たちが釣りをしている最中に指に釣り針が刺さるシーンですね。頭の中に思い描いている映像が忠実に再現できた気がしているので。

――カクヨムに投稿すると、作品に多くのコメントが寄せられました。読者やファンの反応がすぐに得られるのがWeb小説の特徴ですが、どのように感じましたか?

ニシダ:読んでました。SNSのリプライと違って、長い文章で感想がもらえることに驚きました。自分の小説を読んで、レビューを書くという労力をかけてくれることが、シンプルに嬉しかったですね。

――相方のサーヤさんや、お笑い芸人の方々からの反応はありましたか?

ニシダ:相方は「暗黒青春小説」というキャッチコピーをとにかくいじってきました(笑)。サーヤさんは普段あまり本を読まないんですが、自分の書いた小説は読んでくれて。詳しく「どこがよかった」とか言わずに、「よかった」とだけ。あと、「アメトーーク! 」で読書芸人として共演したAマッソの加納さんが、野性時代に掲載した「遺影」を読んだと言ってくれました。

※「遺影」は本日よりカクヨムでも全文公開しています。

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――『不器用で』というタイトルにはどのようなメッセージが込められているのでしょうか。

ニシダ:なかなか決まらなかったんです(笑)。短くておしゃれなワードをはめるのがそんなに得意じゃなくて、担当の編集者さんとタイトルを決める会議を何回もしました。全然決まらなくて、小説の中から拾おうかと読み返すなかで、登場人物がみんな不器用だと気づいて、それなら『不器用で』でいいんじゃない、となりました。自分自身も器用ではないという意識があって、自己を投影した部分もあると思います。

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――ニシダさんのYouTubeチャンネルを視聴したのですが、雑誌掲載時の「虚栄心の鎧」というタイトルが気に入っていないとか……

ニシダ:はい、刊行の際にタイトルを「濡れ鼠」に変えました(笑)。

――『不器用で』のこだわり、おすすめのポイントなどをお聞かせください。

ニシダ:まず装丁のイラストがいいんです。各小説に出てくる登場人物やアイテムが散りばめられたデザインになっています。編集者さんと一緒に、お願いするイラストレーターさんを決めたりしたので、思い入れがあります。中身に関しては、全体的に加筆したので、カクヨム版や野性時代の掲載時より、よくなっているはずです

鬱屈した日常を送るすべての人に突き刺さる、ラランド・ニシダの初小説! 年間100 冊を読破、無類の読書好きとして知られるニシダがついに小説を執筆。繊細な観察眼と表現力が光る珠玉の5篇。

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――少し脱線しますが、小説を好きになったきっかけは何ですか?

ニシダ:帰国子女でドイツとスペインにいたのですが、ドイツ時代はあんまり友達がいなくて、図書館で『かいけつゾロリ』とかを読んでいました。それと小学校2年生くらいの頃、『ハリー・ポッターと賢者の石』の映画が公開されてすごい話題になっていたんですけど、日本語で見たいのにドイツ語でしかやっていないから、映画館に行けなかったんです(笑)。それで、仕方なく本で読んだのが小説の原体験です。

――悲しくも笑えるエピソードですね。最近、夢中になっている作者や作品はありますか?

ニシダ:村上春樹さんの『風の歌を聴け』や『ダンス・ダンス・ダンス』のような初期の時代の作品を読んでいます。『1Q84』や『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』など新しい作品は読んでいても、初期は読んでいないなと思いまして。書店で1万円分の本を買うというYouTubeの企画をやった時に、何冊かまとめて買ったら、めちゃくちゃ面白いなと。

――ニシダさんがTwitter(@mouEyo_Nishida)で連日投稿している「#架空小説書き出し」もYouTubeの企画から生まれましたね。毎日考えるのは大変じゃないですか?

ニシダ:いつも夜の12時くらいに上げようと思うので、11時20分くらいから考え始めてます。思いついたものはメモしたりしていますね。おかげさまで、他にもやってくれている人がいて、嬉しいです。

――最後に、ニシダさんの中でお笑いの仕事と小説の活動がどのように関係しているか、お聞かせください。

ニシダ:お笑いの場合、例えばラジオの収録の後にテンションが上がって寝れないこともあるんですが、小説は書いた後にローギアになることに驚きました。執筆の時間の次にお笑いの仕事が入っていると、テンションの切り替えが難しいです。小説を書くのは楽しいので、ずっと続けたいと思っています。お笑い芸人をやっていますけど、しゃべるのが得意じゃなくて(笑)。人とコミュニケーションをとるのもあんまり上手な方じゃないので、時間をかけて文章で書いた方が言いたいことが言えるんです。そういう意味で自分に馴染む表現方法なんだと思っています。

――ありがとうございました。


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