第20話 落とし穴の罠

 翌日は一般教養の日だったので、のぞみは桜や松とのんびりと授業を受けていた。はじめ時間割を聞いた時には、どうして1日ごとに一般教養と選択授業の日を交互にするのか疑問だったが、実際に受け始めてみると一般教養の授業が良い息抜きになるような気がしていた。選択授業はかなり覚えることも多く実践も多いので、そのための準備も大変だし、授業を受けた後の疲労感も強いのだ。


 そして今日の朝、やっと委員長に会うことができた。委員長にスペシャル授業について聞いてみたところ、スペシャル授業はN組に入る人は皆希望するため、はじめから希望欄にチェックを入れていたらしい。どうやらクラス分けもある程度の専門に分かれてのクラス分けになっているらしかった。

 とはいえスペシャル授業がどのような授業なのかは、委員長もお楽しみ、と言って詳しくは教えてくれなかった。ただ、きっと役に立つからとっておいて損はないよ、と言っていたので、のぞみは皆と一緒だし良いかな、と軽い気持ちで了承してしまった。桜も松も一緒だし、どうせ明日になれば内容も分かるのだから。



 

 放課後になり、図書棟で本を借りたのぞみは一人、図書棟から一般棟の教室に戻ろうとしていた。図書棟に来るまでは桜が一緒にいたのだが、どうしても工業棟に課題を提出に行く必要があり、図書棟で待っているように言われて、桜とは別れていた。


 桜ちゃんも護衛なんて大げさだな。桜ちゃんが来る前に教室に行って二人分の鞄を持ってこようかな。


 のぞみは思っていたよりも早く自分の借りたい本が見つかってしまったため、桜と約束時間まで時間があることを時計で確認すると、一緒に帰るために二人の鞄を取りに、一人一般棟へ戻ろうとしていたのだ。



 特技科にも慣れてきたかな~……とはいえ、やっぱり広いなぁ。歩いているだけでも体力付くかなぁ。最近、清三さんの家からアイスをもらうから太ってきちゃった気もするし。


 その日はとても天気が良く、もう少しで日も暮れるからか空が赤く染まり始めていた。

 

 空が赤くなるってことは、明日は晴れってことだったかな?


 そんなことを考えながらのぞみはのんびりと校舎の間を歩いていた。



 きゃっ!!!!


 のぞみの前に出した右足が、土を踏みしめることなく、すとんと下に落ちた。その瞬間、のぞみの身体は平衡感覚を失い、前に倒れてしまう。


 どしん!!

 え!?……痛い……


 のぞみは気づいたら1mくらいの穴に落ちていた。


 ???

 どういうこと?何があったの?


 のぞみが周りを見渡すと後方に図書棟の校舎が見える。そして自分は直径1mくらいの穴の中にいるのだ。どうやら穴に落ちた時に膝をすりむいて、右足首を軽くひねってしまったらしい。


 どうして……学園にこんな穴があるの?


 のぞみはそう思いながら、穴から出ようと起き上がり、穴の上の土に手をかけた。


 う……運動神経が悪いわけじゃないんだけど……身体が重い気がする……


「あれ?清三の嫁さんじゃない?」

 男性の声にのぞみが上を見上げると、清三の友達の赤田豪がのぞみを見下ろしていた。

「あ……」

「なに?落ちちゃったの?」

 豪はのぞみをのぞきこむと、のぞみの両手をつかみ、穴から引き揚げてくれた。それはまさに、ひょい!という感じで、軽々とだ。


 ち……力強い……


「ありがとうございます」

 のぞみは穴から上がると豪へお礼を言い、頭を下げた。

「あぁ、それにしても穴がねぇ……」

 豪は穴を見て少し考え込んでいる。

「誰かがいたずらで掘ったのでしょうか?」

「いや……まぁ……そうかもな」

 豪は笑顔でのぞみに返した。


 いたずらにしても……こんな大きな穴を学校に掘るなんて、危ないよ


「これからは気を付けます」

「そうだな、まぁ良かったよ」

 そう豪はのぞみに言うと、笑顔でのぞみの頭を撫でてくれた。その手の大きさは清三と同じくらいの大きさだった。誰かに頭を撫でられるのは久しぶりで、のぞみは少し赤くなってしまった。


「のぞみちゃん!」

 のぞみが横を向くと、図書棟の方から桜が走ってくるところだった。どうやら焦っているような表情に見える。

「あ……桜ちゃん」

「のぞみちゃん、何が」

「あ……ごめん。早く用事が終わったから、桜ちゃんが来る前に鞄を持ってきておこうかと思って」

「それは……」

 桜はのぞみの全身を見た後に、のぞみが落ちていた穴を見た。

「なんだか……誰かのいたずらみたいで……落ちちゃった……」

 のぞみは自分で桜に説明をしながら、穴に落ちたなんて恥ずかしいと思っていた。

「怪我までして……大丈夫ですか?」

 桜の表情は心配そうだ。

「うん、大丈夫だよ」

「今日は、車を呼びましょう。怪我があると大変なので病院に見てもらいます。近くの病院がこの学園のかかりつけなので」

「え……」

 のぞみはあわててしまう。

「そうだな、そのほうが良いな」

 豪は桜の意見に賛成のようだった。

「赤田様、のぞみちゃんを助けていただきありがとうございました」

 桜は豪に対して頭を下げる。

「まぁ、大変だと思うけど、お前も気をつけろよ」

 豪はそう告げると、笑顔で手をあげ図書棟の方へ歩いて行ってしまった。豪が歩いて行ったのを見送ると、のぞみは桜に改めて謝った。

「ごめんね、桜ちゃん」

 桜のために良かれと思ってしたことが、逆に桜に迷惑をかけてしまったのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る